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夜中の汽笛くらい。
わたしたちは、後悔する生き物だと思う。
些細なところで間違えたことを、きっと正解だったはずのことを、いつだって思い出してしまう。
あの時、あっちを選んでいたら。こうしていたら。なんて、タラレバを並べながら。
これは、たぶん恋としての好きではない人とのお話。ずっと大切な人でいて欲しかったのに、その関係を自分で壊してしまった人とのお話でもある。
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コートが必要なくらい寒くなって、世間から押しつけられるクリスマスの情報からか、無意識に寂しさを感じていたあの時。
たぶんわたしのことを恋として好きな人に、ごはんに行こうよ。なんて連絡をした。
吉祥寺に行ってみたい喫茶店があるんだ、カレーが有名なんだよ。って。
地下の薄暗い店内は電波もWiFiもなくて、でもそれもたまには良いよね、なんて言い合ったりして。
好きな服の話、美味しいカレーの話、憧れの年の取り方の話、それから好きな本の話。
彼は、村上春樹のある話が好きだと言った。
好きな子に、わたしのことどれくらい好き?って聞かれたら、「夜中の汽笛くらい」と答えてみたいんだ、って。
この話を話題にする、彼の感性が好きだと思ったことは秘密にしておきたかった。そうして、気づいたらラムココアを一口あげて、どれくらい好き?と、聞いていた。
ちょっとしたノリのつもりで言ったはずが、きっとわたしへの気持ちを確かめていた。
応えられる自信のないものを確かめたくなるわたしは、どこまでもずるい女だ。
1年近く経った今も、どうしようもない夜に思い出すのは、彼が教えてくれた「夜中の汽笛くらい。」という言葉。
ひとりぼっちの真夜中に聞こえる、たった一つの声。
いつまでも彼を思い出すわたしを許してほしいなんて言えないけれど。
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