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【2023夏】甲子園出場校の地方大会データ分析 打撃編

夏の甲子園も大会5日目を迎える。
今更感はあるが、今大会の各地方大会のデータを分析してみた。

今回は打撃データ編から。

データ分析とは何か

先日、ある論文を読んで面白い気付きがあった。
日本の某大学の研究の論文なのだが、
「野球で勝利と相関関係が最も強い指標は何か?」
というものである。

この論文では
「野球で勝利と最も相関関係が強い指標は長打率である」
と結論付けている。

ただこれはシーズンの長いプロ野球のデータからの研究であり、これがそのまま高校野球に当てはまるとは思わない。

ただ私もデータ分析を行う者として言うと
近年の甲子園大会、特に夏の大会で長打率と勝利は相関関係が比較的強いのは事実である、と考えてもいる。

ただ私が言いたいのは「甲子園大会の優勝と長打率の相関関係はそれほど強くない」と言う事だ。

つまり「長打率の高いチームが勝つ確率は高いが、優勝するには別の要因が必要である」というのが私の印象である。

今回は例年通り、打撃に関しては総合指標であるOPS(出塁率+長打率)を中心に、選球眼、機動力を分析してみようと思う。

ただ高校野球のデータ分析をする上で
①地方大会の試合数の少なさ
②各地方大会および対戦相手のレベル

上記2点を踏まえておかないといけない。

高校野球において「データはあくまでデータ」であり、「実力を示すものではなく、戦い方の傾向を掴むもの」と認識しておく必要がある。

①総合指標 OPS

セイバーメトリクス分析で用いられる打撃の総合指標がOPSだ。
これは出塁率+長打率で求められる。
ただデータ分析の上で「長打率」とは「長打を打つ確率」ではなく、塁打数に関連するという点に注意していただきたい。(2塁打は2、本塁打は4で計上される)

チーム単位で見るとOPSが高いチームは一般的に
・相手投手がアウトをとりにくい打線
・走者を効率よく進められる打線
と考えられている。

OPS上位10校
1 智弁学園(奈良)1.212
2 東海大甲府(山梨)1.153
3 聖光学院(福島)1.128
4 仙台育英(宮城)1.109
5 日大三(西東京)1.079
6 慶応(神奈川)1.053
7 東京学館新潟(新潟)1.007
8 浦和学院(埼玉)1.000
9 近江(滋賀)0.988
9 八戸学院光星(青森)0.988

OPSは一般的に1.000を超えると「非常に優秀」と考えられている。
今大会で言うと8位の浦和学院までが「非常に良い打線」と言えるだろう。
ランキング上位には、やはり力のある学校が並んでいる。

意外なのが、もうすでに敗退した東京学館新潟と近江が上位にいることかもしれない。(浦和学院も敗退しているが打力は見せつけたと解釈)

東京学館新潟が上位にいるのは、地方大会で四死球を多く選んだことによる出塁率の高さが7位になった要因となっている。

また近江はOPSが上位と言う事よりも、チーム打率が1位の.435を記録したにも関わらずOPSでは9位に下がっている点に注目すべきだ。
これは近江の長打の少なさが影響しており、近江の初戦敗退は冒頭で述べた「長打率と勝利の相関関係」を示す結果になったとも言える。

ただ昨年度のデータに目を向けると、優勝した仙台育英と準優勝の下関国際の地方大会のOPSはそれぞれ34位、35位と平均以下の数値だった。

つまりデータはあくまでデータであり、各校の実力を示したものではないという点はご理解いただきたい。

②選球眼 BB/K

筆者が甲子園大会で最も重要視しているのが「選球眼」である。
負ければ終わりのトーナメント戦では、いくら戦力が整っていたとしても、試合展開次第でどうしても実力が発揮できないまま終わってしまうケースがある。
その最たるものが「ボール球に手を出してしまう」というケースだ。
ボール球に手を出すことで、相手投手を助けてしまい、自チームはリズムに乗れないまま終わってしまうパターンに陥りやすい。

選球眼を見る指標としてはセイバーメトリクスではBB/Kと言う指標が用いられる。これは単純に四死球数を三振数で割ったものだ。

出場校のランキングは下記の通り。

BB/K 上位5校
1 智弁学園(奈良)13.00
2 聖光学院(福島)7.60
3 近江(滋賀)3.00
4 東海大甲府(山梨)2.82
5 専大松戸(千葉)2.56

智弁学園、聖光学院は三振数が極端に少ないのが好結果につながった。
これはチームとしての傾向とも言えるが、対戦相手の投手レベルにも大きく左右されるという点も踏まえておく必要がある。

