現像機をさがして。気がついたらカラープリントに挑戦していた話。
生まれて初めて手焼きでプリントした。しかも、カラーで。
朝、寝ぼけながら、今日はフィルムを現像しようと思って、フィルム、現像、プリント、府中と調べた。早く見たい時に利用していた永山のコイデカメラが閉店してしまったから、新しいところを探さなければならなかった。
すると、府中市の生涯学習センターにカラープリントボランティアという団体があって、なんだかよくわからないけれどカラーの引き伸ばし現像プリントが体験できることを知った2021年の記事だった。ん?カラープリントって、個人じゃできるレベルのことじゃ無いよね、、?そしてなぜ府中?頭の中に「?」が10個くらい浮かんだ。
今でもやっているのだろうか?と気になって、よくよく調べないと情報が出てこず、やっとたどり着いたページでまさに今日が一年に一度の文化祭的な日で、カラープリントのワークショップが行われることを知った。先着5名。
ぴーーーん!である。ずっと焼き付けたいと思っていた。白黒ですら薬液を子どものいる家に置くのは難しいとできずにいたし、習いたいと思い数年。これは、今日だ。今日行ったほうがいいぞ、と感覚が告げている。
元々子どもたちは夫とお祭りで出店する予定だから一人で出かけて良いよと言われている。(ありがとう!)
朝ごはんを食べて、子供達の支度をして、いってきまーす!!と自転車を40分漕いで、Googleマップでなぜか矢印が正反対を向き続けるという苦行に耐えながら、川を越えてひたすら走ってたどり着いた。隣の府中市美術館はミュシャ展に長蛇の列だった。
生涯学習センターはとても立派で、府中すごいなー!と感心。普段ここで活動していると思われるいろんな団体が展示やワークショップを出していて、どれも無料で驚いた。
3階の奥の美術室に向かう。手作りのパネルで、カラープリントワークショップこちら、と書いてあった。道に迷って着いたのは10:05で、もう先着埋まってしまったらどうしよう、と思って挨拶しながら入ったらおじいさまとおじさま二人、ワークショップに参加したいです!というとネガはありますか?と聞かれて決めかねて3シート持って行ったらこちらを見て驚いていた。
まず89歳の会長さんに概要のレクチャーを5分くらい受けて、引き伸ばすコマを選んだ。息子の地引網の時の写真。タイトルは?と聞かれて「海を拾う」にした。(のちにもっとカラーっぽいやつにすれば良かった!と思うのです)
そこからは今日はピンチヒッターで呼ばれたというNさんにバトンタッチ。暗室での引き伸ばし機の使い方を教えてもらって、小さな暗室に二人で入って、CMYと露出時間を調整しながら、半分にした印画紙に焼き付けていく。初めての暗室でワクワクが止まらず、Nさんの教え方が上手で、緊張しつつ6つの小窓を指示通りに開けたり閉めたりする。その開け閉めの時間で露光時間が変わるので、間違えない様に確認しながら。
終わったら台から印画紙を外し、手探りで箱に入れて外に出る。もう、真っ暗。目が慣れてくると専用のオレンジ色の灯りが綺麗で、ちょっとずつ見えて来て、わぁ、と声を上げた。
そのまま現像機に移動して、箱を機械の中に入れて蓋をする。手を入れる腕カバーみたいなのがあって、そこから手を入れて箱を開けて印画紙を取り出し、乳剤面を下向きにして機械に入れる。感光しない様に、慎重に。
ゆっくり、ゆっくり、液の中を通って、反対側からペロリと出てくる。像が結ばれていて、わーーーーっと嬉しくなった。
Nさんは、マゼンダがだいぶ強いね、これを抜くにはマゼンダのフィルターを足すんだよ、足すと、引かれる。反対になる、たまにこんがらがって間違えちゃうけれどね、と教えてくれた。そしてフィルター値を高くすればするほど、光は透過しなくなるから、同じくらいの濃さが良ければ露光時間を長くする必要があるんだよ、と。メモしていく。(教えてもらってこれやっと理解できた)
アタリをつけて、次のテストプリントをして、六切りに焼き付けた。
実はまだマゼンダがつよいねーともう一回やる?とやらせてくれて、六切りに焼いたら私が紙のセットを間違えていて失敗、もう一回やって上手くできた!と思ったら思いっきり水平がずれていたのでした。とほほ。Nさんは笑ってた。
「写真は水平と垂直がずれていると気持ちが悪いからね、撮る時も気をつけたほうがいいよ」
適正露出で撮ること、そういう基礎的なことの必要性を体感したのでした。こりゃーカラーの引き伸ばしが高いはずだわ。。と体感できたのも良かった。プリントの持つ存在感みたいなものも、うっすらとでも感じ取れた。
Nさんは実はこの会のメンバーでは無いそう。
