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ー12ー 自殺願望と夕陽

2020年7月1日

その日私は休みだった。昼まで雨が降っていたので私は部屋でのんびりと過ごしていた。夕方、いつの間にか雨は止んでいて、部屋に夕陽が差し込んだ。私の部屋はベランダに通ずる窓の他に、角部屋であるため西側に小さな窓がある。

私はベッドに座り、窓から外を覗き込むようにして夕陽を見ていた。ただボーッと眺めていた。

そこでふと思った。「私って何の為に生きているの?」「何のために頑張っているの?」「そもそも頑張れているの?」「奨学金を返済する為に頑張っているの?」「私は何を求めているの?」「私は何がしたいの?」と。

イメージで言うと“生きたい”と“死にたい”が左右に乗ったシーソーが右側に傾いたような感覚。今までもいくつもの試練を乗り越えてきたと思っていた。神様は乗り越えられない試練を与えない、と何処かで聞いたような覚えもある。

だが、私の中で何かがプツンと切れたかのように“死にたい”ほうにシーソーが傾いた。実は、こうなる要因の大きなきっかけであったもう1つの“試練”があった。あるTという男性との出会いだ。それについても言葉をつらつらと並べておこう。


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出会いはいわゆる出会い系アプリだった。丁度“Aさん”と同じ時期に会った男性(T)である。コロナで世界が騒がしくなる前に出会った男性だ。Tとは音楽の趣味がよく合い、一緒にライブに行く約束をしてチケットも既にとっていた。(コロナで来年に延期になったのだが。)

Tはアプリで見ていた写真以上に良い人で、話もよく合った。私の元彼と別れた経緯をネタとして話せるくらいだった。店じまいの時間になり、Tよりもう一軒行くか?帰るか?それともT宅で飲み直すのもアリだ。と提案してきた。

中々にいい時間で、もう一軒行くと確実に終電を逃すと私は伝えた。選択肢は2つになった。Tは私に選択権を与えた。与えられたのは初めてで、戸惑い、悩んだ。

結局私はT宅で飲み直す方を選んだ。それがT宅にそのまま泊まる=身体関係に繋がる、という意味を含めて。

T宅で飲み直し、別々にシャワーを浴びて寝巻きを借り、シングルベッドに2人で潜り込んだ。優しいキスをどちらともなく始めて。

Tはとても優しかったが、それ故に私には少し物足りないセックスだった。翌日、私は仕事が休みだが、彼は仕事で。初対面である私に部屋の鍵を置いていった。ゆっくり寝ていて良い、鍵はポストに入れておいてくれたら良いから、と言葉を残して出勤していった。

私は唖然とした。不思議にも思ったし良いのか?と思いつつTの言葉に甘えて、もう少し寝かせてもらい、私は家主のいない部屋でゆっくり支度を始めた。借りた鍵でドアを閉め、言われたようにポストに入れた。

正直、ライブに行くのは良し、チケット代は私が2人分払っており、そのお金を回収したらTとの関係は“いいかな”と思っていた。きっとセックスの印象があまり残らなかったのかも。


コロナ禍の中、転職したがコロナの影響で自宅待機で暇だと言う、私が高校生の時にバイト先が一緒だったNちゃんと、よくテレビ電話をしながらお酒を飲むことがあった。

すると2人で会話するネタに尽きたので、「他の、バイト時代の人ともテレビ電話してみようよ。」となり、招待してみたが忙しいのか誰も入ってこなかった。

お酒に酔っていた私は唐突に、「暇そうでテレビ電話に入ってくれそうな人がいる。」と言いTを招待してみた。するとTは入ってきたのだ。しばらく3人で話していた。とても楽しかった。

勿論、Nちゃんには事前に「Tはアプリで知り合った人」である事を説明していた。それから「彼女が直ぐに欲しいっていう訳じゃなくて、出身が地方だから友達があまりいなくて、それでアプリを利用しているんだって。」とつけ加えて説明しておいた。

その時まだ私はTに対して特別な感情を抱いていなかった。ただ、何となく思い浮かび、招待したらTが入ってきてくれたのだ。

その後ある日、今度はTより「この間突然招待してきた仕返しで、こっちで今リモート飲みしてるんだけど、入らない?」と招待された。入る側は相手方の友達を知らない訳で、それってとてもドキドキして勇気がいるものだな、と思いながらも私はその場に加わった。

