父の教え
思春期にさしかかった頃、父は言った。
「男の中には女なら何でもいいというヤツがいる。気をつけなさい」と。
父の言葉に重みを感じたのは、身内にそういう人がいたからだろう。
親戚に死別離別を含め結婚回数が多い人がいる(子も多い)。
もしかしたらそのことで父も思い悩むことがあったのかもしれない。
父のありがたい教えから、とても用心深くなった。
バイト帰りに、パチンコ店の駐車場で休憩中のトラッカーから声を掛けられても、全部スルーした。
暗くてろくに顔も見えないのに声を掛けて来るヤツは「女なら何でもいい」族に違いない。
とはいうもののわたしも短大生になり、異性交遊がしたいと思った。
それで学外に漁へ出た。好みの男性が多くいそうな所(学習塾)でバイトを始めた。
いいオサカナがいないか見定め、釣り糸をたらした。それに食いついたのが今の夫。
正直言うと「手始めに付き合うのにちょうど良い」人だと思った。
結婚にまで及ぶ長い付き合いになるなんて思いもしなかった。
卒業後は遠距離恋愛になるから、続かずに別れるものと予想していた。
しかし双方そこそこ仕事が忙しかったことが良い方に転び交際は続き、わたしが退職すると決めてから結婚を申し込まれた。
確かいずれ結婚しようという話だったはずが、いつのまにか退職後すぐに結婚することに変わっていた。
結婚することに不思議な追い風が吹いた実感があった。
しかしまだ年若かったわたしは躊躇もした。
心を決めたのは「しなかった後悔より、結婚して後悔した方が良くない?」という夫の言葉が腑に落ちたから。
一緒になってよかったと心から思う。親兄弟よりも一緒にいて楽な人だから。
父の教えを頭に入れつつ、「遊ばれても」いいやという覚悟で交際に挑み結婚までしてしまった話おわり。