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私の知る範囲の「底辺の仕事」について

今は会社員をやっているのだけど、大学を卒業するのに手間取ったこともあって職がずっと安定しなかった。
心を病んでいても営業スマイルは出来たので夜の仕事をしていた。ある時働いていたスナックのママに「姉妹店を作ろうと思うんだけど、そこのママをやらない?」と言われてもう辞めようと思った。評価していただいていたのはわかる。でも責任を負ってしまったら逃げられない性分だし、そうなったら一生水商売だと思ったからだ。

実家に帰ることにしたけど、田舎にはろくに職がなかった。心を病んでいる人間が田舎に戻るのは都会の人からしたら回復できそうな気がするかもしれないけど、選択肢が限られて逃げ場がなくなるのだ。
ハローワークで紹介された仕事もアルバイト情報誌で見つけた仕事もみんな断られた。表には出していない陰の条件があるのだ。「学歴が高すぎる」と言われたこともある。
頑張る時期を過ぎたら働けなくなった。親には働けないなら出ていけとまで言われた。

心を病んでいる人やそばで見ている人はわかると思うけど、調子には波がある。躁鬱までいかなくても急にアクティブになる時があり、そんな時に当時急成長していた「日雇い派遣」に登録した。

仕事は倉庫内の品物を数えて箱に詰めるとか、試食販売とか、その日限りでできる仕事。倉庫や工場の場合はまとめて調達されるので同じ派遣事務所の人たちと顔見知りになった。
ものすごく色々な人がいて…中にはアメリカの大学に留学していて一時帰国中だから少しでも稼ぎたいという人から…他の仕事が見つからなかったんだなという人までいた。

他の仕事が見つからなかった人。失礼ながら印象で言うと、働けない何らかの問題を抱えておられた人が多かったと思う。男性の中には穴が開いて指が見えるスニーカーを履いているような、明らかに異常なレベルで外見に構わない人もいた。男性とは仕事が一緒にならなかったので事務所でちょっと会った時の見た目以上のことはよく分からない。
女性の方だともう少し過ごす時間が長くて、外見に構わないのもそうだけど、コミュニケーションがうまく取れない人がいるのに気付いた。そのうちの一人と某宅配業者の倉庫でグループになったけど、唖然とするほど仕事ができなかった。

たくさんの商品を複数の箱に分けて詰め、一つだけに送り状を同封する。その箱に「送り状在中」と書く。これだけのことができない。終わったというので見たら「送り状在中」という箱が一つもなかったので、その人にどの箱に送り状を入れたか確認し、マジックを渡して、この箱に「送り状在中」って書くんですよ、と伝えた。ちょっと席を立ち、戻ってくると、その人はすべての箱に「送り状在中」と書き込んでいるところだった。送り状が入っている箱以外は二重線で消してね、と説明し、別の作業をして戻ってくると、今度はすべての「送り状在中」を消してしまっていた。そういうレベル。
その人は派遣仲間の電話番号を聞きたがり、教えると「お金を貸してほしい」と電話してくるというのでアルバイト気分で来ている若い子達から特に評判が悪かった。

ある日またその人とグループになり、検針作業をすることになった。中国から送られてきた衣料の箱を開け、一つずつ検針機に通し、たたんで決められた数また箱にしまっていく。検針機一台につき常連のパートさん2人と2:2で4人のチームを組むのが常で、大体パートさんと私たちは箱を開けて服を機械に流す側と、受け取って箱にしまう側で分かれるのだったけど、その日のパートさん2人は例の人一人で箱を開けて服を流す作業をするようにと命じた。私は機械に反応があったらリセットする係だった。

元々2人でやるのが最適な量の仕事だ。当然彼女はもたついた。受け取る側のパートさん2人は
「遅いよ?」
「私たちヒマなんだけど」
と言い出した。私が彼女を手伝おうとすると
「手伝わなくていい!」
と怒鳴った。
明らかに仕事の遅い彼女をいじめて楽しんでいるのだった。

頭に来た私は彼女を手伝い始めた。
パートさんが怒鳴った。
「手伝うなって言ってるだろ!」
私は言い返した。
「どう考えても2人でやった方が効率がいいでしょう!何を理由に手伝うなとか言うんですか!○○さん(指導している社員さん)の指示ですか?」
彼女は小さい声で
「あの、大丈夫だから…」
と言ったけど、私は退かなかった。
パートさん2人は
「なんなの、生意気な!」
と言い、仕事場を放棄してどこかに行った。

私がこれを書いているのは私の武勇伝を書きたいからじゃない。
パートさん2人は片方がメガネで黒髪の真面目そうなタイプ、もう一方は茶髪でパーマの派手な感じとタイプが全然違ったけど、いつも仲が良く、普段から幼稚園、小学校低学年くらいのお互いの子供の話で盛り上がっていた。家ではいいお母さんなのだろう。
そういう人が見下していじめて怒鳴りつけるような地位の仕事だった、ということだ。

ちょっとした時間に追加のお金を稼ぐつもりの高学歴の人も、生活がかつかつで必死だった人もいた。年齢も出身も様々だった。でも全員一緒くたに、「普通の主婦」から、踏みつけにしていい人たちだと思われた。私はそこにいるのだと思い知らされた。

この仕事はその後会社の違法行為でなくなった。そもそもみんな実質最低賃金以下の時給で働いていた。生活に必死な、どんな仕事でもいいから欲しい、という人から搾り取るシステムだった。

私はその後長期の事務職派遣に登録し、運よく続けられる仕事に出会い、今は正社員だけど、あんな仕事でも彼女たちには必要だったわけで、それがなくなった後どう生きていたのか…というのは考えもつかない。
「選ばなければ仕事なんていくらでもある」なんて、簡単に言わないでほしい。仕事によってはこういう風に「踏みつけにしていい」とみなす人がたくさん頭上に乗っているものもあるのだ。
選ばなければって言う人は、「所詮こんな仕事をしている程度の人間」と思わないで、全員に敬意を持ってくれますか。

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