ラテン詩のスキャニング入門

私自身初心者なのであくまでも自分のためのノートをクラウドにアップロードするくらいの気持ちでまとめてあります。考え違い、書き間違いなど多々あるかもしれませんがご容赦願います。
また基本的にイタリア語での解説書などから学んだ内容で書いたので日本でどういう専門用語で呼ばれているのかよくわからないところはそのままイタリア語での呼び名を使っています。


§1 詩における音節

1-1

音節は次のいずれかによって構成される。

i) 母音

ii)母音+子音

iii)子音+母音

iv)子音+母音+子音

 

また詩行のスキャンニングで重要なのは長短のリズムであり、音節の分節に関しては複数の解釈が可能であるように思えるし、どの解釈でも朗読の仕方が結果的に同じになるならあまり分節に関して神経質になる必要はないように思える。

またスキャンニングは、単語の切れ目とは全く関係なく、あたかも1行が一つの長い単語であるかのように扱って音節の切れ目を決定していく。

 

左から右に向かって読む順番にスキャンニングをするほうが自然に思えるが、わかりやすさから右から左にむかってスキャンニングをするような説明をする人もいるようだ(5番目の脚がかならずdattiloになることからそちらのほうが考えやすい)。どうしてもうまく音節を区切れないときには有効な手段かもしれないがふだんはそこまでしなくても慣れれば平気にも思える。

 

1-2

二重母音(伊dittongo)を作るのは以下の組み合わせのみ。

ae / oe / au   ←最頻出

ei / eu / ui ←まれ。uiに関しては(cuiとhuiのみ二重母音となる)

 

1-3

二重母音はひとつの音節を形成するが、二重母音ではない2つの母音の連続はそれぞれ別の音節を形成する。

saepeは2音節 sae-pe (aeは二重母音)

donatioは4音節 do-na-ti-o (ioは二重母音ではない)

 

1-4

iは半母音であり、母音として取り扱うか子音として取り扱うかは任意である。子音として扱われる場合は便宜上、iをjだと思って考えるとわかりやすい。

 

1-5

母音に挟まれた子音は後ろの母音と一つの音節を形成する。

virumはvi-rumであり、vir-umではない。

 

1-6

子音字が2つ(以上)連続する場合はその真中で2つの音節に分かれる。

amantisは以下のように分節される。a-man-tis

 

1-7

1-6にもかかわらず、閉鎖音(破裂音)またはfに流音(r,l)が続いた場合はその2つの子音字は合わせて一つの子音字としてそれに続く母音とともに音節を形成する。すなわち以下の組み合わせは1-6の例外になる。tl / tr / dl / dr / bl / br / pl / pr / cl / cr / gl / gr / fl / fr

tenebraeは以下のように分節される。 te-ne-brae

 

1-8

qu- /gu-は一つの子音字として扱う。

aquaは以下のように分節される。 a-qua(a-qu-aではない)

sanguisは以下のように分節される。 san-guis(san-gu-isではない)

 

1-9

-x-は-cs-のように2つの子音字であるかのように考える。-z-も2つの子音字に相当するとかんがえる(らしいが例が見当たらない)。

toxicumは以下のように分節される。 toc-si-cum

 

 



 

§2音節の長さ(mora)

2-1

音節には、「長い音節」「短い音節」「どちらにもなれる音節(silaba anceps; sillaba ancipite伊)」がある。これらはその音節の中に含まれる母音が長母音か短母音かということとは別の概念である。

 

2-2

短い音節は、短母音で終わる音節である。

それ以外の音節は皆長い。具体的にいうと以下は全て長い音節である。

i) 長母音で終わる音節

ii)二重母音で終わる音節

iii)母音の長短に関わらず子音で終わる音節

 

2-3

また詩行の最初の音節は長いものとして扱われる。


 

§3 詩における重要な現象

 

