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君は大阪について来れるか?・・・3分で読める〜ブランドのチカラ(29)

  大阪の人は赤ちゃん以外はほぼ全員が知っている、東京の人は殆ど知らないTVCMは何か?

...答えは、関西電気保安協会のTVCMです。ちゃんというと、東京の人だけじゃなく、大阪圏以外の人は全国の誰も知らない名シリーズです。つまりはローカルCMですね。

  マーケティング や広告の仕事をしている人じゃなく、大阪人(こんな表現は大阪的にアウトですかね?)じゃない人、手をあげてください。😁 知ってます? このCM。

まずどんなCMなのか見て頂きたいと思います。

どうでしたか? 

  「公共サービスなのに、このふざけっぷりは何事か!」と怒ってしまう人が少なからずいそうですね。😄 実はこの関西電気保安協会のCMシリーズ、以前ご紹介したキンチョーの面白TVCMシリーズを一手に手掛けてきた電通関西の通称「堀井チーム」の長年にわたる仕事なんです。

  広告業界にはオリエン、またはブリーフィングという言葉があります。広告主が広告代理店、ディレクター、デザイナーに仕事を依頼するときに、対象となる製品・サービスの内容や、予算規模、希望する広告仕様などの指示をすることです。

  オリエンと言うのは、オリエンテーションの略です。これを受けて、一定期間の後に広告代理店など制作側が「こんなんでどうでしょう?」と提案をすることをプレゼンテーション、略してプレゼンと言います。

  さて、関内電気保安協会のオリエンがどうであったかは分かりませんが、想像するに「漏電の検査しますて言うたかて、おっさんを家にあげてくれるオカンなんかおらんのや。拒絶されんようにするCM作れへんか? 言っとくけど予算はないで。」(わたし東京人なんで、この大阪弁は間違ってると思われます。😁)てな感じだったんではないでしょうか。

  1998年に出版された広告批評別冊「堀井博次グループ全仕事」に関西電気保安協会のCMを制作した堀井さんの述懐が載っています。大変面白いので、以下全文。

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  関西電気保安協会というのは、家庭の漏電の検査とか安全の点検を受け持っている法人なんですけど、名前が知られていないために、なかなか家に上げてもらえないんです。押し売りと思われたり、うさんくさい目で見られたり。で、広告で名前を知ってもらえば作業がやりやすくなるんじゃないか、というのが始まりです。

  で、まず考えたのは、15秒のなかで名前を何回言えるかということ。それから、本物の検査員の方に出演してもらうことです。当時、シロウトがテレビに出ることはまだ珍しかったからね。

  CMの撮影は、いきなりカメラの前に立ってもらって、「あなたはこう言ってください」と直前に言うんです。で、緊張して、もう台詞言うのが精一杯という間に撮ってしまう。シロウトさんが自分を意識して芝居しだしたら、クサくて見ていられませんからね。

  川崎(徹)※さんに聞いた話やけど、このCMが東京コピーライターズクラブ賞の最終審査まで残ったとき、審査員の一人だった糸井重里※さんが、「わかってやってたんだったらぜったい大賞だけど、わかってるのか偶然なのか、わからなかったので見送った」と言うてたそうです。

(堀井)

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  糸井重里さんが「わかっているのか偶然なのか、わからなかった」と言っていたと人づてに聞いた時の堀井さんのほくそ笑む顔が思い浮かびます。偶然の面白さが出るのが必然と読んでいた天才的確信犯の堀井さんの常套手段のように思われます。

これは非常に難しいところを狙っている。

  リアルな素人を出す手というのは、広告で失敗するケースはとても多いんです。どれがとは言いません。(殆どそうですから😭)典型はテスティモニアルキャンペーンという、実際の使用経験者の素人消費者の推奨広告です。

「かたいよ、もう少し力抜いて自然にお願いします」という監督のディレクションに、素人さんが演技し始めてしまい、余計に変な仕上がりになってしまう。そういうの多いんです、ほんとに。「シロウトさんが自分を意識して芝居しだしたら、クサくて見ていられませんからね。それがわかっているので、緊張して、もう台詞言うのが精一杯という間に撮ってしまう。」(堀井)。。。実にしたたかな天才の技です。

  で、です。大阪の誰もが知るようになったこの関西電気保安協会のTVCMはきっちりとブランディングをしているんですね。堀井さんが聞いたら「そんなたいそうなこと思って作ってへんわ」(大阪弁要添削😁)と言うかもしれませんが。

  簡単に言うと「そのブランドを思うとどんな気持ちになる?」を設計するのがブランディングです。関西保安協会のCMは検査員への警戒心を解くという大命題があったはずです。そりゃふつう警戒しますよ。知らない人がピンポン鳴らして、「検査に伺いました」と言ったら。

  それをこの「いかにも悪い人には見えない、むしろ人の良いおっさん」ヅラした検査員さんたちを次から次へと見せられたら、どうです? 追い返したりしたら、後味悪いですよ。追い返せます?😁

  実際に検査員さんが家に来ると、あの「かんさい でんき ほ〜あん きょうかい」という間の抜けたようなジングルが頭の中で思い出されて「悪いおっさんじゃないだろう」と少し安堵するんじゃないかと思います。

  つまりこのCMで創られたのが「安心できる」というEmotional Benefit、つまりブランド価値なんだと思います。「まかせて安心」なんてひとことも言ってませんよ。言っちゃダメなんでうす。感じてもらう。人は理屈では動かない、感情で動くというのがブランディングの一丁目一番地ですから。

  見ていただいたCMはもう40年も前のリジェンドCMです。

最近のCMはこれ。

  検査員が若い人になってますよね。

  最近の検査員はおっさんじゃなくて、若い人が多いんじゃないでしょうか。

  関西電気保安協会さんから「若い人でも安心でっせ」ってのを作ってくれへん?

  というオリエンがあったんじゃないでしょうか。知らんけど(😀)

  大阪弁で多用される「知らんけど」、締めに放り込んでくるこの言葉の使い方が東京人の私にはいまいち分からない。「僕と付き合ってください。結婚するかどうかは知らんけど。」という使い方なのかな?😀 知らんけど。

※脚注

○ 川崎 徹・・・日本のCMディレクター。1948年生まれ。キンチョールや富士フィルムを始め多くのTVCMの演出を手がけて、CM界の鬼才と呼ばれる。日本テレビの「天才たけしの元気が出るテレビ」にレギュラー出演した。

○ 糸井 重里・・・日本のコピーライター。1980年代に大活躍し、「コピーライター」という職種を有名にした。西武百貨店の「不思議、大好き。」、「おいしい生活」などのキャッチコピーは糸井の有名な仕事。

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