無力感にさいなまれる夜は

自分のちっぽけさをひしひしと感じる夜は、布団をかぶって早々に眠ってしまうに限る。けれど、そう上手くいくばかりとは限らないで、もやもやとした重たい気持ちが邪魔をして、まんじりともせず空が明るくなってくるのを眺めながら朝を迎えてしまうこともある。

そんな時、わたしはある「遊び」に興ずることにした。


今抱えている仕事や人付き合いがどれもうまくいかないときには、何のしがらみもない新しい場所でひとり、生活をはじめることを考える。温暖な土地がいいかな。ひとしきりGoogle Mapsの中を冒険して、新しく住むのにふさわしい街を決める。それからGoogleで、その街で借りる部屋をひとしきり探す。ロフト付きのアパート。敷地の目の前に海が広がる古民家。この街だと、車があった方が便利そうだし、駐車場込みの物件だといいな。そこで暮らしていくうえで必要なことをひとつひとつ想定して、決める。

当座の仕事も見つけなければならないから、求人情報も熱心にさらって、いくつか見繕っておく。その街で新しい仕事をしながら、新しい部屋に住まう自分を想像する。街に馴染んで、少し余裕がでてきたときのために、美味しいお店なんかも探してみる。駅前のなんてことない蕎麦屋に見えるけれど、評判は上々らしい、とか。歩いて買いに行ける近所のパン屋とか。休みの日にのんびりできそうな気に入りのカフェや公園も、目星をつけて。

その街で暮らせる段取りを立て(設定は細かければ細かいほどいい)、その街にいる別の自分がありありと浮かんでくる頃には、おのずと「もやもや」は少し遠ざかっていて、代わりに心地のよい眠気が訪れることが多い。それは「思い立てば、自分はいつでも変わることができる」という安心感によるものかもしれないし、いちから新しい場所に住むことを疑似体験した疲労によるものかもしれない。あるいは、今自身に「~あらねばならない」と強いているものが、時に、ここではない別の次元にいる自分にとってはあまり重要な尺度や規範とはならないことに、気付けるからなのかもしれない。

自分をちっぽけだ、と思っているのは、間違いなく自分自身なのだ。

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