ただ両校ともにデータ通り、初戦の英明・共栄学園戦でそれぞれ四死球から多くのチャンスを作った点は見逃せない。

逆に近江は大垣日大・山田投手の際どいコースへの絶妙な制球力に手を焼き、最後まで打線がリズムを作れなかった。近江にとって大垣日大・山田投手は最も避けたい投手の一人だったとも言えるだろう。

③機動力 一試合平均盗塁

冒頭で述べたデータ研究者の論文では
「盗塁数は勝利と相関関係が低い」と言う記載もあった。

ただ筆者は高校野球においては「盗塁数データは最もチームの特色がつかみやすい指標である」と考えている。

それは打撃指標・選球眼と違って、盗塁をはじめとした機動力は「自チームから仕掛けるもの」だからだ。

ちなみに昨年優勝の仙台育英は、打撃指標は全てランキング平均以下だったが、一試合平均盗塁だけは断トツの1位だった。

それも踏まえて今年のランキングを見てみよう。

一試合平均盗塁数 上位5校
1 仙台育英(宮城)3.8
2 聖光学院(福島)3.0
2 大垣日大(岐阜)3.0 
2 いなべ総合(三重)3.0
5 専大松戸(千葉)2.8

今年もトップは仙台育英だった。
ここからも須江監督の走塁への意識の高さがうかがえる。

2位の聖光学院は共栄学園戦で5つの四死球を選び、9盗塁を成功させた。
中盤のビッグイニングを作ったのは紛れもなく機動力による攪乱であった。

また同じく2位の大垣日大も初戦の近江戦で序盤から積極的に4盗塁を成功させ、完全に試合の主導権を握り、名将・阪口監督の試合運びの巧さが如実に出たと言えるだろう。

打撃成績まとめ

上記の地方大会のデータ3指標から、対戦相手のレベルを考慮せずに考えると下記2点が示される。
①智弁学園、東海大甲府の打撃技術の高さ
②聖光学院、仙台育英の攻撃バランスの良さ

次戦で聖光学院vs仙台育英戦となるが、両校ともにデータを踏まえた上で観戦すると、さらにお楽しみいただけるのではないだろうか。

また冒頭で
「勝利との相関関係が最も強いと言われている」
と述べた、長打率ランキングは下記の通り。

長打率 トップ10
1 智弁学園(奈良).750
2 東海大甲府(山梨).667
3 仙台育英(宮城).648
4 日大三(西東京).639
5 聖光学院(福島).623
6 慶応(神奈川).614
7 浦和学院(埼玉).575
8 専大松戸(千葉).556
9 八戸学院光星(青森).551
9 明豊(大分).551

打撃に不安のあるチーム

これらの打撃指標は、逆に打撃に不安を残すチームを探す事もできる。
各指標のワースト5も併せて記載しておく。

OPS(総合指標) ワースト5
1 高知中央(高知).541
2 鳥取商(鳥取).594
3 創成館(長崎).617
4 宮崎学園(宮崎).661
5 市和歌山(和歌山).674

BB/K(選球眼) ワースト5
1 高知中央(高知)0.38
2 宮崎学園(宮崎)0.39
3 共栄学園(東東京)0.56
4 浜松開誠館(静岡)0.57
5 徳島商(徳島)0.70

総合指標・選球眼ともにワースト1となった高知中央は県大会が4試合と少なく、そのうちの2試合が明徳義塾・高知という強豪との連戦であったというのが大きな要因である。
この数字は逆に「投手戦を制した」とも言えるのでマイナスで考えるべきではないだろう。

一試合平均盗塁(機動力)
1 鳥取商(鳥取)0.3
2 九州国際大付(福岡)0.3
3 おかやま山陽(岡山)0.4
4 沖縄尚学(沖縄)0.4
5 日大三(西東京)0.5

上述した通り盗塁数はチームの戦い方の傾向を見るためのものである。
便宜上ワースト5を選出したとはいえ、走者の進め方はチームの作戦であり、そもそも優劣を意味する順位ではない点はご理解いただきたい。

また総合指標の数値が悪く「打撃に不安が残るチーム」であっても、忘れてはいけないのは「打撃成績が悪いにも関わらず地方大会を勝ち抜いた」と言う事実である。

つまり打撃の不調を補うほかのプラス要素を持っているから勝ち進んだ、とも言い換えられる。

地方大会で不調であったチームが課題を見つけて改善し、
甲子園で成長した姿をみせる。

問題を見つけて改善し、チャレンジする

球児だけではなく、我々社会人にとっても、
これ以上成長する学びが果たして他にあるのだろうか?

球児がチャレンジを続け、成長した結果
私の分析した予想がことごとく外れてしまう

データ分析をする者にとって、これこそが最大の喜びなのです。

甲子園ラボ

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