【追記あり】シカゴでお笑いライブを見た①コントライブ #tokyosketchers
見た公演 ”Tokyo Sketchers”
Tokyo Sketchers(元ゾフィー 上田航平さん、ラブレターズさん、吉住さん、Gパンパンダ星野さん、Saku Yanagawaさんの6人で結成されたグループ)のコント公演を3日間見ました!
配信期間が延長になって1/31(金)まで公演映像を見られるみたいです!
アフタートーク付き ↓
公演映像のみ ↓
スポンサーは英語学習アプリのトーキングマラソンさん。大感謝!
なぜシカゴでコント?
もともと上田さんが
「コントだけで食えるようになりたい!」
→「アメリカではコント作家だけで食えるらしい!」
→「アメリカのコメディアンに持ちネタを見てもらったら反応がいい!」
→「アメリカでコントをやってみたい!」と2020年頃から野望を語るように。
2023年11月、ゾフィー解散後に単身ロス視察に向かい、現地のコメディアンに鬼DM。
すると、シカゴで活動するスタンダップコメディアンのSakuさんが呼応して会場をブッキングしてくれた…という経緯。
シカゴが選ばれた理由は「お笑いライブシーンがアメリカの中で1番アツいから」。
コントの殿堂番組"Saturday Night Live"の出演者を何人も輩出しているセカンドシティはまさにお笑いの聖地。
詳しい経緯を知りたい方は過去回の再配信をご覧ください!
(こちらも1/31(金)まで延長)
ライブ内容と各ネタの感想
以下、めちゃくちゃネタバレを含むのでご注意ください!
なるべく公演本編を見てから読んでもらえたら!
(文体がだ・である調に変わるので偉そうに聞こえたらすみません!
すべて個人の感想であり、皆目見当違い!な可能性もあります)
1. シカゴ・オヘア国際空港にて (出演:全員、作:Saku)
シカゴ国際空港で、シカゴに住むSakuが日本から来た芸人一行を出迎える。
いろんな手土産を持ってきたメンバーだったが、間違ったシカゴのイメージに基づいており…。
「我々は誰なのか」を端的に伝えつつ、シカゴあるあるで笑いを取っていく導入ネタ。
この1本があったおかげでかなり公演が見やすくなっていて、安心して見られた。
シカゴ在住のアメリカ人の子は「このコントが1番好きだった」と語っていて、現地の人の心をツカむことに成功していたと思う。
ちなみに最終公演では吉住さんがディブ(場所取り)のためにカラーコーンを持ってきていたけど、初日と2日目では普通の椅子を持ってきていた。
2. English Lesson (出演:全員、作:Saku)
英語教師のSakuに英会話を教わるメンバーたち。
「第二言語として英語を勉強してる日本人」という立ち位置を明確にしつつ、キング牧師→オバマ→次期アメリカ大統領といろんな演説のセリフを復唱していく。
最近シカゴに住み始めたというアメリカ人の子は「このネタが1番好き」と言っていて、トランプの強烈なイメージは全米共通なのだと思った。
一方で、日本人の子は「あれトランプのモノマネだったんですか?」と言っていて「文化が変われば常識も変わる」を実感した。
暗転する前に"Wonderful!"と英語を褒められてニッコリしている星野さんの表情がよかった。
3. ESH (出演:Saku・上田・星野、作:Saku)
ホテルに泊まりにきた2人の客。予約は1名になっているが…。
ESA(Emotional Support Animal、メンタルケアをしてくれる動物)を皮肉ったネタ。
アメリカではペット不可の物件でもESA登録をすると「生活に不可欠な存在」と認定されて同居することができる。
ただ、ESAの申請は精神科でカウンセリングを受ければいいだけ、とどんどんユルユルになっていて問題になっている。
最初に見たときは"Emotional Support Human"って堂々と言っちゃっていいのかな?と思ったのだが、「明らかに人なのにEmotional SupportをしているのならOKになる」というアメリカ社会の異常さを描きたかったとのことで腑に落ちた。
ホテルに泊まりにくるメンバーという設定の自然さ、そしてここでもESHなのでやたらニコニコしている星野さんが不気味でよかった。
4. Woke Samurai (目覚めたサムライ) (出演:Saku、作:Saku)
