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父の記録⑧|母のガンの兆候とホスピス見学
母のガンの兆候
2023年6月、母の足が異常にむくんでいるのに気づいた。足の皮膚がパン!と張っていて、指一本一本が丸々としているのだ。私は「え~?どうしたの~?」と母の足の指を撫でながら、甲状腺の異常から来るむくみなのでは?と思った。実は私自身、甲状腺に軽い異常があり、半年に一度、経過観察をしている。甲状腺は遺伝による要素もあるらしく、母方の祖母、そして母の弟の利明さん(仮名)も甲状腺に異常があると聞いていた。
以前、母に確認したときは「甲状腺の異常はない」と言っていたが、実は知らなかっただけなのでは?と思ったのだ。しかし、むくみは甲状腺の異常ではなく、ガンによるものだった。
母のガンの発覚
ガンが見つかったのは同じ年の9月だ。皮膚ガンの一種らしいのだが、珍しい種類のガンで標準治療がないということだった。しかし、母を診察した先生は「とてもゆっくりと進むガンなので、いつからできていたのかもわからないし、余命もわかりません」と言っていたうえ、痛みもないようだったので、あと2~3年は穏やかに過ごせるのだろうと悠長に考えていた。
父の受け止め
母は一人で父の病院に行って、自分がガンであることを伝えたそうだ。母がどういう口調で伝えたのか、また「お父さんのことで手いっぱいで自分のことまで気が回らなかった」という憤りまで伝えたのかどうかは、私にはわからない。
母によれば、父は「すんません」とだけ言ったそうだ。その時の父の表情も私にはわからない。ただ、母にはとても軽く聞こえたようで、憤慨した様子だった。「男の人ってあんなもんなのかね」と諦めも感じたようだ。
ホスピス
「身の回りのことができなくなったらホスピスに入ろう」という話を進め、11月に見学と申込みに行った。とてもきれいな施設で、弟を産んだ病院でもあったので、母は「ここで最期を迎えられたらいいなあ」とぽつりと言った。
ホスピスは積極的な治療を行わない看取りの施設であるので、申込みにあたって家族への説明と家族による同意書への署名が必要であった。私と弟がサインをし、その旨を父に伝えたところ、「本来は私がサインすべきであるところ・・・」と少し格式ばった言い回しで、悲痛そうな顔をして言った。強い夫、妻を庇護する夫という理想があったのかもしれない。しかし、私は「何もできないくせに口だけ偉そう」という感情がよぎった。
ホスピスを案内してくれた看護師さんからは「まずは自宅で新年を迎えなさい」と勧められた。ホスピスに入ってしまうと自由がなくなるから、なるべく長く自宅で過ごせるように、と。新年を自宅で迎えられないかもしれないほど母の病状は進んでいるのかと、私と弟は驚いた。