「トントン」というブランド・ソーマ・・・3分で読める〜ブランドのチカラ(27)
○ 聴覚的なブランド・ソーマのチカラ
○ ブランド・ソーマって何? アゲイン
○ Braun シェーバーの名TVCMシリーズ
○そのブランド価値は?
ライオンのエメロン・シャンプー&リンスの「見返り美人」ソーマについて前回は書きました。このソーマは半世紀近い時を経て、TikTokの「こっちを見ろ、こっちを見て」ポージングに再出現しています。これは視覚ソーマですが、今回は音楽やサウンドロゴ、つまり聴覚的なものがブランド・ソーマになるというお話です。
其の20で日本のロングラン・ブランドTVCMの代表的なものの一つとして、ネスレ日本のネスカフェ・ゴールドブレンド「違いのわかる男」シリーズを取り上げました。
あの「ダバダ〜」という女性のスキャットが香り豊かなコーヒータイムを連想させて、抜群の効果を発揮するんですね。店頭で棚に並ぶゴールドブレンドをみると、顧客の頭の中では無意識にあの「ダバダ〜」が鳴り響くのでしょう。☺️
グローバル調査マーケティング会社Milward Brown南アフリカの会長のエリック・デュ・プレシス氏は、無意識にブランドを好意的感情を持って連想する、脳意識下に刻まれたこの「跡」を、「ブランド・ソーマ」と名付けました。
ソーマ(soma)というのはmentalの反義語、つまり肉体的なという意味です。顧客の脳という肉体に、企業はブランド・ソーマという跡を残すべく全力を尽くすべき、マーケターの仕事はこれに尽きる。とプレシスさんは断じています。
人間が知覚記憶する脳メカニズム的には視覚情報が一番記憶に残り、次いで聴覚情報だそうです。言語情報は一番低いんですね。政治家がどれほど長広舌しても、誰も覚えてないってことです。😀 一方で安倍さんが小さい布マスクをした光景は、強烈に皆の記憶に残ったのではないでしょうか。
さてお話は聴覚的ブランド・ソーマについてです。
其の7で、ブランディングCMの名シリーズだったと、Braunシェーバーについて書きました。素人の方をつかまえて話を聞くという意味では、ライオンのエメロン・ブランドの「振り返り美人」方式と同じです。知らない若い人の方が多いでしょうから、簡単にCMのプロットをご説明しますね。
通勤で急ぎ足のビジネスマンを駅前で、レポーターが声がけをして、Braun シェーバーを使ってみるようお願いします。「朝ちゃんと剃りましたよ」と訝るビジネスマンが試しに剃ってみると・・・レポーターがヘッド部を取りプラスティックの白い板の上にトントンとしてみると、なんと髭の剃り残しが結構あるのでした・・・というプロットです。このプロットを各地で繰り返していくわけです。
「他社製品では剃り残した髭もBraun シェーバーはよく剃れるので
根こそぎ処理できるんです。」というのが訴求ポイントの実によく
出来た実証型コマーシャルです。
後によく言われるようになるU.S.P.訴求です。Unique Selling Propositionというやつです。
U.S.P.、敢えて訳すと独自の差別化ポイントの提案になるかと思います。
ちなみに其のコマーシャルがこれ。
以前書いた内容に被りますが、もう一度おさらいさせてください。
このTVCMシリーズは1981年から2003年まで20年を超える期間、同じプロットで作られ放映された珠玉のロングセラーCMです。実は私もこのコマーシャルを見た頃に会社に入ったばかりで「社会人なんだからちゃんと髭は剃らないとな」と思ってしまい😁、ちょっとお高いBraun シェーバーを買った一人です。
ブラウン・ジャパンのマネージャーや制作した広告代理店がどう考えていたかは今や知る由もありませんが、このCMは秀逸なU.S.P. 訴求をしていただけではなく、ちゃんとブランディングをしていたと確信します。
表面上は「(他と違って) 剃り残しが無い」というのが訴求ポイントですが、ここに込められたイメージは忙しい日本のビジネスマンがビシッと決める「朝のKick-Starter」だったのだと思います。
この「モーニング・レポートのCMが始まった1981年、昭和56年はバブル崩壊の10年ちょい前、破綻に向けてどんどん昇り詰めていくdecade、同年にはフジテレビで「オレたちひょうきん族」※が始まり、新潮社から写真週刊誌FOCUS※が創刊されました。
1989年には某社のスタミナドリンクがCMで「24時間戦えますか?」と煽っていた10年期。
このイケイケどんどん (昭和語ですね、これ) の時代、Braun シェーバーは
朝からビシッと決めて「戦地」に向かうビジネスマンへの応援歌だったのだと
思います。剃り残しがあっちゃ締まりません。☺️ ブランディングのコアは
Emotional Benefit 、つまり情緒的便益にあります。Braun シェーバーの
それは「(戦場のようなオフィスに向かう自分の背中を押してくれる)Kick-Starter」
だったのだと思います。私の会社は世間では「軍隊」と評されるほど猛烈な企業だったので、なにかKick-Starterでもないと、とても家を出る気になれませんでした。ホントに。😁
ではKick-StarterというBraun シェーバーのEmotional Benefitを記憶から表面化させる合図となるブランド・ソーマはなんだったのでしょうか? なんだと思いますか?
レポーターがBraun シェーバーのヘッドを取って白いプラスチック板に剃り残しの髭カスをトントンと落とすときの、あの「トントン」音だったと私は確信します。多くのシリーズが時を変え所を変えて制作されましたが、この音は不変のフォーマットとしてキープされています。ブランディングの要点は「Consistency & Continuity」(一貫性と継続性)をまさに体現しています。
「違いのわかる男」の「ダバダ〜」スキャットにあたるものです。BraunシェーバーのCMを何度となく見たユーザーの私は「トントン」で、シャキッとして会社に行くぞ!モードに切り替わっていたんです。試しに私の耳の横であのトントンをやってみてください。きっとキリッとした顔になるでしょう。😀
先週のエメロン、今週のBraunシェーバーも例が古すぎたので、次回は直近の聴覚ブランド・ソーマについてお話したいと思います。皆さんよくご存知のあのCMです。
※脚注
○ おれたちひょうきん族・・・1981年〜1989年 フジテレビ系列で放送されていたお笑いバラエティ番組
○ FOCUS・・・新潮社が1981年から出版していた写真週刊誌の草分け。2001年休刊。