祖母とお電話とわたし
祖母は耳が悪い。
もう90オーバーののスーパー後期高齢者なので仕方がない。
むしろ白内障の手術して目はわたしよりいいのが解せない。
祖母は、祖父が亡くなってからこの方一人暮らしをしている。
時折叔父が様子を見に行ったり、ヘルパーさんが週に何度か来たり、わたしの母が様子を見に行ったりする。
母と祖母は頻繁に電話をして生存確認をおこなっているのだが、前述したように祖母は耳が悪い。
電話口に怒鳴るようにして母が要件を伝えて、それが1割くらい通じておしまいの電話だ。
生存確認なので、まあ……、よくはないけど、ヨシ。
ところが、最近その電話の様式に変化があったらしい。
祖母はいかにも高齢者らしい高齢者だ。
もはやテレビの内容にもついていけないし、挟まれるコマーシャルもなんの宣伝なのか分からないものが大半。
わたしなどが訪ねていってスマホをいじっているのを「そんなちっちゃい板に一生懸命かじりついておもしろいねえ」としみじみ言うような人だ。
つまり、スマホやPCがまったく分からない。
だからその一報を母から聞いたときわたしは完全にスペースえこちゃんになっていたと思う。
「今度からおばあちゃんとの朝の電話をライン通話にするんよ」
ハァ????????
いや、何言ってんの?
おばあちゃん、ラインはおろかスマホのこと板って言ってるような人だよ?
おばあちゃんのスマホへの認識は「よう分からんけど、あれがあるとなんでもできるんやで」だよ?
そのようなお方とどうやってライン通話するのさ?????
詳しく聞けば、まあうちの母もデジタルには弱いので要領を得なかったが……おそらく、祖母宅のリビングにラインをインストールしたタブレットが置かれたらしい。
そこに母親がライン電話をかける、祖母がボタンをタップして応対する、という仕組みのようだ。
ちなみに、ビデオ通話だそうだ。難易度上がってる。
叔父がそのように取り計らったらしいがいかんせん叔父もデジタルには弱いらしい。
いやもうなんでそうしようと思った?
と、そこでわたしはとある事実を思い出した。
ばあちゃんち、Wi-Fi飛んでなかったよな? ということを。
案の定数日後母から「ギガが足りひんでおばあちゃんから『あんたの声が聞こえへんし映像が止まる』と言われた」と報告があった。
どうやら、叔父が導入した制限ありのポケットWi-Fiの速度制限に引っかかったようだ。
今は快適に通話できているらしいので、もしかしたら光工事をしたのかもしれない。
そして、どういった経緯でラインビデオ通話に移行したのかは知らないが、祖母は思わぬ副産物を得ていた。
つまり、「あんたの顔が見えると何を喋ってるのかよう分かる」とのこと。
口の動き、という情報が付加されたことにより、耳の悪い祖母は電話よりも明瞭に相手の言葉を聞き取れるようになっていたのである。
まあ「よう分かる」は虚偽申告だけど。半分くらいしか聞いてないのは事実だけど。
コロナになって、遠方に住んでいるわたしたちはより祖母に会えないでさみしいのだが、今度実家帰ったときにでもライン通話に参加させてもらおうと思う。
コロナになって、わたしも友人と通話をすることが格段に増えた。
mocriというアプリが現れたのがデカイ。
友だち登録してる誰かが通話をするための部屋に入ると通知がくるので、示し合わせなくても通話ができるし、都合が悪いから気分が乗らないから、その通知を無視しても当然誰も傷つかない。
画期的な通話アプリだと個人的には思っている。
そしてその顔の見えない通話で気をつけたいことが、ひとつある。
対面で会話をしていると、たとえば4〜5人の集まりで1つの話題になったときふと見渡せば「あ、この人この話題興味ない/分からないな」というのがなんとなく察せる。
でも通話で、分からないから黙られてしまうと正直察するのは不可能に近い。気付くのはけっこうあと。
そして、通話で「その話分かんない」というのはかなりの勇気と空気の読めなさが必要だから、難しい。
誰が悪いわけでもない。なのに、分からない人は密かに傷つくしモヤモヤするし、それがあとから発覚すると置いてけぼったほうも気まずくなる。
察すのはかなり難しいので、わたしは「分からない話題やつまらないときは即座に言ってほしい」という意思表示をする方向にした。
5人も6人も集まれば、1つの話題に1人くらいついていけない人は出るだろう。
だから、そういうときは軽い気持ちで「それ全然分かんないや〜(笑)」と言ってほしい。
わたしたちだって、つまらないと感じる人がいる中でその話題を続けるほど愚かじゃない。
何より、そこに居合わせたみんなが楽しくないと意味がない。
祖母のライン通話で、そんなことをふと考えたりしている。
やはり祖母は偉大。グレートマザー。