3-1 SINALEFE

母音で終わる語のあとに母音かhで始まる語が続くとき、最初の母音は消失する。

例)quoque etはあたかも<quoquet>と書かれているかのように読まれる。

<母音+m>で終わる語のあとに母音かhで始まる語が続くとき、<母音+m>は消失する。

例)mostrum horrendumはあたかも<mostrorrendum>と書かれているように読まれる。

 

3-2 AFERESI

母音で終わる語のあとにes, est(sumの二人称、三人称)が続く場合、es, estの語頭のeが消失する。

例)cubili estはあたかも<cubilist>と書かれているかのように読まれる。

 

3-3 IATO

Sinalefeが常に起こるとは限らず、母音が消失しないときにはiatoと呼ばれる。

 

3-4 SINERESI

一つの単語内で母音が連続し、それが一つの短母音として扱われることがあり、その場合にはその2つの母音を孤のような記号でつないで示す。

 

3-5 DIERESI

本来なら二重母音を形成する2つの母音の連続を2つの音節に分けて考える事があり、その場合にはトレマで示す。例)poëta

 

 


 

§4 詩法

4-1脚には3種類がある。

Dattilo 長短短

Spondeo 長長

Troncheo 長短

また、いずれも最初の音節にアクセントが置かれる。

 

4-2

詩行の最後の脚には音節がひとつかそれ以上欠けている事があり、その場合にはcataletticoと呼ばれる。

 

4-3

詩行の中にはcesuraと呼ばれる一拍休む箇所があり‖で示される。

 

4-4 ヘクサメーター(六歩格)伊esametro

i) 1詩行が6つの脚からなり、1〜4まではdattilo, spondeoどちらでもよく、5つめの脚は必ずdattilo、6つの目の脚はspondeoかtroncheo。

ii) cesuraは一般的には3つめ脚の長音節のあとにおかれる(semiquinariaと呼ばれる)。

ただし4つ目の脚の長音節のあとにcesuraがおかれる(semisettenariaと呼ばれる)ことも多くこの場合は同じ詩行の2つ目の脚の長音節のあとに短いcesuraがおかれる(semitenariaと呼ばれる)。

 

cesuraの例

長短短、長短短、長‖短短、長短短、長短短、長長

長短短、長‖短短、長短短、長‖短短、長短短、長長

 

4-5ペンタメーター 伊pentametro

i) ヘクサメーターと同じく1つの詩行が6つの脚からなるが、1つの詩行が2つの部分にわかれ、さらに各々は2つの脚と、1つの音節だけからなる半分の脚からなる。

前半の2つの脚はdattilo, spondeoいずれでもよく、それに長音節がつづく。

後半の2つの脚は必ずdattiloで、最後の脚は長音節でも単音節でもよい。

cesuraは前半と後半の間に置かれる。

 

ペンタメーターの例

長短短、長短短、長‖長短短、長短短、長

 

§5 アエネイスにおけるヘクサメーターの例(libro1の有名な出だし1〜8行目まで)

 1行目

1つめの脚 Ar/ma/vi が長短短のdattiloを形成している。2-3にあるように行の先頭のArはすでに長い音節として扱われるルールだが、そうでなくてもrmという連続する子音の間で音節を区切れば結果的に1つ目の音節はAr-のように子音で終わるので2-2のルールにより長い音節となる。

2つ目の脚 rum/que/caが長短短のdattiloを形成している。1-8にあるようにqu-は一つの子音として扱う。

3つ目の脚 no/Troが長長のspondeoを形成している。この2つはテキストに長母音記号(マクロン)のついているもともと長母音であり、その記号に従えば良い。

4つ目の脚 iae/quiが長長のspondeoを形成している。ここは解釈の余地があるところらしい(3つ目の脚をno Troiまでとする解釈も目にした)。iは1-4のように半母音でありここでは子音字であるjと同じと考えれば、jae(aeは二重母音)で一つの長い音節と考えるのが良いように思える。quiは前述のように一つの音節。

5つめの脚 pri-mu-saが長短短のdattiloを形成している。

6つめの脚 bo-risが長長のspondeoを形成している。

 

