金言290:カーボンフレームのクロスバイク
1980年代後半、イタリアのカーボンラケット工場で、自社ブランドの自転車フレームを製造し、日本市場参入を試みたベルギーのメーカーがありました。南イタリア工場の敷地は広大で、自家用飛行場と鉄道の線路を備えていました。
テニス業界ではカーボンラケットが主流になり、あのビョルン・ボルグもフロリダでオーバーサイズのラケット(デカラケといいました)で練習していた頃の話です。自転車フレームの企画アドバイザーは、ツール・ド・フランスで優勝回数が世界2位のベルギーチームで何回も優勝した有名選手でした。イタリア人の資産家から事業資金を得て、ドイツのボンで開催された二輪車ショーにも出展しました。ここまでの資金は確保できたのですが、本業のラケット事業が不振となり、バックオーダーを抱えながら倒産してしまいました。ベルギー、フランス、イタリアの資本家が投資したブランドでしたが、その後どうなったか不明です。
この自転車のカーボンフレームにはTREKKINGと書かれています。当時トレッキングがアウトドアスポーツで流行っていたためのネーミングですが、いまならクロスとしたに違いありません。自転車ビジネスへの新規参入は時期尚早でありました。とにかく、シマノの部品で組んだカーボンフレームのサンプル自転車が1台、記念品として手元に残りました。最初の10年間は家具の一部として部屋に飾り、次の7年間はカバーをかけてベランダにだしました。保存状態が良かったので、17年間原型をとどめ、タイヤもチューブもそのままで、街中を走ることができました。
その後、地球温暖化防止の一環で化石燃料を使う乗り物の代わりとして自転車が注目されるようになりました。そこで、我が家のこのお宝を近所のスポーツバイク専門の自転車屋さんに持ち込み、パーツ交換をしたら日常使用ができるか相談しました。わかったことは、団塊の世代にもよく売れているクロスバイクであるということと、日本で販売されていないものだから、なるべくそのままにしておいたほうがいいということでした。はっきりいうと、あまりお金をかける価値はないということでした。そこで、消耗品であるタイヤとチューブを交換しました。
自転車フレーム製造ノウハウの蓄積がない工場の製品で、実車でのユーザ評価がないので、日本未発売というだけではプレミアムになりません。新興市場に上場したての社歴5年未満のベンチャー企業の株価評価のようなもので、信頼性に欠けるところが不人気の理由です。
長年放置してそろそろ廃棄処分にしようかと思っていた自転車ですが、カーボンフレームで軽量、さらに、街乗り中心のスポーツ派向けのクロスバイクということがわかり、見直しました。自転車屋のマスター(バーバーではないのですが、おじさんというわけにもいかず)のおかげで、ブレーキとギアの調整、それにタイヤとチューブの交換で日常走行に耐え得る機能が確認されました。
乗り始めてから、市販のクロスバイクの方が安全快適であることがわかり、リスク優先で廃棄処分しました。10年も前のことです。クロスに乗り換え、折りたたみ自転車、ロード、マウンテンバイクと買い増し、一時は5台保有していました。現在は1台を主に使い、残り2台を仕事部屋のインテリアにしています。