今日はイベントに来られるメンバーがほとんどいなくて、会長に頼まれて講師として二時間かけて来たのだと言っていた。何を聞いてもめちゃくちゃ詳しいのにわかりやすくて、この人何者だろう?と思ったら、現像液を販売する会社にいて、方々周り機会も動かしたり、現像もやっていたそう。学生時代はユースホステルを使って旅をして、三脚含め20キロの荷物を背負って時には野宿したり駅に泊まって、写真を撮り歩いていたのだそう。つよつよな方である。しかも物腰柔らかでやさしいのである。最強。Nさん、入って。そしたら私も入りますから!と謎の口説きをしたけれど難しそうだった。
今までわからなかった現像について学べたし、個人ではもう難しい(Nさん曰くほぼ不可能)な手焼きカラープリントができてとっても嬉しかった。
なんでこんな機会や暗室3室もあって専用の写真室があるのか謎、らしい。印画紙代と部屋の使用量だけでカラープリントできるそう。府中恐るべし。
企業がたくさんあって、税収が多いらしいとの噂も。
それにしてもびっくりでした。
詳しく話を聞いていたら、どうやらこのワークショップに来たのは私だけらしく(みんな1時間くらいで終わると思うらしい。それはそうだ)二時間半お世話になった。無料なのですよ…これ23区内でやったら半日1万円とかのレベルですよ…?恐るべし府中。もっと広報して。インスタとか開設してフィルム好きの皆さんに知らせてほしい。みんな、手焼きプリントしてみたいよね?(私はしたい)
府中写真同好会として活動を月一で行っていたけれど、引き伸ばし機が3台あったのが2台壊れてしまい、コロナや高齢化で人が減ってしまい、今はメンテナンスのためだけに動かしているそう。人が多く慣れば引き伸ばし機の修理の要望も通るのだけれど、と。こんな貴重な機会が市にあることがもうびっくり、それがなくなるのはあまりに惜しい。仲間が増えたら存続できるかもしれないとのことなので、こうして記事にしている。気になった方は府中の生涯学習センターに問い合わせてみてくださいね。
友達も誘って今度メンテナンスの見学に行けたらいいな、と思いつつおしまい。
終わって写真室の外に出ると、たくさんイーゼルに写真が展示されていて、どれもここで引き伸ばして焼かれたのだという。みんな海外の写真など、かっこよかった。おばあさんが椅子に座っていて、話しかけると会長の奥様とのこと。
「好きなことがあるのはいいことだわ、家事育児一辺倒にならないほうがいいわよ」と言われて、「何かお好きなことがあったのですか?」と尋ねると
娘さんが重度の障がいを持って生まれて、ずっと介護をされていて、そこから障がいのある子供たちのケアやそれぞれ介護しやすく、着やすい服作りに興味を持って、学びたくてそれぞれ専門学校で学び、ずっとその活動をつづけて、服作りも楽しくて業務用ミシンを3台も使い潰して、3人の子供たちが大きくなればその孫の世話をして、とずーっと何か楽しみを見つけて来たの、と。
大学を出て、教員をして、子育てや介護をしながらも、それでも好きなことは大切、とおっしゃっていた。家事なんて、手を抜こうと思えばいくらだってそうしていいのよ、と。
人生の重みが違う。。
息子と娘がいることを伝えると、健康なのでしょう、もうそれでいいのよ、大変なこともいっぱいあるし、「このばか!!」と思うこともあるけれど、同じくらい成長は眩しくて、大きくなるということそれ自体(障がいがあると太れない、大きく慣れない場合もある)は健やかで美しくて、楽しいわよ。と笑ってらした。
どんなに悪い点数をとったって、「こんな点数なかなかとれないわよ〜」ってほめたらいいのよ、と。なんか人生の大先輩にそう言われたら、そうなのか。。と素直に思った。
「あなたはきっとお仕事もしてらっしゃるでしょう、お顔をみればわかるわ。カメラもとっても情熱をもっているのね、好きなことがあるなら、それは決して手放してはいけませんよ」と言われて「家に集中しなきゃ…」と思っていた罪悪感みたいなものがざっと溶けていった。
という、現像できる場所を探しにいって、カラープリント学んで、人生のヒント的なやつをもらった日。求めたら与えられた、みたいな日でした。(いつも基本そうなんだけれど)部屋を出たら隣でルリユールの会のワークショップも行われていて、製本もちゃっかり学べた。(三つ目綴じやってみたかったんだ!!無料でした…)本当にお世話になりました。ありがとうございました!
午後はカメラのキタムラまで50分かけて自転車で行き、現像に出して、それからまた15分かけて子供たちが出店を出しているお祭りを見にいった。
おしゃれなお祭りで、団地中人でいっぱい。二人が元気そうにしていたので、夫に挨拶して、ちょっとだけ手伝って、写真を撮って、早々に退散した。(人混みが本当にダメになったのはなぜなんだかわからないけれど、だめでした)
帰り、キタムラに寄ってネガとデータを受け取る。やっぱりプリントしたいな、と思いながら、たっかい!と初のキタムラの価格にビビり倒して帰宅。でも今日はなんだか無料が多かったし、その分フィルム業界に投資ということで。
コイデカメラより安かった。出来上がりの写真はまた次に。よく自転車で走った日でした。