戦国時代に21世紀のコンプライアンス意識を持ち込むサムライ。
社会的不平等に対する気付き(目覚め)を表すWoke Culture(ウォーク・カルチャー)を題材にしたネタ。
日本で男性芸人がフェミニストをネタにすると「頭のおかしいやつ」として描かれることが多くて嫌味に見えるのだが、Sakuさんが演じる女性的なサムライは堂々としていてロール・モデルかのように描かれていてよかった。
(男性が旧来のステレオタイプ的な女性(ヒステリック、ウワサ好き、男のために他の女を蹴落とす…など)を演じると炎上する、というアメリカ文化も影響しているのだろう)
代名詞 he/him(彼は/彼を)を表明する風潮は日本でも「意識高い系だ」と困惑とともに広まったが、欧米圏では普通になりつつある。
こないだドイツの日系美容院の公式ホームページを開いたら、スタッフ紹介にまでご丁寧にshe/herと代名詞が書いてあって驚いた。
5. Sugar Baby Love (出演:ラブレターズ(+上田・星野)、作:塚本)
ラブレターズ「Sugar Baby Love」の英語版。
溜口さんがThe RubettesのSugar Baby Loveに合わせて全力でパフォーマンス。
塚本さん曰く「最初は2人で演じていたが、初日のウケが弱かったので2日目で人数を増やし、3日目でサングラスをかけてみてとどんどん要素を足してウケるようになった」とのこと。
日本でも「わけわかんなさすぎて笑う」タイプのネタではあるのだが、アメリカだとオーバーリアクションは普通なので溜口さんの過剰なパフォーマンスが「こいつ何やってんだww」という笑いにつながりにくかったのかなと思った。
ラブレターズさんのコミカルなキャラが知られている日本ならもちろんウケるのだが、2人がどういうキャラなのか、どういう関係性なのかを知らない状態で見たら単によくわからなかったのかもしれない。
2日目以降、人数を増やしたことでお祭り感が出たのはよかった。
6. Wrigley Field (出演:Saku、作:Saku)
リグレー・フィールドで第二次大戦のアメリカの退役軍人を褒め称えるよう求められるが…。
Sakuさんのスタンダップコメディの鉄板のくだりをコントに落とし込んだネタ。(2:50〜)
ナレーションベースのブラックアウトネタ(1分ですぐ暗転するネタ)にするために少しテンポが駆け足になっていて、「第二次大戦で日本を攻撃していた側のアメリカの退役軍人を褒めるべきか?」という葛藤が少し薄くなってしまったのが残念。
「アメリカにいる日本人」ならではの葛藤で、その葛藤への返し方のユーモアも日本にはなかなかない発想で素晴らしい。
7. 博士とロボ (出演:上田・星野、作:上田)
ゾフィー「ロボット」の英語版。
勝負ネタだったのでYouTubeにはあがっておらず、DVD「ゾフィー傑作選ライブ ZOBEST」にのみ収録されている。(今見たらamazonで残り1点でした!急げ!)
ロボットだと英語が拙くても、英語圏での暗黙の了解を知らなくても問題ないので、コンテクストを必要とせずとても見やすかった。
最初に設定のバラシがあるまでに長い沈黙があるのだが、なぜか初日はバラす前から沈黙に耐えきれずクスクスと笑いが起きており、日本とアメリカで耐えられる沈黙の間も違うのかもと感じた。
話が動き出してからは「感情を知らないはずのロボットが、面白い(嘲笑)という感情を知りどんどん人をイジっていく」という物語の根幹でしっかり笑いが起きていたので、上田さんの言う「完全に伝わってるじゃん!」状態だったと思う。
シカゴ在住のアメリカ人の子も「このネタがお気に入り」と話していた。
8. Trash Pickup(ゴミ拾い) (出演:全員、作:Saku)
「日本人=スポーツ観戦後にゴミ拾いしてくれる」というステレオタイプを利用したネタ。
観客席に降りて実際に観客のゴミを拾っていき、しまいにはゴミみたいな人間も拾っていく…
(アメリカではコント公演もロフトのように飲食しながら見るので、空き缶などのゴミが出る)
観客席にカップルがいると格好のイジりの標的なので、2人組がいればまずカップルか聞いて"Is he trash?(彼ってゴミ?)"と彼氏を捨てさせる。