結果とても楽しい時間だった。色々な話が新鮮で面白かった。そのTの友達をCと呼ぶ。Cは地方に住んでおり、Tとは高校生の時の同級生だということが分かった。TとCもコロナの状況で在宅で仕事をしているということが分かった。Tは私をここに招待した理由をCに話すと、それじゃあ今度はNちゃんも含めて4人でリモート飲みをしようという話になった。

その頃、丁度あるゲームが流行っていて4人でよく通信しながらテレビ電話で会話しつつお酒を飲んだ。それは頻繁に行われ、3人でやる日もあれば4人でやる日もある、といった具合だった。

私の誕生日前日には、いつものように通信しながらテレビ電話をしていて。日付が変わった瞬間に3人が祝ってくれた。とても嬉しかった。Nちゃんが「お祝いに、Cは地方だから無理だけど、今度T宅で3人で飲もうよ。」と提案してきた。6月の上旬にそれは決行された。

私が先にT宅に到着し、Nちゃんが駅に着くまで待っていた。その間に“何かあるだろうか?”と淡い期待もしたが、Tは残業しており何もなかった。Nちゃんを駅まで2人で迎えに行き、3人で乾杯した。

酔いも適度に回り、家主を筆頭に順番にシャワーを浴びた。”寝るときはどうするんだろう?“と思っていたがあろうことか3人でベッドにダイブしていた。私は真ん中にいてNちゃんを抱き枕のようにしていたらTが私の背中に覆いかぶさる、なんて馬鹿げたことをしていた。

その時に、Tが私の指をなぞるようにして触ってきたのだ。(後に聞くと当人は全く覚えていなかったのだが。)私はとても変な気分になった。

私も酔いも回り、いつの間にか眠っていた。  何か嫌な夢を見たのか明け方にハッと目覚めた。汗をかいていた。そしてベッドに誰もいないことに気付いた。まだアルコールが抜けきっていない、重たい頭をぐるりと回して辺りを見回すと、床のラグの上でNちゃんとTが向き合って抱き合うような形になっているのに気付いた。私は何故かTを盗られたような感覚を覚えた。自分のものでもないくせに。

それを横目に見ながら私は起き上がり、トイレへと向かった。戻るとTはベッドへ移動して横になっていた。そこで私は思った。“あぁ、起きてたんだ。”と。何だか更に胸がザワついた。

私はTのいるベッドに潜り込めずに、かといって床に寝転ぶこともなく、ベッドに頭だけ預けてしばらくボーッとしていた。

Nちゃんの髪をふと撫でた。それに気付いたNちゃんとしばらく他愛のない話をした。そしてNちゃんは眠りについた。

それでもしばらくボーッとしていると、Tに話しかけられた。ここでも他愛のない会話をしているとTより「こっちおいでよ。」と言われベッドに横になった。私はそう言われるまでそのままでいたのだろう、言われるのを待っていたのだろう。

横になった私はTのお腹辺りを見ながら考えた。この胸のザワつきは何だろう、何故ザワつくのだろう、とぐるぐる考えながら眠りについたが、眠ったような気がしなかった。

起きるともう昼になっていた。Tは既に在宅で仕事を始めていた。私は真っ先に身支度を始めていた。今日は午後の4時にリハビリの予約をいれていた。余裕で間に合う時間だったが、早く身支度を終えたかった。Nちゃんは「もう帰るの?」とギリギリまでゴロゴロしていたい様だった。そこで私は気付いた、私はこのザワつきから早く抜け出したいのだと。

帰った後も1人でモヤモヤする時間が続いた。何故私はあの時ザワついたのか?NちゃんがTのことを好きにならないか?それを恐れているのか?

意を決して私はNちゃんに全てのことを話した。ザワついた事からモヤモヤしていることまで。Nちゃんは特にTに対してそういった感情はなく、今まで画面越しで顔を合わせていた人が現実にいた、という感覚であった様だ。それを聞いて私は安心したのだ。

そう、安心したのだ。この時点で私はTのことが“気になる男性”ではなく、“好き”に限りなく近づいていて、付き合えることを望んでいた。だが、当時の私はそれに気付かない振りをしていた。Nちゃんには「ちゃんと私がTのことを好きになったら言うね。」といった。

その後も何事もなかったかの様に4人でのリモート飲みは開催された。一夜を共にした3人で開催されることが多かった。私はNちゃんとTと飲んでいてTがトイレで席を外している時に「この間は急にゴメンね。」と改めて謝った。戻ってきたTがその事を疑問に思っていたが、はぐらかした。

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