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『今上げるのはアホや思うんです(?)』金融政策の日本的Conundrum

インフレ率が高いのはどこの国?

インフレ率を国際比較するは案外難しい。統計データの作成方法が国や地域によって違うためだ。統計の中身についてのややこしい議論に踏み込むのはここでは控え、内閣府の月例経済報告(2024年9月)資料で簡単に見てみよう。

出所 内閣府

総合ベースで比較した場合、日本、米国、ユーロ圏のインフレ率はそれぞれ2.8%、2.5%、2.2%だ。意外に思われる方がどれだけおられるか分からないが、実は日本が一番高い。インフレ目標はいずれも同じ2%であり、米欧が概ね目標に近づいているのに対して、もっとも外れているのは日本だ。ちなみに、この資料では2024年7月のデータまでしか反映されていないが、その後公表された2024年8月の日本のインフレ率(総合)は3%に上昇している。2%を上回るのは、2022年4月以降、29ヶ月連続である。2年半にわたって、日本のインフレ率は目標から上に外れている。

物価の安定

日本銀行を含め、多くの中央銀行は物価の安定をその法的責務としている。無論、中央銀行は万能ではなく、必ずしも適切に物価を動かせる訳ではない。トルコやベネズエラ、アルゼンチンのように極端に高いインフレ率を記録しながら抑制に苦心する国もある。一方、日本はインフレ率が低すぎるとして2013年から異次元の金融緩和を実施した。以降、コロナ禍前の約7年間、インフレ率の平均は0.8%程度であり、異次元緩和が奏功して物価目標が達成できたとは到底言えない。

実際のところ、インフレ率を目標にピンポイントに釘付けするような政策運営は不可能だ。それでも中央銀行は物価の安定に適切(と思われる政策)にコミットし、行動しなければならない。インフレ率が低ければ利下げ、インフレ率が高ければ利上げ、が基本であり、特にこれと異なる行動を取るなら何故異なる対応が必要なのかを説明する必要がある。

金融政策の日本的Conundrum

米欧は、コロナ禍後の急激な物価上昇を受け、(タイミングやペースはともかく)利上げを進めた。そして今、約2年間継続した金融引き締め局面は終了に向かい、中立的なスタンスに移行しようとしている状況だ。2024年9月26日時点で、米国の政策金利は4.75~5.0%、ユーロ圏は3.5%である。対して日本の政策金利は0.25%だ。最初に確認したように、日本はインフレ率が米欧より高いにも関わらず、政策金利は圧倒的に低い。直観的にはなかなかのConundrum(謎)と呼んでもよいのではないだろうか。少なくとも金利を上げた方が良いと考える人を、アホと呼ぶには一定の慎重さが必要な状況だろう。英国、カナダを加えたG7で見ても、最もインフレ率が高い日本の政策金利が圧倒的に低いのである。

なぜ利上げしないのか?

日銀は利上げしないとは言っていない。植田総裁は2024年9月24日の講演で以下のように述べている。
https://www.boj.or.jp/about/press/koen_2024/data/ko240924a1.pdf

  • 日本銀行としては、先行き、基調的な物価上昇率が見通しに沿って高まっていくならば、そうした動きに応じて、政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことが適当と考えています。

利上げの継続がメインシナリオということだ。一方、同じ講演でこうも語っている。

  • 経済・物価を巡る不確実性は大きく、予期せぬ事態もしばしば生じます。実際の政策運営は、あらかじめスケジュールを定めるのではなく、様々な不確実性を踏まえたうえで、適時・適切に行う必要があります。

  • 現在の状況下では、米国経済を中心とした海外経済の動向や、引き続き不安定な状況にある金融資本市場の動向について、きわめて高い緊張感をもって注視し、これらの動向が、わが国の経済・物価見通しやリスク、見通しが実現する確度に及ぼす影響について、しっかりと見極めていくことが求められます。

  • また、わが国では、長期にわたり低金利環境が続いてきたことから、経済・物価が金利の上昇にどのように反応するのか、確認していくことも重要です。

  • 政策判断に当たっては、内外の金融資本市場の動向やその背後にある海外経済の状況などについて、丁寧に確認していく必要がありますし、そうした時間的な余裕はあると考えています。

米国等海外経済の不確実性に加え、これまでほぼゼロ%の政策金利が長期間継続してきたことから、利上げによる実体経済への影響が予測しにくいということなどを考慮し、慎重に進めていきたいという説明である。

先々の不確実性が高いのは事実だ。「先行き、基調的な物価上昇率が見通しに沿って高まって」いかない可能性は十分ある。とはいえ、こうした金融政策運営について、事実に即して、丁寧な分析をしている人間であれば、利上げの是非はさておいたとしても、アホという言葉が適切か否かは判断できるだろう。

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