初日と2日目は"Yes!"と答えてくれる人がいて実際に舞台袖まで連れてかれたのだが、最終日は"No!""The best!"と譲らない人が多くて「この会場にゴミはもうない」という結論になっていた。
日本人のゴミ拾いは、世界中から称賛された一方で「それしか褒めるところないの?」と冷笑する声もあった。
過剰に役に立とうとすることで、逆に余計なことするヤツ(捨てなくていいものまで捨てさせる)という皮肉も感じた。
9. 動物のはなし (出演:吉住、作:吉住)
2019年第2回単独「いっそ、飛び立ってしまえ」で披露されたネタ。
ベストネタDVD「せっかくだもの。」にも収録。
動物と会話ができるプリンセス、心やさしく見えるけど実は…。
舞台としては初日の劇場が1番広くて凝っていて、朝起きてからいろんな扉や窓を開けてみたりする演出があってわくわくさせられた。
本当にプリンセスが登場した雰囲気があって、とても惹きつけられた。
最終日には発音もめきめき向上していて、1番いいパフォーマンスだったと思う。
ただ、「本当は嫌だけど相手の気分を害さないために我慢してしまう」「長年我慢した結果、ある日限界が来て爆発する」というのが日本人のあるあるなのかもしれないと感じた。
アメリカでも上の立場の人間からのパワーハラスメントに耐えざるを得ない人はいるものの、動物たちは立場的におそらく下である。
自分の要求を主張して通していかなければいけない社会で、下の立場の存在にまで長年気を遣い続けるのは少し不自然なのかも。
吉住さんの最後の顔芸や、覚醒後に動物たちに無茶な要求をする部分はウケるのだが、「まわりの顔色を伺いすぎて言いたいことが言えない」というフリの部分の共感は減ってしまっているように感じた。
好きなネタでも日本語で見るのと英語で見るのだと全くキャラクターの見え方が変わっていて、自分たちが思っている以上にお笑いは文化に依存しているのだと感じた。
10. Japanese Crazy Gameshow (出演:全員、作:Saku)
日本のバラエティ番組のコーナーを全力で再現。
「アメリカ人が考える日本のバラエティ番組」なので、コーナーが「叩いてかぶってジャンケンポン」とシンプルな伝統芸。
Sakuさんだけが英語と日本語を織り交ぜて話し、他のメンバーは常に日本語でテンション高く元気よく受け答えする、という不思議な構図。
「実際に何を言っているかは関係なく、テンションだけでバラエティ番組のコーナーは成立している」という皮肉なのかなと思った。
「先輩がスタジオから見ている」とワイプを表現する箇所があるのだが、初日はただ立っているだけだったので役割がよくわからなかった。
(バラエティ番組のコーナーをリアルに再現するなら実際のワイプっぽくリアクションした方がわかりやすいし、そうしないならワイプなんていらねーだろという皮肉だったのだろうか)
2日目、最終日は少しリアクションするように変化していたので、どっちも正解なのかな?
ちなみに初日にだけパンスト相撲をするコーナーがあって、ラブレターズのお二人がパンスト相撲にチャレンジしていた。
「これが日本のお笑いだと思ってるなら、Fuck You!」というオチで、「日本のお笑いはわかりやすい体芸だけではない」と表明したのはよかった。
11. English Lesson II (出演:Saku・ラブレターズ、作:Saku)
英語教師のSakuが各都市ごとに覚えた方がいい英語のフレーズを教える。
こちらもお客さんと交流するネタで、毎公演違うフレーズをお客さんから教わっていた。
初日はまじめに受け答えしていた塚本さんも、最終日にはドーナツを食べながらリラックスして受け答えしていて面白かった。
12. パーソナルジム (出演:Saku・星野、作:星野)
Gパンパンダ「パーソナルジム」の英語版。
メンバーも「鉄板」と語るように、公演後いろんなお客さんに聞いたところ「このコントが良かった」と語る人が多かった印象。
星野さんのどうみてもガリガリな体型、温厚そうな見た目なのにサイコな行動、というドタバタが現地の人にもハマって大ウケしてて嬉しかった!
"This is Hoshino Support System."というバラシのセリフも初日・2日目は本当にバシッとキマっていたので、公演映像で見られる最終日の映像ではお客さんの笑い声と被ってしまってうまく聞こえなかったのがほんとにもったいない!
