映画「his」に甚く感動する
今泉力哉監督最新作「his」を見た。
学生時代に付き合っていた男性カップル迅(宮沢氷魚)と渚(藤原季節)。
仲むつまじい関係だったが、渚は突然別れを切り出し、迅の前から消える。
迅は岐阜県の白川にて隠れるように暮らしていたが、
渚のことをずっと引きずり、忘れられずにいた。
しかし数年後、そんな迅の元に突然娘と一緒に渚が現れる・・・・・・。
という話。
満席の新宿武蔵野館、真ん中の席で見る。
人目をはばからずすすり泣いてしまった。
終始涙が止まらなかった。
ゲイという設定、それを藤原季節と宮沢氷魚が演じるということがどうしても目立つのだが、注目すべきはそれだけではない。
本作は「昔懇意にしていた元恋人と、離婚調停中の夫婦と、その夫婦の娘、彼らのヒューマンドラマ」だと思っており、
その根底に流れる思想として、
様々な事象に対して「『普通』なんて主観に基づいた尺度である」ということが一貫して存在しているように感じた。
そしてその思想を表現する方法として
同性愛や、主「夫」や、家庭を顧みれないバリキャリ妻を登場させている、という構造。
それを説教くさく訴えるのでなく、さらっと描写しているのがとても好ましかった。
娘を連れてくる元恋人渚に対して複雑な感情を抱く迅だったり、
離婚調停の中でどうしたら親権をもらえるだろうかと真剣に考える渚やレナだったり、
元妻と今彼という関係の中でぎこちなく会釈するレナと迅だったり、
純粋な心でなぜ父と母は離れ離れなのか、という疑問を呈する娘の空だったり。
それぞれの登場人物の気持ちが鮮やかに描かれている。
そう、ヒューマンドラマなのだ。
描写が、言葉が、一つ一つ美しく優しいので、
当事者たちの気持ちが甚く伝わり、
当事者に対して悲しみ、憤り、解放され、あたたかくなる。
自然に涙が溢れた。
わからないことがあったら、わからないですって言う。
わかってほしいことがあったら、わかってほしいですって言う。
悪いことをしたと思ったら、ごめんなさいって言う。
人が分かりあうのって、やっぱり、ちゃんと言葉に出して対話することなのかも。
世界って、意外とそれだけでいい方に変わるんじゃないかな
そう思えるラストにも見えた。