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『動く理由と動かない理由』2025年1月の日本銀行は何を語るか

2025年1月22日時点、日本銀行は今月の金融政策決定会合で政策金利を引き上げることがほぼ確実視されている

前回のエントリーでは、氷見野副総裁の1月14日の発言について、利上げに積極的な部分だけを切り取って言及した。私は、この執筆時点で1月利上げを既定路線とは考えておらず、可能性がゼロではなくなった程度の認識だった。如何にタカ寄りに解釈しうる発言が多かったとしても、前回12月会合で利上げを見送った理由を考えれば、1月利上げの理屈付けは難しいように思われたからだ。

もとより、日銀は経済、物価が見通し通りであれば段階的に利上げをすると明言しており、単に見通し通りだからということでも説明不可能ではない。それでもやはり、なぜ今回なのかという理由付けは考えるべきだろう。

以下、12月の植田総裁発言を振返り、どのような説明があり得るか、筆者なりに考えてみたい。

不確実性は解消されたか

12月の説明では

  • 来年の春季労使交渉に向けたモメンタム

  • 米国次期政権の経済政策

というの二つの不確実性を強調した。

氷見野副総裁によれば、賃金についてはヒアリング情報がしっかりしているとのことであり、一応これが利上げの根拠となる。

一方、米国トランプ政権の経済政策については評価が難しい。就任演説は比較的穏当な内容だったものの、その後の大統領令の乱用を見れば、不確実性が低下しているようには見えない。大統領令は現行法の範囲内に限って効力を持つため、多くは実効性が疑わしい。市場の反応が限定的であるのも、そうした背景によると考えられる。とはいえ、大統領令が完全に無視できるのであれば12月時点でも無視して良かった筈だ。この点、利上げの根拠づけはやや苦しい。

利上げを後押しするもの

では、他の論点はあるだろうか。金融政策運営は最終的には総合判断であり、

  • 毎回の会合において、その時点で利用可能な各種のデータや情報を丹念に確認し、適切に判断

されるものだ。

例えば為替レートについては、12月会合で

  • 為替の物価への影響が以前よりも大きくなっているという可能性もある

としており、円安のリスクは判断材料になり得る。ただ、1ドル155円~156円付近で膠着気味な状況では、為替を積極的な材料として利上げを説明するのは難しそうだ。

日銀の利上げが既に織り込まれていることを考えれば、利上げを見送った場合に円安に振れる可能性はある。また、利上げを実施した場合でも、その後の政策運営についてハト派的な雰囲気が広がれば円安傾向が強まるかもしれない。為替はリスク要因ではある。

別の論点としては、

  • 待っている間にビハインド・ザ・カーブになるというリスクは当然ある

  • 緩和的な状態が長く続くと先行きどこかで急上昇するというリスクは常にありますし、場合によっては、そのリスクを拡大させてしまうという可能性もあります

といった発言に注目すべきかもしれない。氷見野副総裁は、決定会合2日目に公表されるCPI統計を確認したいと述べている。インフレ率の実績値が上振れし、さらにこれが予想物価上昇率に波及すると考えるならば、利上げの根拠になり得る。多角的レビューで「わが国の予想物価上昇率は、適合的な期待形成の影響が大きい」と分析された通りだ。もしこの点が強調されるようであれば、今後の利上げパスが早まると解釈されることもないとは言えない。

0.5%の先

1月会合で利上げがあるとして、その理由付けに注目するのは、その先の政策運営の示唆になり得るからだ。結果的に1月会合後の総裁発言で示唆された(と市場が解釈するような)政策金利パスにならない可能性は高い。それでも、その時点での示唆に反応して市場は動く。植田総裁は、12月会合で、0.5%より先の利上げ見通しについて以下のように述べた。

  • 0.5%という水準に特に意識は持っていませんけれども、金利を引き上げていくにつれて、当然中立金利を一定としますと、中立金利に近づいていくわけで、近づいていけばいくほどいろんなことに気を配って、その先利上げをするのかどうかということは考えていかないといけない。一つ一つ利上げをしていくときにその影響を常に注意してみていますが、一層注意深くみていかなくてはいけない段階に入るところがどっかで来る、あるいは徐々に来るということは常に意識しております。

これは利上げが進むにつれて追加の利上げ判断を遅らせていくべきだという趣旨なのだろうか。2024年7月に政策金利を0.25に引き上げてから、1月でちょうど半年だ。仮に、半年に1度が"measured pace"だとすれば、0.75%への利上げは2025年7月31日となる。1月会合後の植田総裁記者会見で、先々の政策判断に関する具体的な言及があるとは考えにくいが、果たして次の一手は早まるのか遅れるのか。

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