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『何故1月だったのか』0.50%に引き上げられた政策金利
日本銀行は、2025年1月の金融政策決定会合で政策金利を引き上げ、0.50%とした。
決定は大方の予想通りであり、意外感はなかった。とはいえ、何故今回だったのか、今後の政策運営を考える上でも確認しておく必要はあるように思われる。
物価見通しの引上げ
決定と同時に公表された展望レポート(基本的見解)では、物価見通しが引き上げられた。
2025年度の物価見通しはコアで+2.4%、2026年度でも+2.0%だ。コアCPIは2022年4月以降、33ヶ月連続で2%以上だ。ここから更に1年~2年程度2%超のインフレ率が続くとなれば、ほぼ5年にわたってインフレ目標が達成できることになる。植田総裁は、
政策金利の変更後も、実質金利は大幅なマイナスが続き、緩和的な金融環境は維持される
と述べている。既にインフレ目標が達成されており、更に物価見通しが上振れている状況を考えれば、実質金利を大幅なマイナスに維持する必要があるのか、議論の余地があるだろう。今回の利上げは当然であり、今後の利上げペースは早まるという見方も出来る。しかし日銀は非常に慎重だ。
1月利上げの理由
植田総裁は利上げの理由について、
今年の春季労使交渉ですが、昨年に続き、しっかりとした賃上げの実施が見込まれると判断しました。
米国についてですが、まずインフレ率が低下するもとで、様々なデータをみますと、経済がしっかりとしていると評価しました。また、今週入り後、トランプ大統領が就任し、政策の大きな方向性が示されつつありますが、その後も国際金融資本市場は、全体として落ち着いていると判断しました。
としたうえで、
前回10月の展望レポート時点との対比でみますと、為替円安等に伴い、輸入物価が上振れていまして、本日取りまとめた新しい展望レポートでは、先ほど申し上げましたが、消費者物価の見通しは、24 年度が 2%台後半となった後、25年度も2%台半ばと高めとなりました。こうした状況を踏まえ、2%目標の持続的・安定的な実現という観点から、金融緩和度合いの調整をすることが適切と判断したところであります。
と述べた。説明としては、「こうした状況を踏まえ」という総合判断である。ただし、後段のやり取りではこうも語っている。
オントラックという意味では、特に除く生鮮の24年[度]、25年度の上方修正は、オントラックから少しずれてる部分になります。上方にずれてる部分。ですから、ここがほとんど前回の見通し通りであってもオントラックということになって、つまり米価格上昇とかがなくても、概ね前回の見通し通りに経済が進んでいるということ、すなわち表現を変えれば、先ほどの「第二の力」とか、基調的物価の上昇が見通し通りに続いている。去年の賃金上昇が価格に少しずつ反映されていくという動きが続いているという意味でオントラックであるということで、それは続いているので見通し期間の後半、大まかには26年度のどこかで、基調的な物価上昇率も 2%に収束していく可能性が高まったというふうにみました。それが利上げの最大の理由でございます。
物価見通しの上方修正が仮になかったとしても、基調的物価の上昇はオントラックであり、それが「利上げの最大の理由」という説明だ。
分かりにくいコミュニケーション
オントラックという認識は前回12月も示されており、こう言われてしまうと何故1月なのかというのがやはりよく分からない。振りかえれば、12月記者会見でのこの発言が最も示唆的だったということになろう。
そもそもデータはオントラックでここ数か月きていますので、それを前提にしますと、私どもの見通しが実現していく確度は多少なりとも上がっているということだと思います。ただ次の利上げの判断に至るには、不正確な言い方ではありますけれども、もうワンノッチほしいなというところかと思います。そのもうワンノッチの中に、賃金上昇の持続性ということも入ってくるかと思います。それがより具体的には、来年の春闘のモメンタムをみたいという、先ほど来の私の答えにつながっています。他にもみたい点はいろいろありますけれども、取りあえず一つ具体的に申し上げるとしたらそういうことになります。
利上げの環境は12月の時点でほぼ整っており、それでも敢えて慎重を期すために「ワンノッチ」待ったという理解になる。
であれば12月の時点でもう少しそうした方向性を強めに語るべきだったかもしれない。しかし植田総裁は
基本的には当然決定会合の結果は、決定会合の日にならないと分からないわけですし、若干事前に分かっても、それを事前に何らかのかたちで発表するということは法律違反にもなりますので、そういうことではなくて、コミュニケーションの基本は、私どもの物価・経済見通し、あるいは物価・経済に関する認識をきちっと伝えていくこと、それから[政策]反応関数を具体的にきちっと書くことはできないというふうに最初の方で申し上げましたが、そうであっても、金融政策の基本的な考え方を丁寧に誤解が生じないように説明していくということしかないのかなというふうに思っています。
という原則を崩さない。
12月会合における「ワンノッチ」の距離感、認識は、植田総裁と市場で大きくズレていた。この点、1月14日の氷見野副総裁講演、記者会見での説明が市場予想よりタカ寄りな発言が多かったのは、そうしたズレを修正する意図だったようにも思える。
今後を考える上で
1月の展望レポートでは、今後の金融政策運営について、
先行きの経済・物価・金融情勢次第であるが、現在の実質金利がきわめて低い水準にあることを踏まえると、以上のような経済・物価の見通しが実現していくとすれば、それに応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことになると考えている。日本銀行は、2%の「物価安定の目標」のもとで、その持続的・安定的な実現という観点から、経済・物価・金融情勢に応じて適切に金融政策を運営していく。
と記述された。10月の展望レポートの同じ箇所と比較すると「米国をはじめとする海外経済の今後の展開や金融資本市場の動向を十分注視し、わが国の経済・物価の見通しやリスク、見通しが実現する確度に及ぼす影響を見極めていく必要がある。」という留保が削除された。12月会合後の総裁発言にあった「賃金と物価の好循環の強まりを確認するという視点から、来年の春季労使交渉に向けたモメンタムなど今後の賃金の動向について、もう少し情報が必要と考えています。また、米国をはじめとする海外経済の先行きは引き続き不透明であり、米国の次期政権の経済政策を巡る不確実性も大きい状況が続いていると判断しています」といった言及もない。
オントラックなら利上げという方針に関して、ことさら強い注意が必要な論点は差し当たり無くなったということになる。
記者会見では
やはり特に物価の見通しが実現していくかどうか、その中でも特に 26 年度[、見通し期間の]後半にかけて基調的なインフレ率が 2[%]に収束していくかどうか、可能性が高まっていくかどうかという点を主なポイントとして判断したいと考えています。
というスタンスが示された。物価という原点に戻った印象だ。
市場はどう見ているか
2025年1月29日現在、OISのプライシングを見る限り、次の利上げは6月までで3割程度、7月までで6割程度、9月までで7割程度、12月まででほぼ100%の織り込みだ。
こうした見立てが日銀の認識と大きく乖離しているなら、おそらく然るべき時期に何らかの情報発信があるだろう。今回1月の利上げは、氷見野副総裁、植田総裁の発言等から急速に市場に織り込まれた。次回もその時期は突然来るのかもしれない。