聖母子
ピカソと並ぶ20世紀を代表する画家のひとり、アンリ・マティスの晩年の作品に「聖母子」というものがある。
フランス、ヴァンスのロザリオ礼拝堂にあるこの作品、神父の記録によれば、マティスは次のことを語ったという。
「礼拝堂に入ると、私のすべてがそこにあるように感じます。それは、子供のときに私が持っていたあらゆる最良なものであり、私が生涯を通じて保とうと努めてきたものなのです。」
(『マチス』P.74 日経ポケットギャラリー)
一見、誰にでも描けそうな、ラフで素朴なスケッチであるが、見れば見るほど、巨匠マティス80歳の境涯が自(おの)ずから染(し)みだした、静けさと伸びやかさ、そして慈しみ深い安らぎが、観る者に伝わってくる。
円融相即(えんゆうそうそく)の聖母子像である。