あと、初日は転換時にサッと舞台に運んでいたバーベルを、3日目では重そうに上田さんが運んできてセッティングしていて、コントに入る前から世界観を演出する工夫が追加されていてよかった。
13. 銀行強盗 (出演:吉住、作:吉住)(2025/1/30追記)
THE W 2020で披露された優勝ネタの英語版。
ベストネタDVD「せっかくだもの。」にも収録。(「思い立ったが吉日」)
銀行強盗の真っ最中に銀行員の女が考えることとは…。
このネタは「支店長」がManagerと直訳されてることがど〜〜〜〜しても気になってしまって正直世界観に入り込みづらかった。
アメリカの企業なんだったら上司でもファーストネームで呼び合うのが普通じゃないか?好きなんだったらなおさら名前で呼ばない?と思ってしまった。
(ネイティブであるギャビンさんのOKが出ているので、"Manager"と呼ぶことも間違いではないらしいが)
あと、アメリカでは仲良くない人に急に告白するという文化があまりなくて、仲良くなってお試し状態を経てから付き合うことが多いので、「死ぬ間際に告白したい」という思考回路が英語圏ではあるあるにならないのかなぁと感じた。
吉住さんが得意とするぶりっ子キャラもかなり日本的なあるあるで、英語圏のぶりっ子のあるあるではないので、共感の笑いが薄くなってしまってるように感じた。
無理に舞台をアメリカにせずに、後述する「光」のネタのように舞台設定を日本のままにした方が素直に見れたのではないかと感じた。
銃がより身近なはずのアメリカだからこそ、銃を恐れずに好き勝手に行動する女性のサイコさが増していたのはよかった。
吉住さんが最後に見せる迫真の顔が観客にインパクトを残していた。
14. 作曲家 (出演:上田・星野、作:上田)(2025/1/30追記)
ゾフィー「森の作曲家」の英語版。
初日・2日目は「街中でホテルにスマホを忘れたことに気づく」という設定だったのだが、最終日は「ビーチにいる」という設定が加わってより「ホテルから遠くにいる」という設定がわかりやすくなっていた。
かなりウケていて、転調して不穏になっていくロッキーの曲に「Oh…」と現地の人も共感しながら笑っていた。
15. Forest Gamp (出演:Saku、作:Saku)
映画「フォレスト・ガンプ」のオープニングのパロディで、「ママはいつもこう言ってた」と人生のどうでもいい教訓を発表していく一言大喜利ネタ。
日本だといくら各映画賞を総ナメした大ヒット映画だからといって今フォレスト・ガンプのパロディはやらないと思うので面白かった。
「O.J.シンプソンはやってる」と、みんなが忘れかけた頃に昔の有名人の不祥事を持ち出してくる大喜利のユーモアは日本もアメリカも同じらしい。
参考:O.J.シンプソン事件
アメリカン・フットボール選手のO.J.シンプソンに殺人の容疑がかけられ逮捕されるも、刑事裁判では無罪に。しかし、民事裁判では殺人が認定され有罪になるという奇妙な結末に。やったの?やってないの?
16. 自殺を止める (出演:上田・星野、作:星野)
Gパンパンダ「自殺を止める親友」の英語版。
生命保険の保険金目当てに自殺しようとする友人に、もっといいプランがあるよと保険を売り込もうとする。
このネタは初日から反応がよくて、「保険営業」というテーマがアメリカ人にとってより身近なのかな?と感じた。
アメリカは国民皆保険でないため自分で民間保険を契約する必要があり、強引な営業というのがよりあるあるだったのではないだろうか。
飛び降り自殺から拳銃自殺に設定が変わっていたので「怪我で済んだらどうする?」というセリフに「?」と思ったのだが、どうやら拳銃自殺もけっこう失敗するらしい。
(コントの中ではこめかみに銃を当てて自殺しようとしているが、このやり方だと引き金をひいたときに反動でずれてしまい、反対側ではなく頭の上部に向かって弾丸が飛んでいってしまう→脳を一部損傷するだけで死ねないケースが多いらしい。口の中に拳銃をくわえる方が確実とのこと。日本に住んでたらあまりいらない知識)
17. 光 (出演:ラブレターズ、作:塚本)
ラブレターズ「光」の英語版。キングオブコント2024の優勝ネタ。
アフタートークでご本人が語っていたように、初日→2日目→3日目と1番紆余曲折あったネタだったように思う。
初日は公演映像と違い、Sakuさんが実際に舞台に出てきて「ひきこもり」の概念を説明した後に「鍵はどんぐりです」と紹介してからネタに入っていて、「ええっ!?ネタバレしちゃうの?!」と動揺した。
そして「もう2年も外に出てないのよ!」というセリフが削られていたり、フリが大幅に短くなっていたことで「なぜ息子が外に出ていたことがわかると親子がこんなにも感情的になるのか?」ということがわからないまま進んでしまっていて、あまり観客が感情移入できていないように感じた。
ギャビンさんは「英語にしたことで、間が変わってしまったのが問題」と指摘していて、2日目でどんぐりのネタバレを削り音声でのナレーションになり、3日目で間を調整し、とどんどん親子に感情移入できるようになっていてよかった。
そしてハイタッチによるどんぐりと感情の爆発ですっきり終了。
大きなインパクトを残したようで、シカゴ在住のアメリカ人の子も「このネタが好き」と言っていた。
18. 謝罪会見 (出演:上田・星野、作:星野)(2025/1/30追記)
ゾフィー「謝罪会見」の英語版。キングオブコント2019の決勝ネタ。
「芸能人の不倫スキャンダルがあったときに謝罪会見をする」という文化がアメリカにはないので「テレビの単独インタビューを受ける」という設定に変わっているのだが、そのせいで展開が少し強引になってしまっているように感じた。
テレビのインタビューだとしたらなぜ片方だけに机があって片方にはないのか?
