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霜月・11月19日のこと。

今日はどうしても眠くて、10時ごろまでダラダラと寝ていた。娘は私を起こすのを途中で諦めて、先に着替えたようだった。二度寝三度寝最高と思っていたら、チャイムの音で目が覚めた。いつも優しくて明るくて元気な佐川急便のおじさんの声が階下に響いていた。引き戸を家族が開けて、荷物が来たことを教えてくれた。秋田の中川原さんからだという。
むくりと起きて階段を降りる。おおきな段ボールに、特級 と りんご の文字。

カッターでやさしく開けると、ふんわり甘酸っぱい香りがして、うっとりとする。うすい緩衝材を取り除くと、驚くほど立派で、赤い、溌剌とした本当に美しいりんごだった。
うふふと嬉しくて、娘たちを見送りながら、寝ぼけつつ一個剥く。赤い皮を剥いてゆくと、黄色の中身。平和な月みたいな、黄色。
一緒に留守番をしている息子と半分こすることにして、食べやすく切る。

「結婚して、はじめて、どんなときでも果物をむいて一口に切ってくれていた母の愛情に気づいた」

そう言っていたのは同級生の女の子だったな、と思い出しながらりんごを齧る。じゅわりと果汁が広がって、しゃくしゃくと一番好きな感じだった。うれしい。柿にりんご、玄関にある。果物があるとふんわり落ち着く。実家でも必ず果物が食事の後に出ていたな、母の愛。

中川原さんに電話をする。中川原さんは秋田のあけび籠を作られていて、わたしが民藝に出会うきっかけになった人でもある。その話はまた今度、ゆっくり書きたい。

久しぶりに聞いたお声は元気そうでほっとした。酷暑でりんごは豊作ではなかったことや、あけびの蔓もおおきなダメージを受けたけれど、この異常気象も人間が引き起こしたことでもあるから受け入れていること。幸いまだある去年の蔓を大事に使わせてもらって、作るつもりです。とのことだった。他のにも体のことや、クマのこと、いろいろな話をして電話を切った。

息子がパウパトロールの映画を見ている間に、庭にほったらかしていた鉢を片付けて、子供達のドロドロになった靴や上履きを洗って干した。いい天気が続くみたいだから乾くだろう。並んで干された靴たちは、ぴかぴかした日差しを気持ちよさそうに浴びている。近所の子犬と少し遊ばせてもらう。人懐こくて飛びついてきたのでなででやると嬉しくておしっこをちびっていた。かわいかった。

コンポストに生ゴミを入れるついでに、職場で頼まれていた虫を捕まえる。うぞうぞとした白い幼虫たち。これが仕事場で展示飼育しているまだ小さなカエルの餌になるのと、いつもお世話になっている同僚への手土産になる。

ここまでいい餌はなかなかないので、湧いているとまとめてとっておく。コンポストの心配ランキングナンバーワンの「虫が湧く」らしいけれど、爬虫類とか両生類を飼えば自家発電的に餌が手に入るので重宝するのにな、と思う。そして刺したり害のある虫はほぼ湧かず、もりもり生ゴミを食べてくれる優秀な分解者でもある。ある人間にとっての「気持ち悪い」なんて、べつの人間にとっては「かわいい」にすらなり得るのだ。

あらかた雑事を終えて、息子を連れて公園まで散歩に行く。図書館で本を返して、予約本を受け取って、静かな日曜日の小さな児童公園。蝉を何匹も捕まえた大きな欅の木を、滑り台を撤去・新設するために伐採するという。フェンスに囲われた大きな木は、薄緑や黄色の葉をたくさん茂らせていて、見ていて胸がつまった。なんでそんなことのために、きられなきゃいけないのか、わかんないね。と樹皮をなでる。

息子のことをカメラで撮る。ひさしぶりにPENFT。光が綺麗で、きらきらとして、たのしそうで。何枚もとった。

お昼は夫が買ってきてくれたからあげ弁当を美味しく食べたらしい。お弁当屋さんで頼まれたんだというテレビの取材が家に来ていた。やさしい感じのディレクターさんでほっとして、挨拶をして家を出た。私はごはん食べる時間なく、朝ごはん遅かったしいいかと思いつつ出発。

後から聞いたら娘はとってもにこにこしながら完食したらしい。数秒でも使われそうな気がする。
自転車を漕ぎながら散らかった部屋が映ると思うけれどまぁそれも日常と思った。

午後は市民活動センターでめかいの講座、4回目。受付をするときに「特訓席です」と言われる。きのう仕事で3回目をお休みしたので、二日分の工程を一日でこなすための特訓席だったのでした。早くくればよかったともいながら教えてもらってソコフミ、用意してもらったヒネを三本組み合わせ、そこから六目編みにしていく。編むことで目が組まれ、外れなくなる不思議。前は頭で考えてこんがらがっていたのが、今日は手がそれなりに覚えていて、手の動きを後から頭で確かめる感じだった。

教えてくれた方が中川原さんの籠が好きだそうで、手提げに今日は道具を入れていたので色々お話ししながら作業した。別府の竹細工のことやメカイの地域差についても教えてもらえた。そして彼女は、すばらしく籠編みを教えるのがうまかった。手を極力出さない、要所要所の解説は丁寧に、質問にも丁寧に、何度でもおしえてくれて、実演が上手い。おかげさまで周りにもおどろかれるほどスイスイ編めた。

手を動かしているといろんな思考が現れては消え、また目の前に集中して、というのを繰り返す、一種の瞑想のようだった。

行く前は一回休んでしまったこともあったり、1回目で「かなり向いてないんじゃないか?」と思ったりもしたけれど、ペーパーコードより、あきらかにアズマネザサのひねで作ったカゴは美しく、手も慣れてちょうどいい塩梅になって嬉しかった。

カゴを作っている時、中川原さんのカゴ作りの実演を思い出していた。何度も見た。何時間も見た、さらさらとあけびの蔓が床を踊る音、そして手の中でしなやかに自在に曲がる蔓、またたくまに編み上がっていくふっくらとした籠。手と蔓の間にうまれゆく美そのものを、飽きることなく観ていた時間が、こうして今の私を作っていて、確実にその時にわたしは何かを、受け取っていたのだと考えると、感慨深いものがあった。

帰る頃には頭がぼうとして、指先が冷たかった。お昼を食べそびれていたなと一階の食堂のようなところであたたかなうどんを食べたら、あたたかくて、優しい味で、落ち着いた。
暮れて冷え始めた道を自転車を漕ぎながら帰った。次で最後だと思うと少し寂しい。そして今日ちゃんといって良かったと思った。

家に帰って作ってもらった鍋を食べて、仕上げの雑炊は担当してお腹が膨れるほど食べた。寝る前は昨日読めなかった本を二冊読んだ。「かしこいさかな」と「きんぎょすくいめいじん」読み聞かせはちょっとめんどくさいけれど、この頃は子供が図書館や学校で自分で選んでくるので、知らない本ばかりでうれしい。

小さい子特有の何回でもこの本がいいの!もう一回読んで!は、飽きっぽい私にとってはなにか苦行の一種かな?と思ったほどだったから。

絵本の世界は想像力が羽ばたいてできている世界だから、子供のことを考えて作られている世界だから、かなしくともやさしいし、励まされる気がする。

明日はめずらしく月曜日だけれど仕事。今日は早く眠る。おやすみなさい。

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