ドライブで、脇汗2Lをかく話。
友人の荒い運転が、怖くて怖くて仕方ない訳ではない。
まして、閉所恐怖症なわけでもない。
ただただ、僕がドライブで最も危惧している、ただ一つの瞬間がある。
例えば、友人の運転でキャンプにでも出かけたとしよう。
午前10時5分。集合時間が絶望的に守れない僕は、相も変わらずメンバー全員を5分待たせて駅前のファミマに到着する。
その上、「すまん、めっちゃトイレ行きたいから待ってて。あと水買ってくるわ」なんて言いながらコンビニに駆け込み、さらに5分のボーナス遅刻タイムに突入する。
それでも、優しい友人は待ってくれる。
だから、遅刻は怖くない。温室で育ったので、遅刻に対しては全く何の危惧もしていない(殺してくれ)。
午前10時10分。お花というお花を摘み切った僕は、すっきりした顔で友人の借りてきたレンタカーに乗り込む。ペーパードライバーなので、後部座席だ。
目的地をカーナビに入れて、いざ出発進行。
5分くらい経った後だろうか。宣告の刻はふいに訪れる。
…
「なあ盗塁死、何か曲流しといて」
!?!?!?!?!?!?!?!?
ぐわんと眩む視界。動悸が激しくなり、手足がガタガタと震え始める。額には嫌な脂汗がたらりと流れ落ちる。
こいつ、俺をDJにしやがった。
この瞬間、楽しい楽しいドライブの時間はあっという間に修羅場となる。
冗談じゃあない。なんで俺がDJなんかを。もう、最近は気の利いたYouTubeのレコメンドのせいで、VTuberの歌ってみた動画でしか音楽を聴いてないんだぞ。
「こういう多数の人間が集まる場だと何がいいんだ?髭男か?いや、さすがにメジャーすぎるな…SUPER BEAVERも好きだけど、暑苦しすぎるか?じゃあ放課後ティータイムがいいか…?『ふわふわ時間』はこれから始まる青春に捨てがたいナンバー…いや、笹木咲ちゃんと星川サラちゃんの歌う『ポッピンキャンディ☆フィーバー!』を俺は今一番聴きたいんだよな」
DJに宣告された刹那、0.1秒で上記の錯乱が巻き起こる。
音楽が嫌いなわけではない。好きなものをリアルタイムで共有するのが、怖くて怖くて仕方ないのである。
レンタカーDJには、「この曲が好きです!!」と公言しながら、小さなハコを盛り上げる使命がある。
なので、それに指名された以上は、好きな曲を「みんな…これ、どうカナ…?」という顔で、皆の表情を伺いつつ、会話に自然に混ざらなければならない。
そんなのは至難の業じゃあないか。
何を隠そう、僕はめちゃくちゃな小心者だ。
同じ理由で、友達とショッピングに行った時に何かを買ったことがない。
ラックをそれっぽい顔で「ほうほう」と眺め、友人がほくほく顔でレジから帰ってくるのを見ているだけで満足なのである。
ここで僕が何かを買おうものなら、「あ、こいつこういう趣味なんだw」みたいなことを思われそうだから(絶対に思われない)
ああ、書いていて何とも情けなくなってくる。
みんな、俺にDJの力を分けてくれ。俺にご機嫌なナンバーを、自信を持って流す力を。
それか、同じ症状に悩まされる人間がいたら仲良くなりたいので、一緒にドライブにでも行きましょう。お前をDJにしてやる
そんなことを考えながら『ポッピンキャンディ☆フィーバー!』を流し、車内から猛ブーイングを食らう休日であった。
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