なぜインタビュアーが離れたところに座っているのか?
なぜホストであるインタビュアーの立場の方が弱いのか?
(会見であれば主催は腹話術師だが、テレビ番組だとインタビュアーやスタッフの方が権力があるので変なことが起きたなら止められてしまう)
とアフタートークで上田さん本人が語っていた言葉に同意だった。
ふくちゃんと上田さんの表情や動きがシンクロする部分ではとてもウケていたのだが、ふくちゃんの不遜さや人形らしくない言葉遣いというギャップが英語では薄くなっていたのが残念。
たとえば、「だったら、問題ないんじゃない?」が"There is no problem, is there?"と訳されていて、たしかに意味は同じなのだけれど
「だったら/問題・ないんじゃ・ない?」という小気味いいリズムが変わってしまい、あまり日常で聞かない否定疑問文になってしまったのはキラーフレーズとして覚えづらい印象を受けた。
そしてそれを受けて「たしかにね」と上田さんが言う部分が日本語のコントでは面白いのだが、これは「不倫はいけないのになんで開き直ってるんだこいつ」という笑いである。
アメリカでは「そもそも芸能人はモテるんだから不倫くらいするだろ」というイメージなので、この「開き直り」の面白さが薄くなってしまったのか"Exactly!"だけではあまりウケていなかった。
(なので、英語版ではその後に少しふくちゃんとのやりとりを足していた)
あと「座れ座れ座れ、興奮して立っちゃうようなやつはバカだ」のセリフが削られていて、ただ単に「なんなんだオマエ!」「F*ck You!」という喧嘩腰のやりとりが続くだけだったのも少し寂しかった。
(最終日は"We are all adults here, right?"と似た意味の言葉が追加されていて よかった)
セリフの意味や自然さだけでなく、リズムやアメリカ人にとってひっかかるワード(おもしろワードかどうか)など、言葉が笑いに及ぼす力についても考えさせられた。
19. The Boss Bear (出演:Saku・星野、作:Saku)
シカゴ市内にあるLincoln Park Zooの熊が主人公。
人気者の熊は次第に飼育員への要望が横暴になっていき…。
コントの内容およびその意図をSakuさんご本人が詳しく説明されているので、気になる方はこちらもどうぞ。
最後は中国からやってくるパンダによって自分の地位が脅かされ、
「だから移民は嫌いなんだ」と移民であるSakuが言うという皮肉。
外国人比率約3%の日本(※)にいると全く実感がわかないが、欧米の政治トピックはもっぱら移民問題。
移民を歓迎しているシカゴですら、「違法行為をするヤツは容赦無く追い出す」と方針を転換する法案を2025年1月10日に提出した。
そもそもアメリカ自体が先住民族を追いやって建国された移民の国であり、アメリカにいる限り移民問題は切っても切り離せないトピックだと考えさせられた。
※ 2024年の在留外国人数は358万8,956人、日本の総人口は1億2374万人(概算)なので、約3%
20. Ending (Japanese Gameshow II)
トランプの名言クイズにチャレンジして失敗するけど、なんやかんやで成功扱いになり大団円
シカゴに着いたときはシカゴのまずい酒(マロート)を飲まされるけど、シカゴでいろんなことを経験した末においしい日本の酒で乾杯できるようになる、というのが今回の公演自体とリンクしていて、ポジティブなメッセージを感じる終わり方でよかった。構成がすばらしい!
