AC持ち。如何にして「こんなもの」が生まれたか。
おはようございました。Ushinekoです。
ACV(アーマード・コア V)で生み出した「AC持ち」という概念について語ります。
AC持ちとはなんぞや。
AC持ちとは、ざっくり説明すると「ゲームコントローラーを裏表逆に持って操作する」というコントローラーの持ち方のことです。
このような独特な名称のついたコントローラーの持ち方としては、人差し指で平面部のボタンを操作する「モンハン持ち」などが有名です。
結論から申し上げますと、このAC持ちが生まれた理由は、巷で言われておるような「操作する指が足りないから指を増やした」では、ありません。
では、なぜ「こんなもん」が生まれたのか。その経緯をお話しします。
前提。こんなもんが必要になった理由の説明。
アーマード・コアというゲームがありまして、簡単に言うと「外装から内装・武装に至るまで、自分で選んで組んだロボットを操って戦おうぜ!」というゲームです。
ファン全体の人数と比べてクッソ濃ゆいコアなファンの割合が激烈に多い魔性のゲームでもあるんですが、そこらへんの話は本題と関係ない上に長くなるので割愛。
さてこのゲーム。プレイヤーの操作量がハチャメチャに多くなってます。
ざっと例を挙げるだけでも……(読みとばしていいです)
……と、まあこんな感じで操作しなきゃいけないことがとにかく多い。多すぎる。
たまにしかやらない操作ばかりならまだいいが、このゲームで戦うには上記で挙げた操作の殆どを高頻度で、かつ同時に操作しなければなりません。
その上、今作は(前作・前々作あたりからの傾向として)わりとゲームスピードが速く、「ハイスピード・メカ・アクション」なんて呼ばれる程度にはビュンビュン飛び回りながら撃って避けて飛んで跳ねてをするゲームなので、もうコントローラーのボタン全部がフル稼働。指は高速でマルチタスクを処理しっぱなしなわけです。
勿論一人プレイのシナリオモードをクリアする分にはそこまでシビアな操作は要求されません。そもそも操作量が多くとも殆どは直感的に機体を操れるようになってます。レバーを倒したら機体が動いて、ボタンを押したらジャンプする。……まあちょっとボタンが多いですが、ゆっくり操作したって、適当に操作したっていいんです。それでも難易度はせいぜい普通の難しいゲーム程度です。(ちなみに本作の制作はフロムソフトウエア。代表作はダークソウルシリーズ、エルデンリングなど)
ところが本作は完全にメインコンテンツを対人戦に当てた、対人対戦アクションゲームです。
もう、お分かりになりましたか?
そうです。対人ゲームです。
敵として出てくるのはプレイヤーに倒されるために出てくるNPCなんかではなく、ガッチガチにこのゲームをやりこんだゲーマーです。
ゲーマーに勝利する為には、妥協は許されない。
そんなわけで、操作を習熟して高速同時操作し続けなきゃいけないことになりました。
問題提起。モンハン持ちじゃ駄目なんですか?
大量のボタンを同時に操作する必要があるので、コントローラーの持ち方も通常の「親指をスティックまたは平面部のボタン、人差し指をLR」という持ち方ではとても操作が追いつきません。
LRは適宜押しっぱなしで、スティックは前後左右に常に動かし続けながら、平面部の4ボタンもいくつか同時に操作したいんですから当然ですね。
そこで使用されていたのが、通称「モンハン持ち」という持ち方です。
「親指をスティック、人差し指を平面部のボタン、中指をLR」
このような指配置によって、プレイヤー達は多忙な操作量に対応しており、当然私もこれでプレイしておりました。
ですが、ここでいくつか不満点が出ます。
指の構造上人差し指で平面部のボタンを操作するのは常に無理な負荷がかかっており、長時間続けると関節部が痛くなる。
普段使わない指の側面でボタンを擦り続けるので、長時間続けると皮膚も痛い。
そもそも操作しづらい。同時押しも辛い。
そして、そんな問題を解消する為に生まれたのが、「AC持ち」になります。
発生経緯。
この持ち方の発生は偶然に寄るところが大きく、元々上記のような不満点について話をしていた時に
「手の構造的にモンハン持ちは無理がある」
「そもそもコントローラーの形が最適じゃない」
「指が表面に1本、裏面に4本付いてるんだから、ボタンの位置も裏面に多く配置すべきでは?」
「こんなふうに」
(コントローラーを裏表ひっくりかえして持つ)
(指先から感じる謎のフィット感、脳内に電流が走り、全てを理解する、人生、宇宙、すべての答え、42)
……と、何かを発見してしまったのが切っ掛けに。
その後、実際にゲームをして試してみると、自由すぎるキーコンフィグによって左スティックの操作と右スティックの操作の入れ替え、更に左右の入れ替えまでありとあらゆる変更が可能であることが判明。
「右にあるものは右に」のような原則に乗っ取った配置をすることで、前から押すボタンが後ろから押すボタンになっただけの状態まで持っていくことに成功。
こうして、なぜか直感的に操作が可能ながらも一見すると奇妙奇天烈奇々怪界な「AC持ち」という概念が誕生したのでしたとさ。
評価
AC持ちの良かった所
まずは前述した問題点について、解決はできたのかを考えます。
これは完全に解決です。
AC持ちは手指に無理をさせないというコンセプトから生まれており、すべての指は常に自然体に近い形を保ち続けます。負荷は最小に抑えられています。
これも完全解決です。
すべての操作を指の腹で行う為、普段使わない部分が擦れることはありません。
これは改善を見せてはいますが、まだ完全解決とは言えないでしょう。
人差し指の自由度は大幅に向上し、指が窮屈な姿勢で過酷な労働を強いられることは無くなりました。
上下左右のボタンを指が往復するときも、モンハン持ちのような苦しさはなく快適にボタンを押すことができています。
