菅野颯馬

建築環境学

菅野颯馬

建築環境学

最近の記事

『建築環境今昔』 歴史から建築環境分野の営為を見直す

 空調や衛生、電気などの設備は建築の中枢的な機能を担い、快適な室内環境を安定的に供給する技術として、建築の自由な造形を担保することにも寄与してきた。しかし、これまでに設備を主題とした建築の歴史書は多く書かれてこなかった。レイナー・バンハムは『環境としての建築』で環境制御技術が近代建築に与えた影響を論じたが、機械設備と表層としての建築表現の関係に重きが置かれており、ライトやコルビュジェ、カーンといった著名な建築家の作品を軸に歴史が語られた。一方で、本書は建築設備そのものの歴史を

    • 日本建築学会『建築討論』に書評が掲載されました

      山岸剛 著『東京パンデミック 写真がとらえた都市盛衰』の書評が日本建築学会『建築討論』の書評コーナーに掲載されました。『写真術と科学研究』と題し、著者の写真術、科学研究の技法、そしてフェルメールの芸術までに、事物の即物的な観察・記録・発見という手続きに関するアナロジーを見たことを書きました。(現在フェルメールの故郷デルフトに留学中ということもあり。)是非ご高覧ください。 medium リンク: 書誌: 著者:山岸剛 書名:東京パンデミック 写真がとらえた都市盛衰 出版社:

      • 屋内植物のための光環境評価に向けた波長別光環境解析に関する研究

        論文が公開されましたので、紹介します。 建築分野で用いられ始めた分光放射照度のシミュレーション(ALFA, solemma)を応用し、3Dモデルを活用した屋内植物のための詳細な光環境評価の方法を提案しました。 これまでの建築環境学の対象はヒトであり、人体とそれを取り巻く環境の間の物理現象を解くことで環境評価をしてきました。本論文では、緑が積極的に建築に計画される昨今の状況を顧み、建築における第2の主体としての植物の生理に基づいた環境評価手法を示しました。光合成との相関が高

        • 東京 パンデミック: 写真がとらえた都市盛衰

           東京という都市は、自然がもたらしたパンデミックにより大きな揺さぶりを受けた。一方で、写真家である著者は粛々と仕事を続けた。人工性に塗り固められた都市空間を異化する自然との邂逅に、いつも通りに感謝の挨拶をするように写真が撮られた。  本書ではコロナ禍の東京で撮影された写真とそれを端緒とするエッセイが繰り返される。36枚の写真は「人工と自然の力関係の記録」という、これまでの著者の制作活動の主題から逸れることは無い。身体の反射に従って撮影するというのだから、その一貫性は必然的と

          住宅の省エネ法と多様な住まい手へのアプローチ

           住宅の省エネ化は日本における喫緊の課題であるものの、法の整備においては多様な住まい手への対応が大きな課題となる。例えば住宅における省エネ基準への適合義務化は、金銭的に困難な個人を想定した反対意見もあり見送られた。  気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第5次報告書の中では、気候変動への対策として「緩和」と「適応」の概念が掲げられた。ここでの「適応」とは気候変動に対して人間社会がその在り方を調整することを旨とし、この発想は建築分野における省エネルギー化においても重要な

          住宅の省エネ法と多様な住まい手へのアプローチ

          Thermal Delight in Architecture

           本書は建築の温熱環境に関する評論文である。温熱環境そのものが人間に様々な感情を喚起させる力を持ちうること、その可能性と豊かさを説いている。さらに、それこそが安定した温熱環境を追求してきた空調技術の歴史において、不要とみなされ、排除されてきたものであると筆者は指摘する。 __  本書の具体的な内容に触れる前に、建築の熱的快適性の研究に関する背景を少し整理したい。建築環境工学分野では「暑くも寒くもない状態」を快適と定義し、人体と環境の熱収支式などを用いて定量的に快適性を評価

          Thermal Delight in Architecture