【怪談】深夜、見ちゃいけないものを見た話。
ある夏の深夜、私は近所の公園で趣味の天体観測をしていた。
三脚に備え付けた双眼鏡から天の川を眺めていると物腰の柔らかい50代くらいの男性に声をかけられた。
「星ですか?なにか見えますか?」
「ええ、都心では見られない天の川が見えますよ」
私は男性に双眼鏡をすすめる。男性は嬉しそうに双眼鏡を覗いた。
「ほぉ!小さな星が…たくさん見えますね!」
歓声を上げる男性。
深夜の天体観測の醍醐味のひとつだ。通りかかった警ら中の警察官や酔っぱらい、お水のお姉さんに声を掛けられ、そして一緒に星を眺める…。私は存外その時間が好きだった。
男性の小さな感嘆を聞きながら嬉しく思っていると、「ん?」と男性の動きが止まった。
「どうしました?」
おそらくピントをいじったかして視界から星が消えたのだろう。ピントを再調整しようと近づくが少し様子がおかしい。
男性は一度双眼鏡から目を離すと肉眼で空を見つめ、また双眼鏡に目を戻す。そして・・・
「アレは…首、ですかね…?」
冷たい声でおかしなことを言った。
は?首? 私は肉眼で双眼鏡の先を見る。木星と土星のそばに見慣れない何かが見える。星のように光っているのではなく、星雲のようにぼんやりとした何か。フワフワと浮いている? しかしよくわからない。
男性は私に双眼鏡を促す。戸惑いながらも双眼鏡を覗く。目の前には一面の星の群れ。ゆっくりと双眼鏡を左右に動かす。とくに見慣れないものはない。
その間、男性は「アレは首だ。首だ。首だった。首だ・・・」と壊れたラジオのように繰り返す。
少々不気味であったが「首」に見間違えた何かを探すことに集中する。あのぼんやりとしたものは…。
『たまに見ちゃいけないもの、
見えちゃいますよね…』
生暖かい息とともに唐突に耳元で囁かれた。驚いた私は跳ねるように身を起こして男性に顔を向けた。
「今日はよいものを見せていただきました。では」
男性はニッコリと微笑むと何事もなかったように軽く会釈をした。
見ちゃいけないもの…?いったい何を言って…
そのとき私は初めて気がついた。男性が両手に真っ白い大きなツボを大事そうに抱えていることに。あんなツボ、持っていたか?
「え、ええ?お疲れ様です?」
男性はもう一度会釈をするとゆっくりと公園を出ていった。空に目を向けるがあのぼんやりとした何かは見えなくなっていた。不思議に思いながらも双眼鏡を片付ける。
そしてふいに思い当たった。昔、爺さんが亡くなったときに私も手に持っていた。
あの男性が手に抱えていたのは 骨 壷 だ。
※昔、某掲示板に投稿したがさっぱり反響がなかった話を再利用しました。本当、あの男性は何者だったんだろう…。
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