しかし同時押しがしやすいかと言えば、やはり人差し指一本では複数のボタンを同時操作するには苦しいものがあり、指の横側を広く使っていたモンハン持ちの方がまだ面積的に同時押しがしやすいと言えるでしょう。
そして根本的に、中指でのスティック操作はあまりにも既存の操作感とかけ離れており、かなりの習熟と慣れを要するでしょう。
ということで、モンハン持ちの不満点へのアプローチとしては概ね良好、100点満点中85点くらいの成果はあったのでは無いでしょうか。
さて、単に褒めるだけでは終われない。そこまで良好であったならモンハン持ちのようにもっと普及していてもおかしく無いはずです。
そうなっていないからには、AC持ちでは、モンハン持ちにはない新たな問題点が発生しており、そこが減点要素になっているに違いありません。
AC持ちがアカンかった所
すべての問題点を挙げることは不可能ですが、大きな要因としては以下が考えられます。
最大の原因です。どう考えてもこれのせいです。これが結論です。
ですが折角なのでもう少し掘り下げましょう。
古来より、家庭用ゲームコントローラーの指配置はおおよそ決まりきったものでした。
即ち、左親指で自キャラを操作し、右親指でジャンプや決定などの主要操作を行うことです。
ゲーム史をほじくり返せば、中には例外が多々含まれていることもありましょうが、現在まで残っているコントローラー達を見れば殆どがこの配置であるはずです。
(現代まで残るアーケードコントローラーは左手全部でレバーを握ってますが、左手で3つも4つも操作しないので別枠にしていいでしょう。キーボードみたいなhitboxもアケコンの派生なので一緒に別枠行き。キーボードはそもそも元々がゲーム用コントローラーではない。)
どのハードでも、どのコントローラーでも、どんなゲームでも、ゲームというのは基本的にはこの操作でした。
ゲーマーは当然、この操作には完全に適応しています。
野球選手がボールを投げるように、サッカー選手がボールを蹴るように、ゲーマーが「親指でキャラを操る」というのはゲームの普遍的基礎技術として体に染み付いているのです。
ところがここに、AC持ちは新しい文化を要求してきました。それが「中指操作」です。
これは今までの技術のちょっとした応用でいける範囲からは少しばかり踏み越えていたようで、ゲーマーがいままで積み重ねてきた経験値がそのまま適用できない、謂わば未知の世界になってしまいました。
結果として、AC持ちは「操作しづらい」という評価を受けることになりました。
単体で見れば中指は親指・人差し指と同じくらい器用に使える動かしやすい指なので操作自体はそこまで難かしいわけでは無いはずなのですが、今までのゲームへの慣れがそれを邪魔してしまうようです。
冒頭で結論として述べた通り、AC持ちは「操作する指を増やす」といった目的で生まれたわけではありません。その旨は、最初にAC持ちを公の場に出した書き込みで「中指がスティックで親指がLR」と明言したことからも明らかです。
ですが残念ながら、このAC持ちという概念は「操作が追いつかないプレイヤーが、操作する指を増やす為に編み出した」という誤解をベースに広まってしまいました。
結果として、AC持ちは「薬指でスティックを操作する」というそもそもの概念自体の間違いと、「モンハン持ちで指が足りてるので指を足す必要がない」というコンセプト自体の勘違いから生まれた帰結によって、その核心たる部分には触れぬままに冷笑を浴びる結果となりました。
まず、中指でのスティック操作が異文化であることは前述しましたが、これが薬指になるともう異文化どころではなくなってしまいます。
中指は最も器用な三指(順位については諸説あり)のうちの一本ですが、薬指は最も不器用な指です。死に指などと呼ばれることもある、一番自由に動かない指です。
この誤認が何を引き起こしたかといえば、慣れてないけど慣れたらできる、というレベルから曲芸まで難易度が飛躍しました。
中指では野球選手にサッカーをやらせる程度の難易度だったのですが、薬指では玉乗りしながらピアノを弾かせるような所まで行ってしまいました。
これにより、「騙されたと思ってやってみたらなんか思ったよりイケそう」感が完全に損なわれてしまいました。
また指を増やす必要がないからAC持ちは不要という論については、そもそもAC持ちは指を増やす目的がないことからも完全な誤解なのですが、すでにミームとして浸透し私の手を離れてしまったAC持ちへの誤解を訂正する機会はついぞ訪れず今日に至ります。
その通りです。反論の余地もありません。
私がAC持ちを生み出した理由は「人差し指が痛い」と「無理な姿勢の人差し指がつらい」という2点にあります。
従って、モンハン持ちに慣れており痛みも違和感も無いのであればAC持ちをする理由は特にありません。
以上の三点が、AC持ちが普及しなかった大きな問題点と言えるでしょう。
これらを解決するにはもうコントローラーを新しく開発するしかありません。
というかSwitchのジョイコンを裏表反転して親指にスティックを持ってきたら完成だと思うのですが、どこかで発売してくれませんかね???
おわりに
と言うわけで、長々とAC持ちについて振り返ったわけですが。
なんでこんなことを今更穿り返しているかと言いますと。
なんとこの度、アーマード・コアの新作の製作報告が公式から発表されました。
ACVDから10年……我々は10年待ちました。
この喜びをどう表現するべきか。何を語るべきか。
思いは多々あれど、自分にしか語れないものが一つだけあることに思い当たり、二番煎じの駄文を再度したためて感情を発散した次第であります。
ということで、これを閲覧した全人類およびAIは発売のち直ちにこれを購入する義務があります。買うように。
それでは、世に平穏のあらんことを。