高取城 ~日本三大の一角~
奈良県、そう聞いて連想するのは古墳と大仏とシカ、だろう。
実は日本トップクラスの城もある。その名は高取城。
場所は初代天皇ゆかりの地橿原神宮、の少し南。
近鉄線の壺阪山駅、から徒歩80分。
太ももと精神をこれでもかと酷使させる城である。
それもそのはず、ここは日本三大山城の一つ、つまりトップクラスの山城。
天空の城の異名を持つ備中松山城より標高が高い。
それなのに大天守だけでなく小天守、更にいくつもの櫓などの近世城郭的な特徴があった。
これが全盛期の図らしい。
この城の歴史は古く、始まりは南北朝時代の南朝方の城、それが筒井順慶の時に本格城郭に、そして豊臣秀長の家臣の本多利久が大改修。
そして江戸時代になると、とある特例を認められる。
歴史の授業で語呂がいいからと覚えやすかった人も多いであろう武家諸法度。
その中に『城を元通りに修復するなら幕府の許可を取って』との法令がある、自然災害でも。
たとえ台風や地震で使用不可なレベルで破損しても、報告して許可を取らないと元通りには戻せない。
もし勝手にやったら改易。元に戻しただけなのに。
しかしそれはしょうがない。首相が何か言う度にブーイングしても許される令和とは違い、幕府の言う事にブーイングすると処される時代だ。
しかしこの高取城だけが唯一、『元通りにするだけなら無許可でもいいよ』との特例を認められてる。
何故か?それは当時の城主の植村氏が古参の家臣だし、山の上だから破損当たり前だし、行き来すんのキツイし。
って色んな要素が上手い具合に噛み合ったから。
というか、江戸幕府にすら太ももと精神をこれでもかと酷使させる城として認識されてたようだ。
駅からしばらく歩き、移築された松ノ門を過ぎれば…
山道ゾーンに突入する。
途中で巨大な大仏とエンカウント。子供が夜に見たら確実に泣き叫ぶだろう。
ここは壺阪寺。南法華寺とも呼ばれ、平安時代には京都の清水寺と対になる存在だったらしい。
詳しく話を聞きたかったが開門時間まではまだまだある。諦めよう、目的はここではない。
そこから更に歩くと…
下半身に更なる負荷をかけるような急角度の坂。
きっと喫煙所はこれを見て『タバコ吸いてぇ!』となるのだろう。
非喫煙者の自分ですらタバコに見えたのだから。あの大仏が吸ってたタバコと言われても納得のクオリティだ。
そして更に歩みを進めると…
到着!
石垣
石垣!
見渡す限りの石垣!
建物こそ残ってないけど、トップクラスの山城と言われてるだけの壮大な石垣群は残っている。
きっと周辺の中学生なんかは遠足でここに来るのだろうか?
古の要塞の跡地……思春期男子ならテンションの上がるシチュエーションだ。
いや自分が城好きだからテンションが上がるだけで、一般的には石垣だけは渋いか?
いや、この威風堂々な姿は誰でもテンション上がるな。思春期男子だけでなく思春期過ぎた女子でも上がる。
思春期過ぎた男子はそう思う。
切株アートで往年の天守、
その側にはクマがいる。
そこら辺にクマ被害が頻出するこのご時世、なかなか刺激的な作品である。
そして本丸へ。
景色を見てたら登山服を来たおばさん女性からおむすびを頂いた。どうやら仲間とハイキングに来てたらしい。
女性でもハイキング感覚で来れるところだ、周辺の中学生の遠足地になってる確率は高そうだ。
そしておむすびをくれた女性は「あげちゃった!話しちゃった!」らしき事を言いながら仲間たちと盛り上がってた。
お礼と少しの世間話しかしてないんだけど…と思ったが、性別を置き換えてみたら納得した。
オッサンが女子高生に試しに食べ物を与えたら好感触だったからテンションが上がった、そんな感じなのだろう。
でも悪い気はしなかったから、今度女子高生見つけたら食べ物与えてみよう。時と場所をミスると一発アウトのスリリングな案件だけど。
そして帰りはせっかくだから別ルートを。
これはもしかして数時間前に見たあの松ノ門が本来あった場所…?なんか感慨深いものがある。
説明板には『大手登城案内図』。ということは正式なルートはこっちなのかも。
山城なのに水堀。
山城なのに小天守や櫓群まであったり、武家諸法度の特例を認められたり、とことん規格外な城である。
少し下ると現れる石アート。飛鳥時代の作品で、城の内外を分ける結界として置かれてたらしい。
RPGなら確実に重要イベントの起こる場所だ。もしくは中ボス戦。
そして更に下ると、
やはりこのルートが正式らしい、『高取城址』との石碑が置かれてるから。行きのルートでは見なかったのに。
ご当地クラフトコーラ、キハダコーラを。
柑橘系の甘みがあって、スパイス?系統の味わいが印象的…。
夢中で飲んでると一人のおじいさんが店員の人に色々質問していた。
どうやらこれから城を見に行きたいが帰りの時間もあって、何分で行けるかが気になる様子。
……人にもよるけど数分感覚じゃ無理じゃないのかな……と思ってたら店員さんは自信満々に、「10分です!」
いやそれは無理だ!
しかしよくよく考えたら、『高取城址』と書かれた石碑までなら10分でも行けそうな……いやそういう事じゃない。
そしておじいさんは満足気に山へ進んで行った。
きっとあのおじいさんは10分後に『いやこういう事じゃない』と言うのだろう。