また3つめの脚の1つ目の音節の直後に切れ目(cesura)があると考えられる。

 2行目

1つ目の脚I/ta/liが長短短のdattiloを形成している。ここではiが母音として扱われていると解釈できる。

2つ目の脚am/faが長長のspondeoを形成している。

3つめの脚to/pro/fuが長短短のdattiloを形成している。1-7にあるように-pr-は一つの子音字として扱い、真ん中で音節を区切らない。

4つ目の脚gus/Laが長長のspondeoを形成している。

5つめの脚vi/nia/queが長短短のdattiloを形成している。弧のような記号で示されたとおりここではiaを一つの短母音と扱う(3-4sineresi)。

6つ目の脚 ve/nitが長長のspondeoを形成している。

 

また2つ目の脚と4つ目の脚にcesuraがあると考えられる。

3行目

1つ目の脚li/to/raが長短短のdattiloを形成している。

2つ目の脚 mul/tilが長長のspondeoを形成している。3-1にあるようにumは消失する(sinalefe)。

3つ目の脚 let/terが長長のspondeoを形成している。3-1にあるように1つめの音節、le etの最初のeは消失し、あたかもletと同じように発音される。

4つめの脚ris/iacが長長のspondeoを形成している。ここも半母音iが絡むので解釈の余地があるようだが、単純に考えるとここではiは子音として扱われj同等だと考えると、ris/jacと考えるのが妥当に思える。

5つ目の脚ta/tu/seが長短短のdattiloを形成している。

6つ目の脚 tal/toが長長のspondeoを形成している。

 

また3つめの脚にcesuraがある。

4行目


1つめの脚 vi/su/peで長短短のdattiloを形成。

2つ目の脚 rum/saeで長長のspondeoを形成。aeは二重母音なので長い音節を作る。

3つ目の脚 vae/me/moで長短短のdattiloを形成。

4つ目の脚 rem/Iuで長長のspodeoを形成。iはここでは子音字扱いでjuと同等と考える。

5つ目の脚 no/ni/soで長短短のdattiloを形成。

6つ目の脚bi/ramで長長のspondeoを形成。

 

cesuraは2つめと4つめの脚にある。

5行目

1つ目の脚 mul/ta/quoで長短短のdattiloを形成。

2つ目の脚 quet/bel/で長長のspondeoを形成。quは子音字相当。そのうしろのeは消失。最後子音字tで終わるのでquetで長い音節。

3つ目の脚 lo/pas/で長長のspondeoを形成。

4つ目の脚 sus/dumで長長のspondeoを形成。

5つ目の脚 con/de/reで長短短のdattiloを形成。

6つ目の脚 tur/bemで長長のspondeoを形成。

 

cesuraは3つ目の脚にある。

6行目


1つ目の脚 in/ferが長長のspondeoを形成。

2つ目の脚 ret/que/deが長短短のdattiloを形成。

3つ目の脚 os/La/tiが長短短のdattiloを形成。ここのiは母音字扱いで、つづくoとの間に作るioは二重母音ではないので、2つの音節にわかれる。

4つ目の脚 o/ge/nuで長短短のdattiloを形成。

5つ目の脚sun/de/La で長短短のdattiloを形成。

6つ目の脚ti/numで長長のspondeoを形成。

 

2つ目と4つ目の脚にcesuraがある。


 
7行目

1つ目の脚 Al/baで長長のspondeoを形成。

2つ目の脚 ni/que/paで長短短のdattiloを形成。

3つ目の脚 re/satで長長のspondeoを形成。

4つ目の脚 qual/taeで長長のspondeoを形成。queのeは消失。aeは二重母音。

5つ目の脚moe/ni/aで長短短のdattiloを形成。oeは二重母音。iはここでは母音あつかい。

6つ目の脚Ro/maeで長長のspondeoを形成。


noteは読みにくいので 同じ内容のpdfを貼り付けます。また実際の朗読はなんといってもこの人のがすごいです。


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