阿弥陀堂だより

2005年9月9日




北林谷栄、寺尾聡、樋口可南子主演の映画。
飯山市の山里にある方丈のオープンセットを解体せずに一般公開している。
無料で誰でも入れるのだが、各所に塩ビのパイプなどが多く使用されている。
眺望は良いのだが、真裏に陰気な藪があり、住環境はあまり良いとは言えない。
人生を達観した世捨人向き物件の印象だ。
もちろん売りには出ていないが…。

人間稼業を長く続けていると様々なものが溜まる。
お金が貯まれば良いのだが、我が身の周りには不必要なものばかりがあふれ返っている。
それは物であったり、時に人間関係であったりする。

そしてこの方丈の庵である。
必需品だと信じて疑うことのなかった生活用品。
例えば電化製品や車がそうだ。
パソコンも然り。
不便には違いないが、無くてもどうにか暮らして行くことは出来る。

歳と共に溜まるものは、本来、逆に歳と共に減らして行くべきものなのではないか。
小難しいことを言うつもりはないが、無くても済むものは無くて良い。
余分なものを削ぎ落として行くと、たどり着くのはこんな環境での暮らしかも知れないと思った。

映画は四季の移ろいを淡々と描いていたが、大きなストーリーがある訳ではない。
事件と呼ばれる類のことは何も起こらない。
何も起こらないといえば花袋の「田舎教師」もそうだ。
目立たず驕らず羨まず、そんな一生を全う出来たらどんなに素敵だろう。

この阿弥陀堂を訪れたのも、それらの憧れの擬似行為だったと言える。

快適な田舎暮らしの定義は人それぞれ。
今の私は煩わしい人間関係も含めて周りの余分なものと決別し、里山でこんな庵を結んで不便を楽しむゆとりが欲しい。

もっとも豪雪地帯ゆえ、こんな悠長な考えは甘い。
それでも北信濃の良さを、しみじみ思う季節だ。

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