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「北の国から」で田中邦衛の果たした返報性の原理的役割〜3分で読めるブランドノチカラ (85)

長谷川良品という放送作家の方が田中邦衛さんの訃報に触れて投稿したNoteを読んで、目鱗落ちる的に感心したことがあったので、今回はこのことを中心に書き進めたいと思います。 

氏の投稿は「北の国から」で父親の黒板五郎を演じた田中邦衛さんの果たした役割についてです。

役割というのは父親役という意味じゃなくて、田中邦衛が自身の放つ独特のオーラで視聴者を惹きつけ人気番組にした役割です。

結論ファーストでいうと、田中邦衛の放ったオーラは「なさけない」オーラだ、と氏は分析しているんですね。

ガリレオ准教授※じゃないですが、実に面白い※。

「北の国から」のホンを書いた倉本聰が取材を受けて語った田中邦衛への追悼を長谷川さんは紹介しています。

「北の国から」の五郎役を田中にした理由は「黒板五郎を演じるのは、とにかく"みっともない人間"でなくてはいけないと思った」からなんです

さすが人間の裏表を描くにあたって放送界に冠たる鬼才脚本家、見方が独創的です。

「惨めな」でもなく、「憐れな」でもなく、「みっともない」…

この黒板五郎の「みっともない」を長谷川さんは「なさけない」と受け止めています。

これもガリレオ准教授的に言えば「実に面白い」。
解釈の転換です。

「みっともない」って、突き放してる感があります。
みっともないな、ちゃんとして出直してこい!みたいな。治らないなら、もう姿を見せるな!的な。

でも「なさけない」は違う。なんとかさせたい、つい手を貸しちゃう的なインボルブメントを感じます。応援しちゃう。

このブログ(82)で、昭和の名テレビ番組のブランディングについて「北の国から」を取り上げて書きました。

同番組が成功した理由をアメリカの心理学者マレーのまとめた心理的欲求リストに照らし合わせて考えました。

五郎が富良野に連れてきた幼い兄妹、淳と蛍が刺激するのはひとの「養育欲求」であり、これは愛犬を可愛がる心理と同様にひとを幸福感で満たすオキシトシンの分泌を促す。

そしてもうひとつ。

生まれ故郷に戻って、全てを自分の手で切り拓こうと、苦労に苦労を重ねるそんな黒板五郎の存在が刺激する「自立欲求」。

自らの手で廃屋となっていた実家を修繕し、水を引き、薪で暖房し、発電までしてしまう…そんな自給自足生活に、五郎が徹底して拘ったのは、失敗した東京生活へのリベンジの思いがこもった、ひとがなんと言おうが構わないという強い「自立欲求」があったからだろう…というのが私の見立てです。

ひとは皆程度の差こそあれ、自立欲求を持っていますから、五郎に自分を同一化させて、好感する。


さて長谷川さんはこの黒板五郎を演じる田中邦衛さんをこう見るんですね。(以下ブログより引用。原文ママ)

田中邦衛という人は、もうそのたたずまいから「なさけなさ」を醸し出している。そこにいるだけで、何かみっともなくみじめったらしいのだ。そしてそれが人間味に繋がる。


田中邦衛というひとは、とにかく自分を飾らない、素の姿をさらすことに何の頓着もなかったようです。ロケ中もスタッフや他の俳優の前で平気で放屁していた由。

黒板五郎には田中さんのリアルが反映されていたようです。

そして氏は、田中のなさけないキャラがひとを魅了した裏の理由を「返報性の法則」による、と見立てます。

「返報性の法則」と、きましたか!

返報性の原理は心理学マーケティングのテクニックのひとつです。

相手から何かしてもらったり、受け取ったりするとひとは「お返しをしなければ」という気持ちになるという心理。これを利用して物販をするわけです。

スーパーマーケットやデパ地下でよくやっている「試食」がそうです。一口どうぞ、と言われ口にして、つい買ってしまったという経験は誰でもあるかと思います。

勿論不味ければ買いませんが、そこそこ美味しければ買っちゃう。

試食させてもらったお返しの気持ちがあったかと問われたら、そんなことはない、とひとは言うでしょうけど、無意識のうちにそうしてしまうという心理を利用するのが心理学マーケティングです。

試食は返報性の原理のパターンのひとつである「好意への返報性」を利用したものですが、パターンには「自己開示への返報性」というのもあります。

相手がオープンに包み隠さず自分のことを話してくれると、ついこちらもガードが緩んで本音を話してしまう…というやつです。出来る営業マンがよく使う手です。

田中邦衛に親しみを感じることの裏には、「なさけなさ」を包み隠さず何度も何度も感じさせてくれる彼に対して、お返しで「応援するぞ」という風にいつの間にかなってしまうというひとの気持ちがある、これは返報性の原理であると長谷川さんは言うわけです。

この見立てはユニークです。思いつかなかった。「実に面白い」。

田中は天与の自然体で情け無かったわけではないんだろう、と氏は続けます。

自分を大きく見せようとするひとが多い中、苦労を重ねてきた努力のひと田中邦衛は、逆に自分を小さく見せることに腐心したはず、そんな名演技をもう観られないのは残念である、と長谷川さんはエッセイを締めています。

なるほど。プロの放送作家は見方の角度が違います。脱帽。




最後に。

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※ガリレオ准教授
ガリレオこと湯川学准教授
 東野圭吾の推理小説の主人公で帝都大学理工学部准教授。新米刑事・内海薫の依頼で難事件を次々と解明していく。内海の、あり得ない超常現象の起きた事件と言う説明に、湯川教授が呟く言葉が「実に面白い!」である。フジテレビがこれを原作に2007年と2013年にドラマシリーズを制作放送した。福山雅治と柴咲コウが共演。




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