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Insight:Digital Therapeutics vol.2

前回は、Digital Therapeutics (DTx)の概要と現在までに承認を受けている製品を8つ紹介しました。適用疾患は、糖尿病、物質/オピオイド使用障害、睡眠障害、ADHD、PTSD、心不全、COPD、喫煙ということで多岐に渡る疾患に適用可能であることをお伝えできたのではないかと思います。なお、紹介した8つが全てというわけではなく、特にCOVID-19による世界的なパンデミックの後、神経障害の治療/ケアを目的としたデジタルヘルスデバイスを審査なしでの提供を許可する指針を公開したことなどから、実際はより多くの治療アプリが市場に存在するようです。

今回は、今後実用化が期待されるDTxアプリにどのようなものがあるのか4種類の疾患に焦点を当てて紹介します。

○大うつ病性障害 (Major depressive disorder;MDD)
ーAKL-T03 Akili Interactive社
 ビデオゲームを用いた注意欠陥・多動性障害 (ADHD)の治療アプリを開発した同社は、同手法を用いたうつ病や自閉症スペクトラム(後述)の治療アプリの開発も行なっており、統計的に優位な効果を示したことを報告しています。

ーCT-152 Click Therapeutics社
 禁煙用治療アプリであるClickotineを上市しているClick Therapeuticsは、うつ病治療薬であるCT-152のほか不眠症、統合失調症、偏頭痛、肥満など様々な疾患に対する治療アプリを開発しています。短期記憶を改善することで効果を示すとされるCT-152は、大塚製薬と提携して開発が進められており本年2月から完全リモート臨床試験「Miraiスタディ」を開始することが発表されています。

○自閉症スペクトラム症 (Autism Spectrum Disorder;ASD)
ーCanvasDx Cognoa社
 機械学習とAIをベースとした手法を用いてASDの早期診断/治療アプリをCognoa社は開発しています。早期診断を目的としたCanvas Dxは本年6月にFDAに認可されました。ASDは一般的な神経発達障害で米国では54人に1人の子供に影響を与えていますが、診断専門医の不足により診断に数ヶ月〜数年かかることが課題として知られていましたが、本アプリを使用することで数週間での診断が可能になります。なお、ASDの治療用アプリも目下開発中とのことです。

ーAKL-T02 Akili Interactive社
 ビデオゲームによる神経疾患の治療に挑戦する同社はASDに対する治療アプリの開発も進めています。AKL-T02という開発名称を与えられた同製品は塩野義製薬と組んで日本、台湾における商品化、マーケティングを進めることが公表されています。

○疼痛
ーPainfocus Biofourmis社
 心不全に対する治療アプリを上市した同社はがん患者の悪化兆候を治療継続を管理するアプリ(Gaido)やがん性疼痛、術後疼痛を客観的に評価するアプリ(Painforcus)を開発しています。

ーEaseVRx / RelieVRx AppliedVR社
 VR (Virtual Reality)を用いて痛みに対する認識を変え、慢性疼痛に対するオピオイド低減治療に繋げるEaseVRxと急性術後疼痛に対するオピオイド温存療法に繋げるRelieVRxを開発しています。さらに、不安性障害の治療に用いるAnxietyVRxも開発しており、治療用VRの可能性を大きく広げる研究・開発を行なっています。

○多発性硬化症 (Multiple Sclerosis;MS)
ーPear-006 Pear Therapeutics社
 神経細胞の軸索を覆う「ミエリン」の障害により感覚異常や運動障害などの症状が繰り返し現れる(寛解状態と再燃状態がある)MS患者の35〜50%がうつ病症状を示すことが知られています。Pear Therapeuticsは、Novartis Pharmaと共同で同症状に対する治療アプリを開発しています。

ーHappify Happify Health社
 Happify Connect, Kopa, Coachingなどのソリューションを通してメンタルヘルスやフィジカルヘルスの改善を目指す同社もMS患者向けのメンタルヘルスアプリをSanofiと開発していることが知られています。他にも、乾癬によるメンタルヘルスの障害に対するためのプログラム”Claro”をAlmirallと共に開始したことを今年1月に発表しています。


今回は、今後実用化が期待される治療アプリについて、”うつ病”、”自閉症”、”疼痛”、”多発性硬化症”に焦点を当てて紹介しました。この他にも炎症性腸疾患(IBS, IBD)に対する治療アプリが開発されていたりWoebot Healthによる産後うつ病治療アプリが本年5月にFDAの画期的デバイスに指定されるなど多様性や話題に事欠きません。一つのメーカーが多岐に渡る疾患をサポートするアプリを開発していること、スマートデバイスやビデオゲーム、VRを活用した多様な治療アプローチがあること、そして新興のIT企業が製薬企業大手と共同でアプリ開発に取り組んでいることがこの分野の特徴と言えそうです。2027年までに年平均成長率20%で約120億ドル規模になると推定されている市場において医療の在り方がどのように変化しているか注目です。

さて、ここまで治療アプリの現状と未来への期待を紹介してきましたが、なぜデジタルデバイスが臨床的な治療効果を示すことができるのでしょうか?次回は、多くの治療アプリで採用されている認知行動療法 (Cognitive Behavioral Therapy;CBT)とはどのような治療アプローチなのか紹介します。

○参考資料
[1]npj Digital Medicine:Characteristics and challenges of the clinical pipeline of digital therapeutics
[2]多発性硬化症.jp

※サムネイル画像は、National Press Foundationより引用

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