イタリア語の動詞の語法について
はじめに
非常に学ばれる言語である英語はそれを第2言語として学ぶ人のために語法研究が極めて進んでいて、中級程度の学習者向けにさえ多くの語法学習書が出版されています。
それに対しそれ以外の言語の、学習者向け語法はあまり顧みられることがなく、学習者はひとつひとつ辞書で確認するくらいしかないのですが、辞書でさえあまり語法欄が充実していないのが現状かと思います。
私自身、見様見真似でイタリア語を学び、それなりに流暢に話せるつもりではいますが、かなり動詞の語法に関してはあやふやなところがあり、自分のための備忘録として、そして最近ちょっと興味を持ったのでイタリア語の語法を少しまとめてみようと考えました。
今回取り上げるのは学校文法英語で言うところの「第5文型」、おおざっぱに「人に〜させる」といった意味の動詞たちです。
英語では・・・
I ordered him to do it. こういう文を学校英語では「第5文型」とかいうんですよね、たぶん(一応英語でご飯食べてますけどこういうへんな文法はよく知りません)。「彼がそれをする」という部分に<主語+述語>の関係があるというのが特徴とされています。その点でやや文構造的に似ているように見えるI gave him some money.のような文と区別されます。でこちらは第4文型とか呼ぶのですよね、たぶん。
で第4文型の場合はhimは間接目的語(indirect object)、some moneyは直接目的語とか言うわけですが、第5文型のほうはhimは目的語、to do itは目的格補語とか言うわけです。himは通例、単に目的語と呼びますが、直接目的語扱いなのでしょう。
I gave some money to him.は成り立ちますが、(?) I ordered to do it to him.は成り立ちませんので。
orderに限らずtell/ ask/ advise / invite/ urge/ oblige /allow/ enableなど数限りない動詞(大雑把に「人に〜させる」という意味を持つような動詞たち)が同じように使われるのは有名です。
例外はごくわずかでsuggest, propose, demandなどでこれらはsuggest to人 that SV(仮定法現在)という形を取るというのも大学入試などでもよく目にするところです。
イタリア語では・・・
英語ができる人ほど違和感を感じると思いますが、イタリア語では「人に〜させる」というような意味を持つ動詞のほとんどが「人」の部分を間接目的語で表します。つまりこういうことです。
「人が〜するよう命ずる」
英語 order + 人 + to do
伊語 ordinare + a 人 + di inf.
例文で示します。
英語 I ordered him to do it.
伊語 Io gli ho ordinato di farlo. (gliは間接目的格)
でさらに英語と異なり伊語の場合は(というか英語以外のほかの西欧語は)代名詞しか関節目的格はもたず、ふつうの名詞の場合は前置詞をつけることでそれが間接目的語であることを示すので、上記の例文「彼がそれをするよう命じる」を「太郎がそれをするように命じる」に変えると以下のようになります。
英語 I ordered Taro to do it.
伊語 Io ho ordinato a Taro di farlo.
order以外にもこの手の動詞の殆どが同様の語法です。以下に最頻出のものを挙げてみます。
permettere a 人 di inf. 「人が〜するのを許す」
consentire a 人 di inf.「人が〜するのを許す」
suggerire a 人 di inf. 「人が〜するようすすめる」
英語と同じように直接目的語をとるものもあります。こちらも最頻出のものをいくつか例示します。
constringere 人 a inf. 「人が〜するように強制する」
convincere 人 a inf. 「人が〜するよう説得する」
不定詞の前につく前置詞がdiではなくa なのが特徴です。
フランス語では・・・
地理的・言語的に伊語と英語の中間に位置するフランス語はどうかというと、多くの場合イタリア語に近いようです。ordinerもpermettreも以下のように使います(私の仏語力はアレなので、あんまり例文を書くとボロが出る)。
Je lui ai ordiné de ce faire.
J'ai ordiné à Taro a de ce faire.
フランス語に関してはそのうちもう少し調べます。。。
受動態について
話をイタリア語にもどします。イタリア語では文法上間接目的語を主語にして受け身は作れないという問題点があります。
英語だったら I ordered Taro to do it.の受け身はTaro was ordered to do it.です。イタリア語ではIo ho ordinato a Taro di farlo.の受け身をTaro é stato ordinato di farlo.のようにTaroを主語にして受け身は作れないということですよね。これはイタリア語を話していてかなりもどかしいところです。ではどうするのでしょう。
そもそも受け身を作りたいときというのは主語をぼやかしたいときであって、伊語では3人称複数を主語にすると漠然とした主語を立てたことになる(英語のthey sayのtheyのように)のでそれを使って受け身で書きたくても能動で押し通してしまうのがとりわけ口語では一般的に思えます。
M'hanno ordinato di farlo. 「奴らが俺にそれをするよう命じたよ。=俺はそれをするように命じられたよ」
もうひとつは文語的ですが、非人称のsiを使うようです。
Si é ordinato a me di farlo. 「私がそれをするように命ぜられた」
また思いついたら書きます。