片山慎三新作短編映画「そこにいた男」感想
個人的オールタイムベスト「岬の兄妹」の監督である片山慎三監督の新作短編映画「そこにいた男」を鑑賞した。
◆はじめに
クラウドファンディング支援した人に対してのみ1週間だけオンライン上映なされる作品のため、全員が今見られるわけではないのだが、大変面白かったため感想を記す。
ぜひ、劇場公開を懇願したい一作だ。
・クラファンサイト
・公式ツイッター
https://twitter.com/sokootoko
◆あらすじ
男はエレベータホールの前で血まみれ裸で横たわっている。そして傍に佇む女はタバコを吸いながら誰かに電話をしていた。彼らはどうしてこのような結末を迎えたのだろうか・・・・・・。
各種インタビューを見ても名言はなされていなさそうだが、新宿ホスト殺害未遂事件をイメージしてつくられたようである。
◆一言でいうと
「『そこにいた男』は、私にとって誰だったのだろう?」
承認欲求を満たす対象が無に帰した時に生まれる心の空洞は、どう埋めればいいのだろう。
◆感想
・誰でも共感するんじゃないかな
気持ちが対等じゃない恋愛関係って、自分自身もたくさんの経験があるから、共感を禁じ得なかった。
主人公(サキ)の彼氏(ショウ)に対する好きの度合いはショウのサキに対するそれの∞倍と言っても過言ではなく、彼女は彼に愛されたいが故、金銭も身体も尽くす。
けれど彼女は心の中でうっすら気づいているのだ。
本当は愛されていないかもしれない、他に本命がいるかもしれない。だって彼のこと、何も教えてもらえないんだもの。
でも、今、一緒にいることで、今、愛情表現をされていればいい。この時が続くよう、核心には触れないように、そっとしておこう。そうすれば、今の自分は、満たされる。
私自身も、彼に尽くしながらも、それは彼に捨てられるのではないかという不安の裏返しでしかなく、最終的に派手に振られるという苦い経験があったり、逆に大して好きでもない男と付き合った結果、あちらが滅私奉公してきて余計に邪険に扱った経験があったりするので、この事象自体、かなり、わかる。ハァ、刺さる。
・主演の清瀬やえこさんがすごい
で、そんなきっと誰でも有りえそうな事象をさらにこの映画で「わかるわかる・・・・・・」と思わせるドライバーとなったのが主演の清瀬やえこさんなのだと思った。彼女の狂気に満ちた表情、行動、演技が共感を増幅するのだ。
彼女が出演していたスペシャルアクターズでは「演技をやりすぎてしまうヤエコ役」を演じていたが、うん、この作品でも素でやりすぎである。これでも監督に言われて抑えたらしいけど。
主人公のサキの悲痛な心が聞こえてくるような表情、演技がとても良かった。
・解像度が低いのは片山節なのかな
どうしてサキが彼に惚れたのか、ここまで入れ込んだのか、もうちょっと解像度高く知りたかった。またどうしてサキがこんな性格になったのか、そんな自己肯定感が低い人物(もしくは承認を得たい人物)になったのかも示唆だけでいいから知りたかった。
とはいえ、岬の兄妹も過去描写、めちゃくちゃ少ないから彼の芸風かしらと思いつつ。
片山監督の作品ってご自身でも言ってたけど「一つの答えを出さない」「ヒューマンドラマ」を作ることが多く、だからこそ、多くを語らず考えさせるものが多いのかもしれない。
はー面白かった!!
今はこの作品、全員が全員観られるわけではないけど、皆さん、稀代の傑作「岬の兄妹」を見ながら、「そこにいた男」の上映を祈念しましょ!