Tokyo Sketchers公演の客層
3公演とも現地に住む日本人(もしくはアジア人)とアメリカ人(欧米圏・ラテンアメリカがルーツのアメリカに住んでる人)が半々だった印象。
「木→金→土」と公演を打ったので、観客数も約「30人→40人→50人」と右肩あがりに増えていた。(目視なので多少の誤差あり)
「どうやってこの公演を知ったのか?」と聞いて回ったところ
現地の日本人(出演者のファン)
現地の日本人の友達のアメリカ人(↑に誘われて来た人)
日本文化・日本のお笑いに興味があるアメリカ人
YouTubeでSakuのスタンダップコメディを見て来たアメリカ人
↑と一緒に来たパートナーや友人
その他関係者(劇場スタッフ、Sakuさんや劇場スタッフの友人、劇場に出演しているコメディアン)
という感じだった。
「普段あまりお笑いライブに来ないけど来てみた」というお客さんも多かった印象。
1人で来ている人が少なく、いろんな人が「一緒に行こう」と気軽に友達を誘って来れるのがアメリカのお笑いライブなのだと感じた。
2日目、ホステルで滞在者同士の交流会があり「シカゴまでお笑いライブを見に来たよ」と伝えたら「私も行こうかな」と言われてびっくりした。
「22時くらいからその劇場があるエリアに踊りにいくから、その時間までヒマなんだよね」と話していて、社交辞令かなと思っていたのだがなんと実際に20$払って一緒に来てくれた。
初対面の人間と、出演者誰も知らないお笑いライブ行くか!?
その子が相当なフッ軽人間であることは間違いないが、お笑いライブに行くハードルが低いからこその出来事だと思った。
「スタンダップは行ったことあるけど、コントライブは初めて」と言っていたので楽しんでもらえるか不安だったけど、公演中めちゃくちゃ笑ってくれてて一安心。
シカゴのお笑いも日本のお笑いも、ヒューストン出身のメキシコ系アメリカ人にも伝わりましたよ!
Tokyo Sketchers公演の意義(2025/01/30追記)
日本人とアメリカ人に共通する笑いのポイント、逆に伝わりづらいポイントの両方がわかった
今回「日本でウケてるお笑いをそのままアメリカに持っていっても通用するネタがあるのでは?」という仮説から今回の公演を行うことになり、結論としては
「日本とアメリカのお笑いで、共通する部分もあれば違う部分もある」
「お笑いの文脈やお笑いに求められるものが違うので、ただそのままやればいいというわけではない」(演出の変更など、検討が必要)
という普遍的な結論がわかったように思う。
また、自分たちが思っている以上に、文化的背景に基づく暗黙の了解がすでにコントのフリになっていることが多く、それぞれの社会への勉強が必要だと感じた。
伝わりやすいネタを選定した上で、前半にアメリカ社会を反映したPOVのあるお笑い(アメリカあるある・シカゴあるある)を散りばめてツカむという構成があったからこそ、後半の日本のネタパートもウケたのである。
また、シチュエーションのバカバカしさが重視される日本と比べて、アメリカでは社会に対する自分の視点(POV、Point of View)があるネタが評価されるとのこと。
今回はSakuさんがいたことでシカゴがやる意義が生まれていたが、「なぜアメリカであなたがそのお笑いをやるのか?」という文脈も重要なのだと感じた。
アメリカ人が持つ日本人へのステレオタイプを打ち崩した
アメリカ人にとって、日本のお笑いはバラエティのコーナー芸やドッキリ芸、そして日本といえばアニメ・漫画、スポーツ(野球)のイメージが強いとのこと。
こうしたステレオタイプにJapanese Gameshowのネタで「No」を突きつけ、キャラクターの繊細な機微やシチュエーションのおかしさなどに重きを置いたコントの面白さを理解してもらえたことはとても意義がある。
また、キングオブコント2024のチャンピオンであるラブレターズさんの「光」がアメリカで受け入れられた意義も大きい。
「これが日本で今年1番評価されたネタなんだ」ということを自信を持って示せたことで、「日本のお笑いがアメリカに伝わった」という構図がわかりやすくなった。
日本にいる他の芸人に夢を与えた
今回コント公演をアメリカで実際に行ったことで、「緻密なセリフ回しが必要になるコントで海外に行くのは難しい」という思い込みを払拭できたように思う。
「日本のお笑いの海外進出が進んでいる」とはいえど、ほとんどは体や動きを使った芸をゴット・タレントという場で披露するか、すでに日本のお笑いファンが多い中国などアジア圏で字幕付きで漫才をするというパターンが多かった。
あれだけ何年もみんなでM-1の予選で落ちていたのに、普段ライブでつるんでいるメンバーが決勝に行き始めると「本当にいけるんだ」というのが実感として芽生え、急に仲間がみんなどんどん決勝に行き出す、という現象がある。
今回のノウハウが周りに伝わっていくことで、「自分にもできるかも」と挑戦をする人がどんどん増えれば嬉しい限りである。
