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#HHKB Professional HYBRID Type-Sは冨安健洋である

歴史に残るセンターバックは、10年に一度誕生するという話がある。

2003年、静電容量無接点スイッチの搭載から16年。

HHKB Professional HYBRID Type-Sは、いわば冨安健洋である。

HHKBとは

Happy Hacking Keyboard。略してHHKB。

高級キーボードの国内市場においては、RealforceとHHKBが双璧を成している。

共通する特長は、静電容量無接点方式のキースイッチだ。
入力の正確性、指への負担、打鍵のフィール等、多くの点において最高峰と称されている。

反面、大きく異なるのがキーレイアウト。
一般的なキーボードを踏襲するRealforceに対し、HHKBは変態配列とも呼ばれる、極度に無駄を排したコンパクトなレイアウトを特徴とする。

この高度に完成され、言い換えれば設計上の遊びが少ないデザインのため、20年を超える歴史にもかかわらず、HHKBのバリエーションは多くない。

カラーと刻印のバリエーションを除けば、ざっくり言って、レイアウトがUSかJISか、後は静音版とBT版があるだけだった。
(一応レイアウトのみ踏襲した廉価版のliteも)

静音版とBT版。
つまり、「静音かつBT」のバージョンは今までなかった、ということになる。
付け加えると、BT版のUSBポートは給電専用であり、入力デバイスとしての接続はBluetoothでしかできなかった。

2019年新作のウリは、まずここだ。

「完全」なるBT版

今回の新作が冠する「HYBRID」は、有線接続と無線(BT)接続の両立を意味する。
つまり、BT非対応デバイスであっても、電池が切れても、USB type-c接続での対応が可能だ。

また、「静音かつBT」のバージョンも用意された。

先代のBTは、不要なものを削ぎ落とした割り切りというより、単に「物足りない」という印象だった。
キーボードのような限りなくノーラグが求められるデバイス、しかも高級品でBT専用は怖すぎる。
ただでさえ小さく軽く、しかもBTでモバイル用途が想定されるのに、静音機能が付かないのは片手落ちと言うしかない。
複数ペアリングに対応するくせに、任意に接続先を切り替えられないのもそうだ。

HHKBらしからぬ中途半端さ。
僕が初のHHKBとして、静音なし・BTなしの中古品を選んだのも、「HHKBらしさ」を体験するにはそれで十分だと思ったからだ。

だが、その「らしくなさ」は完全に払拭された。
堂々たる全部盛り。
ホットキーによる接続先デバイスの任意選択。
「バッテリーの寿命より長く使って欲しいから」という乾電池オンリー駆動は、むしろ清々しいといえる。

加えて、HHKBユーザーミートアップでも、打ち心地がさらに良くなった気がするという声が聞かれた。
僕もそう思った。
曰く、「(キーそのものの)設計は変わっていないが、検品を厳しくし工作精度を高めた」らしい。

更に、押下圧30g版を求める声については、「45gに拘りがあるので、やらない」とバッサリ。

つまりこれは、現在の設計思想における完全体と見ていいだろう。
スペックそのものはいったん打ち止めなので、クォリティを高めた。そういうことだろう。
足が遅いとか、一対一が弱いとか、足元が下手とか、1試合に1回ポカするとかいうことがない。

次にこのレベルの完成度を持つHHKBがラインナップされるのは、10年は先のことになると思う。
冨安が現役のうちには出ないかもしれない。

ゆえに、HYBRIDは買いなのだ。

さらに言うなら、今こそUS版が買いだ。

USレイアウトの誘惑とキーマップ変更

HHKBは、USレイアウトが基本である。
プロモーション用の画像も、「JISの配列紹介」以外は、USが使われている。
削ぎ落としたコンパクトさを求めるHHKBの設計思想からして、それは当然と言える。

それでも少なからずJIS版が選ばれる理由は、大きく三つと考える。

1. 慣れ
2. かなキーや半角全角キー
3. 矢印キー

1と2は、慣れと好みの問題なのでどうしようもない。
問題は3だ。
できればUSがいいが、矢印キーがないのは困るという人は多いだろう。
「Fnキーと合わせて上下左右入力できるキー」はあるのだが、一手間増える以外にもう一つ大きな問題がある。

それは、仮想矢印キーの配列は、当然、幾何学対称になっていないということだ。
波動拳を入力するとき、「下、斜め前下、前」とコード的に認識している人はあまりいないだろう。
Vimゴルファーでもない限り、上下左右だけは「入力」ではなく「操作」となる。
斜めにズレた配列の矢印キーで、「操作」を行うのはかなりツラい。
付け加えるに、ホームポジションのままだと小指もツラい。

そこで、なんかキー増えるからついでに付けちゃえと言わんばかりのJIS版となる。
こちらは独立した矢印キーがあり、もちろん「テトリスの山形」だ。

用意された仮想矢印キーの代わりに、HJKLを使う手は以前からあった。
Vimにおいてカーソル移動を担うキーを並べたものだが、「右手ホームポジション上、横一列のアルファベットキー」が選ばれている。
押しやすく、小指が酷使されず、横一列なので幾何学的にも割とイメージしやすいし、スライド入力っぽいこともちょっとはできる。
しかし、そのためにはPC側でKarabiner-ElementsとかAutoHotKeyとか使わなければならなかった。
カスタムできない業務用PCとか、スマホ・タブレットではお手上げだ。

どっこい今回、HHKB側でキーマップ変更が可能になった。
基本的に「完成度を高める」方向の2019ラインナップにおいて、これが唯一の完全な新規実装である。

設定そのものはPCにUSB接続して行うが、変更後のキーマップはHHKBのファームウェアに保存されるため、デバイスを問わず有効になる。
NIZのようにキーコンビネーションの登録まではできないが、Fnを押した状態にも個別にアサインが可能だ。

要するに、Fn+HJKLができるのだ。ついに。
もちろん、WASDだっていい。FDSAだっていいだろう。
全ては自由だ。

これは、僕にとってのUS版への不安を、かなり和らげてくれた。
いつでもどこでも、ホームポジション上で、小指を酷使せず、幾何学的な操作ができる。
これはアツい。

そして、いざ使ってみれば、驚くほどリターンキーが近い。
ホームポジションから、ちょっと小指を伸ばせば届くのだ。
おかしな話だが、死ぬほどリターンを押さねばならない日本語使いだからこそ、US版のリターンキーがありがたい。
この快適さはちょっと、立った状態での試打ではわかりにくいと思う。
USレイアウト全般に言えることではあるが、「ホームポジションキープ」を追求したHHKBでJIS版を選ぶのは、それこそ片手落ちなのかもしれない。

ただ、パネルディスカッションでも話題に出たのだが、JIS版のスペースキーの両隣にあるアレをFnや修飾キーにアサインするのは、それはそれでアツいと思う。
ヒマを持て余す親指の活用は、キーボード道における大きな課題の一つだ。
逆の手ではなく親指を使うことで、片手でのキーコンビネーションが可能になる。
右手のみでカーソルを「操作」しつつ、コピペを構えるといったプレイも見えてくる。

悩ましいところだが、JIS一択と決め込んでいた方には、今一度USの検討をお勧めする。
キーマップさえ弄れればなんとかなることは、かなり多いはずだ。

まとめ

* 今回の新作は冨安健洋。
* キーマップ変更でUS版がアツい。
* JIS版もアツい。

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