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愛に重さがあるとして

「愛に重さがあるとして、そうね、それはこれくらいだと思う。」

と、彼女は手元にあった生卵をひとつ、俺の手に乗せた。

キッチンカウンターにはカゴに積まれた卵と、空のボウルがひとつ。まな板の上に刻まれたトマトが行儀良く並んでいる。火にかけたフライパンの底には刻んだベーコン、バターと冷凍のミックスベジタブルがじわじわと溶け出して、ジュワジュワと小さく音を立てる。

「……これだけ?」

「軽いと思う?じゃあ、こっちも持って。これは、私。」

もうひとつ。俺の手に卵を乗せて。彼女は笑みを浮かべる。

「これで、お手玉してみて。」

「……これ、生ですよね。」

「そうよ。」

「うぇ。……わりそう。」

右手の卵と左手の卵、どちらも手放すことができずに、それを軽く握った形のまま、俺は肩をこわばらせた。ついさっき、渡されたときには軽く感じたそれが、随分と重く壊れやすいのもに思える。

少しでも手元が狂ったら、この卵は割れて、取り返しのつかないことになる。

「そう。大事なのは重さだけじゃないの。」

俺の手から卵を取り上げると、彼女は器用に片手で卵を割ってボウルに中身を開けた。ひとつ、ふたつ、カゴから取り上げた卵もいくつか追加して、菜箸で遠慮なく解きほぐす。

俺と、彼女と、知らない卵が混ざる。すっかり混ざったそれがフライパンに流しこまれるのを眺めながら、俺はますます「愛なんてわからない」と思った。


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かのこ
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