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岸ちゃんの「アルケミスト」
アルケミストは、20代の頃出会った本だ。世界的ベストセラーだから手に取ったわけではない、当時同じビルで働いていた岸ちゃんが教えてくれた。
岸ちゃんは、会社は違うけれど、同じ業界の同期で、彼女は会社を辞め、今からイギリスにアロマの勉強で留学するのだと言っていた。
そんな頃に「この本を時折、手にとっては、開いたページを読むんだ」と彼女は教えてくれた。小説や物語の順を追った読み方以外に、そんな言葉との出会い方があるのだと驚き,すでにそれを知っていた彼女のまなざしがまぶしく、うらやましかったことを覚えている。
羊飼いの少年サンチャゴの物語は、スペインのアンダルシアからエジプトのピラミッドに向けて、砂漠の旅をする冒険の話でありながら、旅の中で出会う人の言葉や価値観、時間の経過を通じて,彼の心の中を深く潜っていく、内側に語りかける物語。世界と、私と、こころの宇宙をどこまでも往復していく構造がおもしろく、そしてどこか心地よいひとすじの風を感じる一冊である。
本の中の言葉「マクトゥーブ」と。部屋の中でひとり、声に出していってみる。岸ちゃんはいまどうしているかなと想う。