映画「屋根裏の殺人鬼 フリッツ・ホンカ」感想(ネタバレあり)
実話を元にした「屋根裏の殺人鬼 フリッツ・ホンカ」がなかなかにエグ良い作品だったので感想を記そうと思う。
<あらすじ>
パブに佇むその男はフリッツ・ホンカ。斜視で薄毛で曲がった鼻と汚い歯の持ち主。女性を口説こうとしてもその醜さから全く相手にされず、蔑まれるばかり。そんな彼の裏の顔は殺人鬼だった・・・・・・。
<ストーリーを一言で言うと>
この話を一言で言うなら、「生い立ちが原因で強いコンプレックスを持つ男が、自己顕示欲を満たすために娼婦を強姦したのち殺しまくるも、結局心は満たされないままあっけなく逮捕されて幕を閉じる話」だ。
最近流行りの社会的弱者モノ。でも、ダークヒーローになる話でも、ちょっとだけ報われる話でも、ない。弱者が弱者として終わる話だ。
<ネタバレ詳細>
主人公はフリッツ・ホンカ。決して高くないアパートの「屋根裏」に住み、部屋は汚く、服はボロボロ。いわゆる社会的弱者である。家庭環境に恵まれなかったがゆえに、ベーシックトラストが低いコンプレックスの塊のような人物だ。
物語の序盤、彼はたまたま見かけた女学生に一目惚れし、恋い焦がれる。
脳裏にその女学生のイメージが焼きついて離れない・・・・・・。
彼は毎日のように出入りするパブ「ゴールデングローブ」で、1人寂しく酒を飲み、気になった女性に酒を振る舞うということをしていた。しかしその打診は、彼の容姿が原因で断られるのだ。そんなことを繰り返し酩酊していくうちに、高齢の娼婦に酒を振舞うことに成功する。彼は娼婦を自分の家で飲み直そうと誘い、連れ込む。娼婦も自分の承認欲求が満たされるので心を許し、おいそれとついていくのである。
そして、おっぱじまるファック。
終始、彼は相手に対して支配的な態度をとる。ベッドに無理やり連れて行ったり、娼婦の娘とやらせろ、と誓約書を書かせたり、娼婦の醜い顔が見えた途端苛立って殴ったり。
延々とファックし、酒を飲み、暴力を振り、高ぶった感情とともに、娼婦を殺す。そして死体を外へ捨てに行く事も面倒臭くなり、四肢をバラバラにして屋根裏のスペースに隠す。下の階の住人や兄弟に部屋の異臭を指摘されるもお構いなしである。
感情に任せて生きるも、満たされない日常。
しかしその後、彼にも一瞬満たされかける時が訪れる。新しい職場で自分に"厚意"を寄せてくれる女性が現れたのだ。自分に対して、彼女の方からお酒を飲まないかと打診してきたのである。女性から酒を誘われることなんて初めてなものだから、承認を得たような気分になる。ただ、彼はその厚意を勘違いし、彼女に好きだ、一発やらせてくれ、と告白して、襲いかけてしまう。当然ながら彼女はそのようなつもりで厚意を寄せたわけではないので、強く拒絶し、また彼は孤独になるのである。
そのような事件をきっかけに、自堕落に拍車がかかり、また同じ手口で娼婦を殺す日々。
そんな感情に任せた自堕落な殺人生活を繰り返していたが、あっけなく終わることとなる。
ある日、いつもの通りゴールデングローブへ赴くと、例の女学生を見かける。会いたくてたまらなかった彼女を遠目で眺めるだけでは飽き足らず、店の中のみならず、店の外までストーキングしてしまう。まさに彼女に追いつき、声をかけんとす、という時に目の前に広がった景色は自分が住んでいるアパートが火事で燃えていることだった。1つ下のフロアに住む住人が火の始末をせず、アパートが燃えてしまったのだ。火は無事消されたが、状況確認に行った消防士や警察によって死体が露見され、あっけなく捕まってしまう。
意中の女学生は自分が彼に襲われかけていたことも知らずにその場を立ち去るのである・・・・・・。
<感想や考察>
・洗練されていない殺人鬼。そこがいい
映画で扱われる殺人鬼は得てして、サイコパスで、スマートで、エロティックで、不謹慎ながら魅力的であることが多いが、(例えば、ハウスジャックビルト、冷たい熱帯魚、スウィーニートッド、殺人の告白など。私の浅い知識でもこれだけ出てくる)今回のシリアルキラー=フリッツ・ホンカはいわゆる社会的弱者である。社会的弱者である主人公が、自己顕示欲を満たすためにさらなる社会的弱者、つまり容姿が醜い、高齢の、偏見を持たれやすい「娼婦」を犯し、支配するのだ。知性がまるでない感情的な動物としての殺人鬼である点が、地に足付いていて、とてもいい。
・階層が違う女と一生交われない、という現実。リアルである。
この話のスパイスとして効いているのが、序盤と最後にだけでてくる若くて美しい女学生だ。この映画において、女学生と主人公の人生が交わることが一瞬たりとも無い。序盤に女学生にライターを貸して一目惚れする主人公。ずっと恋い焦がれ、やっと見つけた、と思ったら、声をかけることもできずに捕まる。女学生は最後まで自分に好意を寄せていた男の存在を知らない。
結局主人公が交われるのは自分とレイヤーが同じかそれ以下の娼婦でしかなく、別階層にいる女学生と会話すらできないという厳しい現実を突きつけられているような気がした。
一発逆転なんてそうそう起こるもんではないという、厳しさ、リアルさが心を打つ。
・実話世界の再現度が高すぎる。
主人公のフリッツ・ホンカを演じたヨナス・ダスラーという俳優。まだ23歳かつ、超絶イケメンなのだが、今回特殊メイクを施し、気味の悪い中年男性になりきっている。実話の殺人鬼本人にも似ている。是非ググってほしい。
また、主人公の家や、彼が出入りしていたゴールデングローブの再現度が異常に高い。エンドロールで見ることができるので是非着目してほしい。
ということで、殺人描写はそれなりにグロく、全員に諸手を挙げて見て!!と言える作品でないことも間違いないのだが、今の時流である「社会的弱者モノ」にありがちな華々しく持ち上げるでも、救うでもなく、主人公のインサイトや殺人鬼になるプロセスをありのまま伝え、ありのまま終わらすという点が地に足付いて個人的にかなり好ましいので、興味を持った方は是非見て欲しい。