派手な柄シャツとわたし
服の好みがけっこう短いスパンで変わる。
去年の冬は頭のおかしい柄シャツばかり着ていた。
今の職場はそういう感じではなさそうだなあ…そして自分的にも柄シャツ飽きてきたなあ…と思っているので、たぶん今年の冬はいっぱいニットを着ると思う。
ちなみに、前職場はオフィスカジュアルが推奨されていたが、わたしは網の目をかいくぐるようにジャケットでごまかしながら派手派手な柄シャツを着ていた。
主張が激しい柄シャツを着ていると、驚くほど街でナンパ・キャッチに遭わないし、道を聞かれる頻度も激減する。
昔、と言っても数年前、ちょっとフェミニンな感じの服が好きだったころ、けっこうナンパ・キャッチに遭っていた。あと、ティッシュ・ビラ配りにもめちゃめちゃしつこくされた。
数年前と今(と言うか去年の冬)とで、顔面に大きな違いはない。
違うのは、わたしがガラの悪い柄シャツを着ていた、ということだけだ。
基本的に人は、自分よりも弱そうな人にアタックする生き物である。
迷子になったとき、往来の中いくらでも選択肢がある中、最終的にひとりに狙いを定め道を聞くこともあるだろう。
そういうとき迷子は、無意識に声をかけた人のことを「自分より弱そう」と思っているのだと、どっかで聞いたことがある。
つまり、この人になら冷たい態度をとられないだろう、という人を選ぶのだそうだ。
冷たい態度をとられるその境界線はどこか。
自分より強いか弱いかである。
道を聞いている側は、いわば立場としてはそもそもが弱い。教えを請う立場だからだ。
なので、なるべく自分と同等、もしくは下の強さの人間を選ぶことで、道を教えてもらう確率を上げるのである。
たとえば新宿西口で迷っているとき、いかにもな柄シャツを着た金ネックレスにデカいグラサンかけた180オーバーのドレッドヘアのおにいちゃんと、リブニットアンサンブルに膝丈スカートを着たコンサバメイクのおねえさんがいたら、わたしは絶対におねえさんに道を聞く。
だっておにいちゃんに「あ?」って聞き返されたらちびる。
もしかしたらおにいちゃんはすげえ親切な人で、道を丁寧に教えてくれるかもしれないが、中身を知らない場合は人は見た目が100%である。
わたしはおねえさんならいざとなったら腕力でねじ伏せられるかもしれないが、おにいちゃんには勝てない。だからおねえさんを選ぶ。
余談が過ぎたが、つまり、理論上はナンパもキャッチも同じである。
押しに弱そうな人に声をかけて、成功率を上げるのである。
フェミニンなオーガンジーブラウスを脱いで柄シャツをまとうとどうなるか。
押しに弱そうには到底見えないのである。だから、ナンパもキャッチも失敗して時間を無駄にしたくないからわたしに声をかけないのである。
いやこれは、ほんとにそうで、ハタチ前後のとき、オレンジ色のカッキンカッキンのキノコ頭だったときがあるんだが、あのときの声かけられなさは異常だった。
黒髪に戻した途端、す~~~ぐ声をかけられるようになった。
時を戻そう。
基本的に、身長が高く骨太な体型なので、そもそもが強そうではあるんだが、フェミニンな服を着ているとそれが中和されるのである。
というか、逆に、その体型でフェミニンな服を着ていると、「そういう性格」なんだな、というのが強調されるようですらある、と気づいた。
つまり、「フェミニンなファッション」にみんながなんとなく抱いている、「優しい・か弱い・甘い」というイメージを好む性格なのだと。
ちなみに去年の冬の髪型は、黒髪センターパートうなじ刈上げ前下がりベリショという強い女の代表格みたいなやつ。
声をかけたら「あ゛?」とかメンチ切ってきそうな女に、キャッチが声をかけるわけがない。
最近はまた、フェミニンカジュアルな気持ちで服を選んでいるが、同じ轍は踏まない。
メイクを濃くするとか、アクセサリをごつくするとか、どこかに強い要素を入れるのである。
そして、背筋をぴんと伸ばして時速60キロ出してる気持ちで歩くのである。
正直せかせか歩くだけで、強そうに見えるしキャッチされる率はだいぶ下がる。
時速60キロで歩いている女に声をかけるのなんて、コロナ禍の中の浅草の人力車のおにいさんたちだけである。
とにかく今夏はぶっといバングルが欲しい。
あとメリケンサックみたいなつながってる指輪が欲しい。指輪はじゃらじゃらいくつでもつけたい。
どんなキャッチまみれの街を歩こうと、絶対に声をかけられない強い女になりたい。
ティッシュ配りの人がびびってティッシュを差し出してこないような女になりたい。
いや、ティッシュは欲しいな。