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Insight:Digital Therapeutics vol.3 ” Cognitive Behavioral Therapy (CBT)”

Insight:Digital Therapeutics vol.1,2を通して、Digital therapeutics (DTx) が次世代の医療を担うツールとして期待されていること、そしてさまざまな疾患に対する治療アプリがすでに上市されたり開発されていることが分かりました。市場規模も2027年には1兆円規模になることが予想されており、今後ますます注目を集めることは間違いありません。

この次世代の治療薬が非常に注目される最も大きい要素はアプリを通したケアで臨床的な治療効果を示していることでしょう。病気を治療する時は薬を飲むのが一般的ですが、それは身体に取り込まれた薬効成分が病気のプロセスに作用して効果を生みます。では、身体に取り込まれるわけではない治療アプリがなぜ治療効果を示すことができるのでしょうか?

今回は様々な治療アプリにおいて採用されている認知行動療法 (Cognitive Behavioral Therapy;CBT)とはどのような治療介入法なのか紹介しようと思います。

CBTは、アーロン・T・ベック博士によって考案された精神疾患の認知モデルを基礎として構築された治療法で、通常はセラピストと共に実施されます。人々の感情や行動は、その状況自体ではなく、その状況をどのように解釈しているかによって決定されると考えます。そして、その理解に基づいて人々の考え方(認知)と行動を変えることを目的としています。

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ベック博士 引用:BECK INSTITUTE

認知モデルは状況に対する人々の解釈や思考が感情行動、そして生理反応にどのように影響しているかの理解するのに用います。苦しい状況において認識が無意識に歪められてしまうことがあるため、そのような思考を特定して修正することを補助します。

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引用:認知モデル BECK INSTITUTE

○CBTの重要な原則
CBTでは、患者が現在の考え方や行動を理解できるようにサポートし、患者自身が認知や行動パターンを変えられるようになること(自分自身がセラピストになること)が最終的な目的です。その上でセラピーを進めるときに重要な原則が”協同的経験主義 (collaborative empiricism)”と”問題指向”の2つです。

協同的経験主義とは、セラピストが患者の主体性や意見の出しやすい環境を作り、自身で答えを見つけだしていけるようにサポートすることです。先述の通りCBTにおいて不適切な考えや行動を理解できる必要があるため、患者自身が問題を効率的に定義し、管理できるようになる必要があります。

問題指向とは、過去の苦痛や症状の原因に焦点を当てるのではなく、”今の症状の改善”に焦点を当てることです。治療の効率を高めるためにSMART*な目標を設定する必要があり、特定の問題と解決策に治療努力を集中させることが重要です。
*SMART:Specific, Measurable, Achievable, Realistic, Time-limited

○CBTで活用されている技術
では、どのように患者の考え方(認知)や行動を理解し、変化させているのでしょうか?

まず、CBTにおける認知療法のコンセプトは、”ガイド付き発見”を実施することです。先述の通り、患者自身が発見できるように質問を通して患者の思考を広げて根本的な問題に気づき、解決策を導くことをサポートします。この方法は、ソクラテス式問答法と呼ばれ、コーチング等にも用いられる手法です。
ネガティブな思考を無意識にしてしまう状態の場合は、”ガイド付き発見”を通じてその状態を患者自身に認識させた上で”思考”と”事実”を区別し、それらが気分にどのように影響しているのか評価します。そして、ネガティブな思考に気づいたら意識的に改善することで、悪循環から抜け出すことができるようになります。

次に、行動療法では”活動スケジューリング”と”段階的タスク割り当て”が取り入れられます。これらは生産的な体験を意図的に増やすことを目的とします。”活動スケジューリング”は、日々の活動を管理可能な量に事前に計画し実践すること、”段階的タスク割り当て”は、先延ばしや不安を誘発する状況を克服するための管理可能なステップを作成し、対処することを指します。これらの達成を通じて、患者の日々の生活習慣を再構築・楽しい活動を増やし、さらに問題を解決していくことで課題解決力を向上に役立てられます。
また、”行動実験”では、強度の低い状況から高い状況に段階をつけ、その条件を最初はイメージで、そして実際に体験して一つずつクリアすることでこれまでの困難を乗り切ることに繋がります。

日記などで自己モニタリングを継続し、行動や症状、経験、感情を記録してセラピストと共有することも非常に重要な要素です。

このように、CBTでは認知のプロセスを通じて患者が自分自身でその時の感情や反応に気づき改善できるようにすること、そして行動のプロセスでは取り組めることから一つ一つ達成してできることを増やしていくことによって症状の管理・改善に繋げます。

○CBTの用途
一般的にメンタルヘルスの治療に用いられるCBTですが、NHSによると以下の疾患に対して治療効果があることが示されています。
・うつ病 ・不安障害 ・双極性障害 ・境界性人格障害 ・摂食障害 ・強迫性障害 ・パニック障害 ・恐怖症 ・心的外傷後ストレス障害(PTSD) ・精神病 ・統合失調症 ・睡眠障害 ・アルコールの誤用

さらに、長期的な健康障害の治療として以下の疾患の治療にも用いられており、身体的症状のコントロールに役立てられています。
・過敏性腸症候群(IBS) ・慢性心労症候群(CFS) ・線維筋痛症

CBTはセラピストと患者が共同で治療することが一般的ですが、構造的に確立された治療プロセスによってDTxアプリに応用しやすかったようです。CBTは現在、精神疾患に対するDTxアプリの治療手段として採用されていますが、慢性疾患の症状コントロールなどさらに大きな発展が期待できそうです。

次回は、CBTベースのDTxアプリはどの程度の治療効果を示してF DAの承認に繋がったのか、臨床試験の結果を見ながら確認していこうと思います。

○参考資料
[1]The key principles of cognitive behavioural therapy
[2]BECK INSTITUTE:What is Cognitive Behavior Therapy (CBT)?
[3]NHS:Overview-Cognitive Behavioral Therapy (CBT)
[4]厚生労働省:うつ病の認知療法・認知行動療法 治療者用マニュアル
[5]nature:The emerging world of digital therapeutics
[6]verywellmind:What Is Cognitive Behavioral Therapy (CBT)?

※サムネイル画像は、書籍:Cognitive Behavioral Therapy - CBT - The Basics and Beyond: CBT Workbook - Modern Psychology: Applied Psychology (Cognitive Behavior Therapy)の表紙より

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