布団着て寝たる姿や東山
2008年11月4日
ふとんきて 寝たる姿や ひがし山 嵐雪
目覚めると東山三十六峰の中の、ほぼ半数の山が見えた。
東本願寺の御影堂が「平成の大修理」によって覆われ、眺望を隠しているけれど、言ってみれば長い歴史の上では貴重な光景であり、珍景には違いない。
「ふとんきて 寝たる姿」は平易で理解しやすいせいか、今日まで人口に膾炙されている有名句だ。
俗に流れてしまっているきらいはあるが、「布団」を持ちだした、言い得て妙な表現が手柄なのだろう。
「布団」は冬の季語だから、句のイメージも簡単に共有できる。
むめ一輪 一りんほどの あたたかさ
服部嵐雪の句はわかりやすい。
蕉門十哲の中でも、其角と双璧を成す素晴らしい俳人だ。
網のガラス窓はせっかくの景観に水を差すが、たぶん修学旅行生にも対応している宿だからなのだろう。
多少のおふざけにも割れにくく、飛散も防げるからゆえの採用と見た。
私は東山と対峙してつぶやく。
「布団には見えないけどなあ」
朝食は大広間に用意されていた。
この隙を狙って部屋の布団を上げるのだろう。
夕食時と同じで、やはり箱膳で食べるようになっている。
和風旅館定番の、基本的な品が並んでいる。
京都らしさをいえば、水菜の入った湯豆腐がそれらしいかなと思うけれど、朝のメニューとしては胃に優しい内容である。
友人に、寝起きからわずか5分でステーキやかつ丼を食べる男がいるけれど、その某君の胃袋はいったいどのような構造だろうかと、ふと思い出した。
反対に最近の私の朝食といえば、もっぱらコーヒーにトーストだから、何だか新鮮味を覚えないこともない。
納豆があればご飯のおかわりも出来そうだが、関西では無理な相談か。
差し向かいである。
昨夜の反省の元に、湯豆腐で妻と差し向かい、という状況は歓迎するところで、これが四畳半の夕食時であれば、しっぽりとして好ましい状況だけれど、ここは大広間である。
しっぽりではなく、黙々と箸を動かすことに専念する。
9時前にチェックアウトする。
ツアコンの大役を任されているので、妻は何も考えず、ただ私の立てたスケジュール通りに行動するだけである。
こんな楽をしていて申し訳ないと思わないのだろうか。
登山なら、メンバー全員が行動予定を把握していなければ遭難の危険があるけれど、ここは大都会京都であるから、こうして鷹揚に構えていられるのである。
京都で遭難したら、これはかなり恥ずかしい。
とチラと考えたら、ごめんねと囁かれた。
顔に出たか?
以後気をつけよう。
京都を後にするのは昼過ぎなので、それまで宿で荷物を預かってくれるらしい。
これで身軽で行動できることになった。
五条駅は徒歩ですぐの距離だ。
その昔、乗り鉄だった私の提案で、市営地下鉄での移動である。
まだ市内を市電が走っていた頃を回顧するのだが、どうも曖昧としていて、記憶が引き出せない。
それにしても初乗り運賃が210円とは高い。
福岡市営地下鉄もそうだったが、自治体が運営すると、どうしても料金設定が高くなってしまう。
都営地下鉄の場合も同様だが、都営では東京メトロと競合する区間も多く、選択の余地がある。
それだけにちょっと210円が気になった。
五条といっても堀川、烏丸、河原町などがあって、旅行者にはわかりにくいが、ここは烏丸通の五条である。
一般的に観光で東京に出て来る人を「お上りさん」というが、京都観光をする人こそが、正しい意味での「お上りさん」だろう。
6両編成が基本のようだ。
まだまだ利用者が少ないということなのだろう。
太秦はわかるけど、天神川がどこなのか、「お上りさん」には不明である。
早く10両になって運行する日を期待しよう。
撮るタイミングが少し早かった。
昔の「撮り鉄」の腕も落ちたものだ。
車両にコレといった特徴はなく、車両が6つ繋がってやって来た。
運ばれて行く京都市民の皆さん。
カラーリングは東京メトロの東西線を彷彿させる。
四条御池で、烏丸線から東西線に乗り換える。
幾つかの都市に地下鉄があって、どこも「東西線」を名乗る路線がある。
都民の私は錯覚を起こし、西船橋行きや中野行きがないので、何だか奇妙だ。
これすべて、地下を走る地下鉄のせいである。
京都人は、市民と観光客を簡単に区別できると聞いたことがある。
今日は連休明けの平日。
我々を無視しているように見えるけれど、平日に勤労もせずに観光をしている我々は、おそらく苦々しく思われているのだろう。
東西線で西に向かい、わずか数分で二条城前駅に到着した。
駅構内にある自販機。
噂には聞いていたが、これが災害時に無料で利用できる自販機だ。
災害でまず思い浮かぶのが地震。
電力供給がストップした場合は大丈夫なのだろうかと心配する。
災害に対応しているのだから、その辺に抜かりはないと思うけれど、果たして地震を感知したら、瞬時に手動か自家発電へ切り替わるのだろうか。
試しに体重を掛けてユッサユッサと揺らしてみたい衝動に駆られるが、もちろんそんなことはしない。
地上に出ると、そこは二条城だった。
宿に荷物を預け、こうしてやって来たのだから、当然、これから二条城を見学するのである。
「お城まつり」とは一体どのようなものか。
とにかく続く。