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哀れなるものたち。

朝起きて、ずっと体を覆ってぴったりと包んでいた眠気が、ほんの少し引いていることに気づいた。子供達を見送って、掃除を軽くして、虎に翼を見て(もうだんだん重くて、見た後にふぅとため息をついてしまいます)時計を見た。

ボランティアさんにおすすめされたラストマイルを観に、映画館に行こうかとバス停まで行く途中、バスが走り去っていった。10分待てば次のバスが来るけれど、まだ体の怠さが残っていて、このまま暑さの中にいたら頭痛もやってきそうだった。

そういえば、と思ってスマホでAmazonプライムのアプリで「哀れなるものたち」を検索する。こっちにしよう、とピンときて、家に帰る。

涼しい部屋でクッションで横になりながらプロジェクターで観ることにした。カーテンを閉めて、ルンバも食洗機も止めて、再生する。

ベラは色を失った死体と、キメラと、狂っている世界で大きくなる。不味いものを口から出す、死体を滅多刺しにしたり、皿を割ってその感触や音や衝撃を楽しむ、それは家の中という楽園で全て許される。

子供を育てて、躾をするのは(ティッシュをひたすら出さない様にとか、トイレを使うとか、生き物をむやみやたらに殺さないとか、綺麗に食べるなど)「外の世界」に適応させるためだとベラを見ていて気づいた。そう、児童館に行く様になってはじめて、理不尽とも思えるルールを身につけさせられる。

ベラは、楽園から外にでることを選ぶ。自分の発見した『社会的には良くない』幸せになる方法をもっと希求したいし、それを婚約者はしないという。ならば自分を守ってくれそうな人々の中ではなく、自分を守ってくれなさそうな、だけれど冒険に連れていってくれそうな男の手を取る。

エッグタルトを吐くまで食べること、セックスを気が済むまでしてなお渇望すること。この気持ちよさの根源は何か、これは一体なんなのか、セックスをしているときだけ真理に近づけている気になるけれど、それは行為が終われば霧散していく。相手は自分を満たしてくれない。

冒険に出たベラが、音楽に触れたときの感じがとても好きだった。暴力を目の当たりにすること、賢くなるけれどそれでも自分の納得できないことには嵐の様な激しさで抵抗する。

哲学や文学に出会う。自分が生きている目的や、人間は向上できるのか、貧困という自分の力ではどうしようもないことにぶつかる。でもベラは絶望せず、人間は良き方向に向かうと信じる。

自分を見守り、冒険に連れ出してくれるはずの男が束縛してくること、その声に怒りや憤りを感じること、それを感じる自分を嫌悪すること。大きく見えていた男が、小さく、自分を閉じ込めておく檻に変わりなく、変わっていく自分を認めてくれなくなること。

人間を知るためにいろんな男と寝てみること、自分の力でお金を稼ぐこと、一番人の普段隠されている文字通り裸の部分を知るてっとり早い方法であり、それを工夫してみること。自分の学びたいことを希求し、勉強していくこと。

自分の家に帰り、その場所を確かめること、自分の知らなかった過去を明らかにしていくこと。どれも痛みや恐怖が伴うはずなのに、ベラは恐れずに進んでいく。
ベラが、横たわる博士を気遣うとき、もうベラは大人だった。

全部狂っている様に見えるベラ、狂っているのは世界の方かもしれない?と思わせる映画作りが素晴らしかった。魚眼レンズによって大きく見えていた家の中は、大人になったベラが帰ったとき、普通の家だった。ベラたちを私たち観客はずっと、悪趣味に「覗き」見ている。でも彼女が冒険に出たとき、私と彼女の目線は同じになる。

ベラは途中まで人の気持ちが、ほんとうに「わからない」という顔をする。最後になると、「わかるけれど同意しかねる」という表情になる。その演じ分けが見事だった。
ベラの気持ちはわからないけれど、いろんな瞬間の感覚はよくわかって、かつての自分と重なって、そうだよね、そうなんだよね、と思っていた。

衣装や世界観も好きだったし、ヤギ将軍にわ〜〜狂気を感じる〜〜って思いながら観た。平和な?ラストが最高。
あとダンカンは、それを言ったらそれをやったらおしまいだよ!という地雷を踏み抜きまくっていて、見たことある光景だなと『ダンカーン!』と爆笑しながら観てしまった。
ベラの冒険・成長物語という面がもちろん本筋なのだろうけれど、
セックスしている時の顔は一緒で、一皮剥いて仕舞えばセックスでも、解剖でも、中に入っているものは大差なく哀れだ。

不味いものだとしても全てを口に入れ、時に出し、芸術に出会い、本を読んで、人の心を知ったりしながら自分で漕いで生きていく。
船の上でマーサに『歳を取ると思考の方が大切になる、脚の間にあるものには 興味が薄れる』と言われて、は?!そんなわけなくない?!的なことを言っていたベラが後半、娼館でのことを『飽きちゃった』と言ってるシーンが、なんだかさっぱりしていて好きだった。

興味は薄れる、けどなくなるわけではなく、将軍に言った通り『私は新しい身体と、クリトリスを大事にする』という、それすらも自分ってところがよかったのです。 あと、マッキャンドルスの『嫉妬はするけど、君の体は君の自由にするべきだ』っていう台詞も好きだった。

台詞と言えば、熱烈ジャンピング、と身投げのジャンプもかかっていて、良い台詞がいっぱいあって英語で字幕で見るのが良いですね。
博士がベラの代わりを作ろうとしても作れなかったところも良かったなぁ。特別であること。

なんて徒然感想を書いてしまうほどに好きな作品でした。性描写が多いしグロいし中身大したことない的な感想を見てそうなのか、、と観る気がなかったのだけど、あなたに『良かったよ』と聞いて観るかーと観たら衣装も世界観も含め、めちゃくちゃ好みだった。ありがとう。大したことなくないじゃん?!むしろその感想書いた人と友達になれそうにはない、と思った。

世界には良い映画が溢れてるね、数年経っても良いものは良くて、何周遅れかで観ている私にとってそれはとても嬉しい。

感想書いたら眠くなってきた。お迎え行ってきます。

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