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チエホフを 読むやしぐるる 河明かり

森澄雄の処女句集「雪櫟」の中の一句。

この前出会ってしまって、一目惚れしました。
時雨の中チエホフを読み疲れて目を外した先に見える川の反射。
はっきりと景色が想起できます。

実はこの句に出会った場所は現代文の入試問題なのですが、頭から離れないのです。
その文章には自分の地元の地名まで出ていて、郷愁というかそんなものを、まだ地元を離れてもいないのに感じました。


この句の設定している地はどこなのでしょうか。
俳句だからといって日本に拘りますか?そのバイアスが掛かるのはごもっともです。
ですが、モスクワでもプラハでもサンフランシスコでも、筑後平野でもすべてに当てはめても違和感のないような気持ちがあります。

それとどこか厭世的な少年の青春さえも感じ取れてしまいます。
「桜の園」なのか「三人姉妹」なのか、どのチエホフかは分かりませんが、戯曲なのは確かでしょう。

私は有明の海に臨む大河の河明りが映りました。行ったこともないのに。


「雪櫟」は森澄雄の人間性の探究の始まりです。妻子との関わりも感じられる句が多くあります。

「をみならに いまの時過ぐ 盆踊 」
娘たちが盆踊りを踊っている。この瞬間から彼女たちは成長していく。

毎年やってくる行事が毎年の成長を象徴している句です。


「雪櫟」の最後の句は

「除夜の妻 白鳥のごと 湯浴みをり」
除夜の鐘が鳴る大晦日、妻は白鳥のように湯浴みをしている。

白鳥の比喩から白い肌、透き通ったものを感じます。
1年の終わり、年越し寸前に1年の妻への感謝を表した愛情溢れる句で処女句集は終わります。


素朴で分かりやすくて、人間性が感じとれる。そんな句一つ一つに魅力を感じました。
そんな生き方を私もしたいです。
久しぶりのnoteでした。

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