移民の夢を実現した(異国での挑戦を成功させた)
Sakuさんのラジオの中で、Second Cityのステージマネージャーであるフィリピン出身のシャーロットさんから
「あなたは移民の夢を実現したの、それは何より素晴らしい」
と公演後に言ってもらったと紹介されていた。
「移民の夢を実現した」というのは、無謀とも取れる異国での挑戦を成立させ、現地の人に受け入れられ、無事に終わらせたという意味だろう。
一方で、「今回はとてもいいスタートだったと思います。スタートとしては十分だけど、ここから磨いていかなければいけない。アメリカはそんなに甘くない」と釘も刺されたとのこと。
「大成功!」とはいえど3公演どの公演もチケットが完売したわけではなく、アメリカのメディアで取り上げられたわけでもない。
「ウケた」という意味では成功だが、興行的にはスポンサーありきで現時点では「赤字」とのことなので、商業的に成功したわけではない。
今後改善できる点はまだまだ多くありそうだ。
フロー状態を異国で経験できた
馴染みのない土地で全編英語コントをするという新しいことに挑戦し、ウケることでアドリブがどんどん出てきたり、パフォーマンスの調子がよくなったさらにウケる、といった観客との相乗効果を経験できたことはとても素敵だと思った。
アフタートークで「またやりたい!」と熱量高く語られていたので、今回の経験が出演者の皆さんにとって、今後の活動の糧となることが嬉しい。
Tokyo Sketchers公演を見て感じた課題(2025/1/30)
英語でコントをするべきか、字幕をつけるべきか
今回は現地の人たちと同じように全編英語でコントに挑戦して、"同じ土俵"でパフォーマンスすることが選ばれた。
現地の人にとって見やすかったのは良かった一方で、演者のほとんどの労力が「英語の台本を覚える」「英語の発音を向上する」に割かれてしまったことは少しもったいなく感じた。
アメリカでは観客とのやりとりが重視されるので、台本を覚えるよりも「即興的なコミュニケーション能力」に重点を置いてもよかったのではと思う。
いつまでも「英語ができないから…」と遠慮してしまうのは日本人あるあるだけど、「失敗したから何?」ぐらいの図々しさがあっても全然いい。
また、「難しすぎる単語はセリフを覚えられないので、簡単な言い回しに変える」必要があったからか、「英語として聞いたときのワードの面白さ」「英語になったからこその面白さ」はあまり感じられなかった。
本来ワードの面白さとは「普段あんまり使わないけど、言葉としては知っている」ところにあったりする。
そういったニッチな英語表現が排除されてしまったかもしれないと思うと、字幕をつけた方がウィットに富んだ表現を残せたのではないかと感じた。
(たとえば、翌日に見に行ったコントで「大変!あなたが飼っていた猫が事故で死んじゃったのよ!かわいそうだから、剥製にして返してあげるね」とtaxidermyという言葉が出てきて私はおもしろかった。
このあたりは「おもしろ三文字」みたいな感覚の問題なので、他の人に理解されるかはわからない)
また、「英語でパフォーマンスする」という条件に合わせて多くのコントの舞台設定をアメリカ(もしくは英語圏)に置き換えてしまったので、細かい部分で辻褄が合わなくなってしまい、それが違和感として残って笑いづらくなっている部分があるように思った。
「全て日本での出来事である」と割り切って見せてしまった方が、「日本ではそういう文化なんだ」と納得しやすかったのではないだろうか。
アメリカ的なお笑いと日本的なお笑いをどう融合させるか
今回、初回から企画会議を見てきた。
Sakuさんから「せっかくなら新ネタを」という提案があったので、それぞれの芸人さんが新ネタを書くのかと思っていた。
しかし、蓋を開けてみると新ネタは全てSakuさん作だったのが少し残念だった。
「日本で活躍しているお笑い芸人がアメリカ社会やアメリカ文化を眺めたときに、どこを「面白い」と感じるのか?それをどう表現するのか?」
ということが気になっていたので、そういう要素がなかったのは残念。
「日本で普段の仕事もあって、いろいろやることあるのにそこまで手が回らんわ!」という話ではあるのだけど。
だからこそ、字幕を選択していれば本ネタの部分はほぼそのままやるだけでよくなり、労力が減ったはず。
そのぶん、「アメリカの文化や社会を勉強する」「学んだことに基づいて新ネタを作る」と別の分野に全員で力を入れられたのではないかと感じた。
今回シカゴに実際に行ってみたことで気付いたこともたくさんありそうなので、それが今後に生かされることを期待している。
(アメリカ的なお笑い、日本的なお笑い、という書き方がやや乱暴ですみません。
アメリカと日本、それぞれの「社会・文脈に根ざすお笑い」(そのとき話題になっているもの(時事ネタ)、住んでいる人にとって身近な話題(ご当地ネタ)、多くの人が日常で体験すること(あるあるネタ)など。)
結局顔芸なのか?
