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転職エージェントはポートフォリオクラッシャー

前回ご紹介したとおり、ポートフォリオは作り方、使い方によっては絶大な効果を発揮します。

しかし、予期せぬところでその効果が奪われてしまうことがあります。

それは、転職エージェントによる改悪です。

この改悪によって応募者が費やしてきたすべての時間が水泡に帰します

以下に紹介するのは、自分が転職するときに実際に起きたことや、逆に自分が採用書類を見る仕事をしていたときに起きた出来事です。

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1. 勝手にファイル分割+過剰な画像圧縮

これは私が実際にされてしまったことです。

私はPDFで全40ページほどのポートフォリオデータを作成していました。
容量としては10MBほどでしょうか。このページ数にしては軽いほうだと思います。

このデータは、転職エージェント経由である企業に応募しました。

すると、しばらくしてエージェントから連絡が来ました。

「ファイルを4分割してなんとか応募できました!結果をお待ちください!」

(4分割・・・?)
最初、エージェントが何を言っているのかがわかりませんでした。

「分割ってどういうことですか?」

とエージェントに聞くと、

「企業様にお送りするファイルサイズは通常2MB以内にしています。ほうじ様からいただいたファイルを4つに分けて、さらにできるだけ圧縮したんです!」

という返答がありました。背筋が凍りました。

そんな加工が施されたデータが、評価に耐える品質を保持しているとは思えません。
もちろんエージェントに悪意はありません。なんなら少し誇らしげです。

メールに添付するデータのサイズに気を配ることは当然私も承知していますが、それによって評価対象物の質を低下させるのはあってはならないことです。

画像が多いポートフォリオを2MB以下に抑えることは、よほどページ数を制限しなければ難しいでしょう。

急いでエージェントに連絡をしました。

「至急、そのファイルで採用評価をしないように先方に伝えてください。
あと、その分割されたデータをわたしにも送ってください。」

そして、エージェントから転送してもらった加工後のデータを見て愕然としました。

分割されたファイルは無作為な位置で途切れており、ページをめくるリズムもなにもあったものではなくなっていました。
さらに画像の荒れ具合などを考慮せずに圧縮されたデータは、元とはかけ離れた画像になっていました。


※上記画像はイメージです。左が元の画像、右側が鬼の圧縮をかけた状態。

メールに添付する常識的なサイズを守ることと、応募書類の質の高さのどちらがデザイナーの採用に貢献するでしょうか?
私は明らかに後者だと考えます。

実際、書類に目を通す採用担当者はどのようにデータが送られてきたかなんて知らないことが多いでしょう。
事前情報がない彼らにとっては「このデザイナーはデータづくりに対する正しい知識がない」と判断される材料になってしまいます。

結局その後、元のファイルをファイル転送サービスを利用してお送りさせていただきました。

後々話を聞いたところ、先方の企業からファイルサイズの指定があったわけではなく、そのエージェントの社内規定で応募先企業におくるファイルサイズの規定があるということでした。

その規定はおそらく、デザイナーなどの大きな容量のファイルを扱う職種のことを考慮されていないでしょう。

今後転職活動をする予定のデザイナーの皆さんは、転職エージェントを通じてファイルを送信する際は、「このデータのまま転送してほしい」もしくは「ファイル転送サービスを通じて送信させてほしい」ということをあらかじめ伝えたほうが、このような間違いは起きにくいでしょう。

2. スキャン+90°回転問題

これは、逆に私が応募書類を見る側だった時に起きた出来事です。

何故か、ポートフォリオのデータを一度レーザープリンタで印刷して、それをスキャンしたようなデータが送られてきたことがありました。

意味がわからない。
私を含め、応募書類を確認していたデザイナーたちは皆戸惑っていました。

「こんな大胆にデータを劣化させることに、いったい何の意味があるんだ」

「意図がわからない」

さらに、スキャンしたまんま送ってきたのか、横配置だったファイルが縦配置になって送られてきました。滅茶苦茶読みづらい。

「正気の沙汰じゃない」

「ここまで来るともはや嫌がらせ」

ふと、スキャンしたデータのなかに、黒く塗りつぶされたところがあることに気づきました。「なんだこれ?」となり、そこで初めて、エージェント経由で応募者に確認することにしました。

すると、エージェントから驚きの返答がありました。

「あ、ポートフォリオの中に応募者様の個人情報に関わる内容が記述されていましたので、こちらで読めないように黒く塗りつぶす対処いたしました!

この時も、何故か彼は誇らしげです。

この話を聞いた我々は膝から崩れ落ちました。
そして立ち上がり、

「適正な判断ができなくなるので、スキャンも、黒く塗りつぶすのも今後絶対にやめてほしい。もし、内容に法的な問題があるのであれば応募者にそれを指摘し、データを変更してもらったうえで書類を送り直してほしい。」

と伝えました。
その応募者のデータは修正され、無事適正な採用試験を進めることができました。

しかし、この応募者以前にもそのエージェントからは似たようにスキャンされたポートフォリオのデータが送られてきていたことがあります。

その時はやはり「データの作りが悪すぎる」という要因もあり、応募者の印象が悪くなっていました。

結局その応募者の不手際ではなく、エージェントによる改悪によって応募者は内定から遠ざかったかたちになりました。

おそらく、応募者であるデザイナーと採用する企業が直接やりとりしていれば、そのようなことは起きなかったでしょう。

つまり、転職を助けるはずのエージェントによって、転職が失敗したデザイナーもいるのではないかと想像してます。

善意による行動かもしれませんが、不幸を生む結果になりました。

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以前の記事でも書いたように、ポートフォリオは書かれている内容だけではなく、そのデータがいかにして作られているかも重要なプレゼンテーションのポイントです。

デザイナーは心血を注いでポートフォリオを作っています。転職は自分の人生に大きな影響をあたえるものですから当然です。また、ポートフォリオを完成させるためには、職務経歴書とは比較にならないくらいの膨大な手間がかかっています。

履歴書や職務経歴書よりも数倍重要な書類なのです。

もし、転職をサポートする仕事をされている方がこの記事をご覧になられていたら、それくらいデリケートな応募書類だということを何卒ご理解いただきたい。

なにより、応募者に無断で書類を改変しないでいただきたい。絶対に。

「些細なことだ」と思うことでも駄目です。
例えば、ファイル名の変更も駄目です。変更が必要な場合、必ず応募者に確認の連絡をしてほしい。

この応募書類に対する考え方は何もデザイナーの採用だけに必要なものではないと思います。
応募書類の持つメッセージを効果的に採用企業へ伝えるにはどうするのがベストなのかを検討することは、内定率を上げるためにも効果的なはずです。

その点、デザイナーは「目的の相手に意図を伝える」ということを毎日考えている職業です。ある意味、普段の仕事と同じように、訴求すべき相手に伝わる表現や手法を考えているはずです。

転職するデザイナーの皆さんには、自分のつくったポートフォリオなどの書類が、自分の意図したとおりに相手に届くまで、気を緩めずにフォローすることを強くお勧めします。

デザイナーの皆さんにはやりすぎなまでに気を配っていただき、悔いのない転職活動をしていただければ、と思います。

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