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ERGORESTと「縦テンティング」で最高に楽なタイピング


(画像左側がマグポッド+ポケット三脚、右側がmagsafeアダプタ+Z型雲台)

前置き

キーボードとは、関節技の一種である。

一般的なキーボードでタイピングを行うと、手首は内側に捻られ(回内)し、かつ小指方向に折れる(尺屈/内転)。
キーボードを触らずにこの動きをしてみると、随分負担がかかっていることがわかるだろう。我々は、タイピングの最中、ずっとこの姿勢でいるわけだ。
合気道では、小さな関節を極めることで全身を制圧する。我々はキーボードという合気使いに、日々制圧され続けていると言っていい。

かつて、肩凝りには分割キーボードが効くという記事を書いた(ふつうのキーボードでバチバチタイピングしてバキバキ肩凝ってる人に作って欲しい自作キーボードの紹介|もりやん)。
付け加えると、手の位置を左右に離すことで、手首の尺屈も緩和される。両手がハの字型になるような配列を持つ一体型キーボード(Keychron Q8 (Alice Layout) QMK Custom Mechanical Keyboardなど)でも同様の効果がある。
ただし、回内については緩和されない。Aliceレイアウト等では、肘が開くことによって、むしろ回内が大きくなる場合さえある。

手首の回内には、前腕の三つの筋肉が関与しており、これらが常に緊張し続けることになる。(参考:前腕の回内に作用する筋肉の種類とその起始・停止・支配神経・拮抗筋を解説 – 手技療法ノート
回内を緩和することで、タイピングに伴う前腕の疲労を大きく軽減することができる。

キーボードを立てよう!

回内を軽減する目的で行われるのが、キーボードの テンティング(tenting) だ。
テント(tent)とはキャンプで使うテントのこと。中央から左右へ向けて傾斜したデザインを指し、テントのような形になることからそう呼ぶ。
入手しやすい製品としては、ロジクールERGO K860ワイヤレススプリットキーボードあたりか。
縦型のマウス(MA-EWBS513BK【静音ワイヤレスエルゴノミクスマウス】)やトラックボール(MA-WTB178BK【ワイヤレスエルゴトラックボール】なども理屈は同じだ。むしろ、こちらのほうが見覚えのある方は多いかもしれない。

元々は一体型キーボードの文脈で生まれた言葉のようだが、分割型キーボードでは「支柱」を付ければ簡単に実現できるため、最近はもっぱらそっちで使われる印象だ。
一体型キーボードではそれほど過激な角度にはできないが、分割型キーボードなら、その気になれば垂直にだってできる。手は「小さく前へならえ」の形だ。

ただし、そうなるともう一つ問題が出てくる。高さだ。
キーボードのサイズが大きければ大きいほど、左右の端からホームポジションまでは距離がある。
テンティングすると、それがそのままデスク天板からホームポジションまでの「高さ」に繋がってくるわけだ。
ただ高いだけならパームレストで調整すればいいが、外側は低く内側はもっと高いため、パームレストにも角度を付けないと対応できない。

そこで、テンティング機構を組み込んだ高級分割キーボード(Dygma Raiseなど)では、パームレストも一体としている場合が多い。
自作の文脈では、パームレストの位置調整機構を組み込んだThe End Custom Endrest(一体型可変パームレスト)セットという意欲作もある。
しかしこれはこれで、あまりに急峻な角度では「滑り落ちる」という問題がある。
個人的な意見だが、この手のパームレストで快適に使える角度は30°くらいまでではなかろうか。

この問題を解決するのが、 「アーム型」アームレスト だ。

ERGOREST

類似の商品もあるが、原点にして頂点と呼べるのがこのERGORESTだ。滑らかに動くアームに据え付けられたアームレストは、腕を「浮かせたまま」快適に保持する。
デスクチェアの肘掛けを使っても似たようなことはできるが、それだとマウス(トラックボール)とキーボードの併用がやや難しい。
肘の捻りで対応することになるので、どうしても無理が出る。そもそも、そこまで高い肘掛けのチェアもそう多くない。(ちなみに、肘掛けの高いチェアとしてはコーラルがおすすめ)
しかし、ERGORESTなら「水平移動」で無理なく対応できる。そういう意味で、テンティングしなくても充分おすすめなのだが、いかんせん高い。価格相応の快適さを実感できるのは、キーボードを思いっきり立てた場合だと思う。

ERGORESTがあれば、切り立ったキーボードも怖くない。
しかし、テンティング対応キーボードが好みに合わない場合もあるだろう。愛用のキーボードをテンティングするには、どうすればよいだろうか。
3Dプリンタで台を作る、なんていう方法もあるが(定番自作キーボード「Ergo42 Towel」を、よりエルゴノミックな感じにカスタムする話—3Dプリントでケースをつくる—)、誰にでもできることではない。
そこでよく採用されるのが、カメラグッズだ。

カメラグッズでテンティング

カメラを置く台のことを、雲台と呼ぶ。いわゆる「三脚」も雲台のひとつだ。さまざまな撮影状況に対応するために自由度の高い調整機構を組み込んだ製品が多く、中には卓上サイズのものもある。

特にキーボード界隈で評価が高いのが、マンフロットのポケット三脚| Manfrotto JPだ。
畳むと手のひらサイズになり、ビルドクォリティも高い。角度もかなり自由が利く。
これにいわゆる「カメラネジ」、1/4インチ径のネジでカメラを固定するわけだが、当然、キーボードにカメラネジ対応の穴はない。

そこで注目を集めたのが、エツミのマグポッドだ。
粘着テープで金属プレートをスマホに貼り付け、雲台に磁石で固定する。付属の三脚はキーボードには大きすぎるが、これをポケット三脚に置き換えればいい。

マグポッド+ポケット三脚の組み合わせはキーボード界隈でけっこう流行して、僕も試したのだが、個人的には今一つだった。
一つの問題は全体がデスク上で滑る、というか回ってしまうことだったのだが、これは天板直置きではなくデスクマットを敷いたらかなり改善された。ポケット三脚の滑り止めはかなり強力なのだが、食い込んで留まる「柔らかさ」が必要だったようだ。
ただし、関節部の多さから来る微妙な不安定感はどうにもならなかった。三脚全部が可動式で、マグポッドは球体関節なのだから当然だ。
気にならないという人もいる。まったくダメだとまで言うつもりはない。Not for me、というだけだ。

そこで、Z型雲台を導入することにした。実際に購入したのはアリエクで売ってたノーブランド品だ。
このタイプの雲台は、底面が広く、関節が少なく、さらに関節の硬さをネジで調整できるため、頻繁あるいは微妙に角度を調整しない場合にはポケット三脚よりおすすめできる。V型があればなおいいのだが、関節一つ使わなければ問題ない。
キーボードとの接続には、magsafe用のアダプタを採用した。購入したのはlapsetの製品だ。当然、これも球体関節より安定する。
(なお、いずれも工作精度は微妙で、片方ユルユルでネジが締まりさえしなかったのが、入れ替えたらちゃんと締まったりした。もうちょっとお高いやつのほうが安心かも)

平置きで使いたい時は、雲台を折り畳んでもいいし、マグネットを外してもいい。
僕は試していないが、取り外しが不要なら、メスメスのアダプタを、両面テープなりでキーボードに貼り付ければいいだろう。

キミの愛機をおっ立てろ!

というわけで、既製品の組み合わせで快適なタイピング環境を実現することができた。

キーボードを立てると、キー配列とかスイッチとか、平置きとはまた求められるものが変わってくるのだが、それはまたの機会に書くことにする。

縦キーボードはいいぞ!

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