前述のSaku's radioで、Sakuさんはこうも語っていた。
たしかに、コンテクストが重要でないネタ(ロボや作曲家、パーソナルトレーナーなど)はウケやすい一方で、光や謝罪会見などコンテクストが重要なネタは演出に試行錯誤が必要だった。
ウケてよかった!と喜ばしい一方で、
吉住さんの狂気迫る顔(銀行強盗、動物のはなし)
ラブレターズさんの過剰な泣き顔、どんぐり破裂のインパクト(光)
上田さんとふくちゃんの表情のシンクロ(謝罪会見)
星野さんのコミカルな動作(パーソナルトレーナー)
など、フィジカルでウケた部分が多かったのも事実である。
じゃあ顔芸じゃない「日本のお笑い」ってなんなんだよ、と考えてみると
日本語のことばあそび
今回、ロボットのネタで太陽をイジるくだりがあり、ロボットが「い、たいよう(痛いよう / い太陽)」とダブルミーニングでふざける部分があるのだが、「これを訳すのは無理」とギャビンさんも頭を抱えていた。日本的な人間関係で生まれる緊張と緩和
(厳しい上下関係、ハッキリ物事を言う気まずさ、キャラと違う言動…)日本の義務教育のあるある
(教科書に載っている文学作品、給食や掃除、制服、時間割…)日本の芸能人やサブカルチャーのあるある
など、文化に根ざすものであることがわかる。
漫才と比べて、固有名詞を使ったあるあるは今回出演したコント師の皆さんがあまり使わない分野ではある。
「日本語のおもしろさ」をどう英語で再構築するか、
「日本的な人間関係」をどう違う文化の人に共感してもらえるかを検討するのが大事なのではないだろうか。
英語圏と日本語圏のコミュニケーション文化の違い
動物のはなしや銀行強盗のネタで前述したように、日本と英語ではコミュニケーション文化が異なる。
そのため、「このキャラがこういう反応を示すのは自然なのか」(共感できるか)に日本語圏と英語圏で違いが生じる。
コントの中で変な人として扱われるべきなのか、それとも普通の人として扱われるべきなのかが文化によって変わってしまうので、注意が必要である。
翻訳の課題(直訳か、意訳か)
翻訳はむずかしい。ただ直訳するだけではなく、
日本語でのセリフのリズムや語感が持っていた面白さ
英語として聞いたときの音や含蓄(Connotation)の面白さ
会話全体での流れの自然さ
なども考慮が必要である。
ドナルド・キーンが礼装の表現を英訳するときに白足袋から白手袋に変更したように、「現象は変わるが、意味は同じ」となるよう大胆に翻訳することも時には必要かもしれない。
まとめ
2024年4月時点で「公演映像は全編は配信できないかも」「日本で映像を見るイベントをやるにしても、現地でしか見られないかも」という話だったので、ドイツにいる私は正直出演者よりも早く宿と航空券を取っていた。
(日本人のファンが押しかけたらシカゴでやる意味がないから自重して、という話ではあったが航空券代もろもろを考えれば全公演が完売するほど日本人のファンが押しかけるわけはないだろうと思ったし、「(シカゴは銃撃事件が多いので)銃撃される覚悟があるほどコントが見たいなら来てもいい」という話だったので行くことにした)
初日を迎えたときに「シカゴの劇場にいつも日本で見てた人たちが立ってる?!」ということにまず感動し、Sakuさん以外の皆さんは日本からはるばる来てて、わたしもドイツからはるばる来てて、異国で日本のお笑いを見られることあるんだ、となんだか不思議な気持ちになった。
コントは伝わる部分もあれば伝わらない部分もあって、日本で爆ウケしてきたのを見て来たぶんもどかしさもあったけど、伝わっている部分があることが嬉しかった。
実際に公演を行った人が身近にいることで、日本のコント師にとって「こういう道もあるんだ」と希望になったと思う!