見出し画像

ため息449:社内で吉野社長・坂本副社長とはいわないでしょう

ITバブル期、某ソフトウェア会社(SIer)のワンシーンです。
この会社は大株主2社からの出向社員で運営されていました。

違和感があったのは、従業員が代表取締役社長と代表取締役副社長を呼ぶ際に、肩書きに苗字をつけて個人を特定していたことです。通常、社長と副社長は各1名しかいなければ、その方々を特定するための「肩書に氏を加える」ことはしません。(社内で、さらに幹部社員が会議の席で、経営者に向かって、例えば吉野社長・坂本副社長とはいわないでしょう)

同じ肩書きが複数存在する場合は、姓名を加えて区別する必要がありますが、各1名の社長と副社長に対して、吉野社長・坂本副社長と呼んでいました。

全盛期の某同族会社では、オーナーの姓名を口にする従業員は本社にはいませんでした。直系構成員は、オーナーとか大将と呼びました。新入りの社員に、先輩が口頭で経営者の呼び方を教えます。ダ・ヴィンチ・コードの舞台になる特定宗教でも同様なことがありました。神の姓名を人間が口にすることを禁じたため、人間は神の名を忘れてしまったそうです。

話をもどして、この会社の次のような状況が、経営者の呼称に影響を与えたものと推定します。

1)経営者は、親会社からの派遣で、任期が短い。すぐ替わるので氏名で特定しておく必要がある。
2)重要な経営判断は、両親会社間の調整で決定される。
3)実質的な人事権は親会社がもっている。
4)従業員にとって、社長・副社長とは親会社の経営者のことで、出向先である現在の職場の経営者のことではない。

上記のような理由で、親会社から出向してきた幹部社員は、子会社の経営者を苗字+タイトルで呼ぶようにしていたのでしょう。

さらに意思決定の過程にもこの企業風土が影響を及ぼします。
経営者は、重要案件・要注意案件については経営会議で徹底的に議論し、意思決定は、閣議のように、全会一致でします。代表取締役の強権執行も社長一任もありません。幹部社員はいずれ帰る親会社で用意されるポストが、期待はずれにならないよう、悪い結果を残さないように、出向先である子会社で親会社のためにできることは何でもやります。

一方、経営者は、幹部社員にあとで合意を取り消されることがないよう、全員にきっちりとコミットメントを求めていたのかもしれません。

いいなと思ったら応援しよう!

平史理 taira fumitoshi
いただいたサポートはこれからやってくる未知のウイルス感染対策、首都直下型大地震の有事対策費用に充当します。