金言342:のれんにあぐらをかいていました
2008年5月28日、創業80年の老舗料亭「船場吉兆」が廃業しました。負債は9億円で従業員80人を解雇し、破産手続きを開始しました。
前年10月に発覚した食材産地偽造で休業に追い込まれましたが、翌年1月21日に営業再開しました。ようやく回復の兆しが見え始めた矢先に、ネガティブサプライズがありました。お客さまの食べ残しの使いまわしを1994年から昨年まで続けていたそうです。残飯を再加熱や盛りなおしなどをして末席の客に出していたといいます。末席は接待役が座ることが多いと思いますが、料理代金支払い者は、老舗料亭が配膳する残飯を不当に高額な料金を払って食べていたわけです。
前の客の食べ残しの使いまわしが発覚した日から、予約は激減し、営業継続が困難になりました。接待で使ってきた常連客は、残飯を食べさせられてきたのですから、払い戻しを請求したいくらいで、女将に泣きつかれたからといって勘弁してやるわけにはいかないでしょう。創業者が一代かけて築いた信用を無に帰した実の娘は「のれんにあぐらをかいていました」と泣いて謝罪しました。一夜でブランドと経営資産を失うことになりましたが、その原因は一夜で作ったものではありません。のれんわけで創業してまもなく、事業拡大で発生した債務を返済するために行った不当な商いのつけがまわってきたのです。
不祥事が発覚し世間の信用を失い人気がなくなった店を、それでも利用しようとするのは、トレンドに逆行して投資する逆張りに似ています。だれも見向きもしないボロ株を買い集めて将来の大化けに賭けるわけです。これは投資ではなく博打と同じ投機です。
会社の経営判断には無縁な従業員が起こしたのと違い、経営者が主導した不法行為は、経営者本人を退場させない限り、市場は業務内容是正の可能性を認めません。システム開発の現場では、赤字プロジェクトをだしたプロジェクトリーダーは、懲りずにまたやる可能性が高いと考えます。赤字プロジェクトを精査し深く反省したとしても、本人の基本的なマネージメント手法がそれほど変わることはないのですから、同じ状況になれば同じような結果になります。徹底した成果主義を採用すると、一回でも損失を計上した担当責任者に再挑戦の機会を与えることはリスクと考えます。
負けたことのないビジネスエリートは打たれ弱いので、多くの負けを経験している「しぶとい」ベテランを好む経営者がいます。しかしながら、負けが多い人はその意思決定過程に隠れた瑕疵があるから負けが多いのかもしれません。投資家は、不敗のエリートは負けない選択と意思決定ができる人だから勝ち続けると評価しているのかもしれません。