設計事務所つれづれ~新型コロナウイルスが変える生活とは~
設計事務所を15年経営しています1級建築士Merzです。
今回は「新型コロナウイルスが変える生活」について、設計事務所目線でまとめてみたいと思います。これまで、たぶん1000件を超える住宅のプランを作成し、500件を超える住宅の新築やマンションリフォームに取り組んできました。その情報をもとに、これから起こりうる生活への支障をまとめてみます。
1.住空間での防疫の仕方(帰宅時の手洗い)
いままで住み慣れた住宅。そこに訪れた新型コロナウイルスの脅威。これまでの生活の仕方を大幅に変える事態が起きています。
見えない敵(新型コロナウイルス)との戦いは、場所を問わず考えなければいけません。自宅待機が増える一方、経済も動かさないといけない世の中となり、メディアでも「ウイルスとの共存」を提唱するようになりました。
ことに住宅内で家族のどなたかが感染者となってしまうと、一気に生活は変わります。そうならないよう、やはり自分の住む場所について詳しく理解し対応していくことが重要となります。
防疫には「マスクの着用」「こまめな手洗い・うがい」が有効とされています。住宅内にウイルスを持ち込まないようにすることが重要となり、そのためには帰宅時からリビングなどの主要な部屋へ入るまでの「動線計画」を考えることとなります。
帰宅してからリビングへ着くまでの行動を見直してみましょう。
帰宅時、まず玄関から入ります。玄関に手洗いができる設備が整っておればよいのですが、日本の住宅ではほとんどありません。あるとしても玄関の外に水栓があるくらいで、ここまでこまめに「手洗い」を意識した作り方はされていません。手洗い設備を玄関に設ける、ということはそう簡単にはできません。給水配管はおろか排水配管などの整備が必要となります。マンションについては排水配管ルートに制限があるため、玄関に手洗いを設けるなどはより困難な工事となります。
2.住空間での防疫の仕方(着替え)
これからの生活では「住戸内にウイルスを持ち込まない」ことが重要となり飛沫感染だけの防疫でなく、衣服などに付着したウイルスへの対策も必要となります。先ほど書きました「生活動線」を意識すると、玄関→手洗い→着替えを行うことも重要となります。
着替えを行うには、そのための空間が必要となります。洗面室であったり、着替えるための部屋が玄関近くに欲しいところ。日本の住宅設計においては、玄関などは日が当たりにくい方角(北・西側など)に設けることが多く、浴室や洗面室も同様に「日が当たりにくい」方角へ設けられていることが多いです。防疫という観点では玄関近くに洗面脱衣室などが存在すると有効に働くのでしょうが、ここばかりを意識すると住宅のプラン(間取り)は固定化し自由度が下がってしまします。
洗面脱衣室を無理に玄関先に設ける以外に、玄関近くに「ウォークインクローゼット」を設ける方法も有効かと思います。室内住空間と外部からの境界線を明確にし、ウイルスの侵入防止ラインを理解することも有効かと思います。
感染の可能性があるもの(衣服や外部から持ち込むもの)を防疫ラインより室内に持ち込まず、除菌するスペースを決めておくことで、住戸内での感染率は下げることが期待されます。
3.住空間の換気ルートを考える
手洗いのほか、防疫として有効なのが「換気」です。
換気について勘違いされている方も多いのですが、換気は「外の風の強さ」では有効な換気は行われません。
換気は「温度差による空気の移動」と「機械による強制換気」のいずれかによるものとなります。
温度差による換気は、空気の温度差によるものです。暖かい空気は上昇し、冷たい空気は下降します。その原理を利用して室内の空気は循環し換気されます。
夏場は日の当たる場所は温まりやすく、日陰は空気が冷たいままとなります。暖められた空気は上昇するので、冷たい空気を引込ます。ということは、日中に暖められる側の窓を開放し、逆に日当たりの悪い部屋などの窓を開放すると、効果的に室内の空気移動が行われます。できれば、暖かい空気は窓上部で放出され、冷たい空気は窓下部より引き込まれるので、窓の高低差を利用することも効果的です。
1階にある、日の当たりにくい場所の窓を開け、2階にある窓を開放するとより有効な換気が行われます。
冬場では、外部の空気温度のほうが室内より下がるため、窓を開けることにより外部の空気は室内に取り込まれるようになります。この際も、できる限り上部の窓(日当たりのよい2階窓)などを開放することで新鮮な空気を取り込み室内空気を外部に放出することが可能となります。
機械換気(換気扇等)による換気は、元から建築基準法により「居室内は24時間のうちに0.5回以上の換気を行うこと」という法律があり、住戸に関しては一戸建て住宅もマンションも「24時間換気用換気扇」が設けられています。その換気扇を活用し、住戸内の換気を行うことで感染リスクを下げることが可能ですが、やたらと換気扇を動かすことは電気代にも影響しますし、特にマンションなど機密性の高い住戸だと、換気バランス(給気量と排気量のバランス)が悪くなります。マンションの1階などは、元から「煙突効果」による建物内での気圧低下が起こりやすく、さらに換気を行うと給気不足となり、ドアが開けにくくなるとか、外部サッシの隙間から風切り音が発生するなどといった現象も起こりやすいので、機械換気の場合は給気量について考える必要があります。
4.まとめ
今回は住戸内の防疫を考え、これからの住空間のとらえ方を考えるヒントとして書きました。今、お住いの住戸を新しい生活に合わせることは難しい部分もあろうかと思いますが、これから住まいをお考えの方、またマンションのリフォームなどをお考えの方は、生活動線と住戸内の換気について考えていただけると幸いです。
次回は「新しい生活に向けたリフォームの考え方」をまとめてみようと思います。
読んでいただきありがとうございました。
https://www.houzz.jp/pro/cazarchi
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