【2023夏】甲子園出場校の地方大会データ分析 投手編
2023年の夏の甲子園大会も1回戦が終了し、2回戦に突入している。
今更ではあるが、ここで一度各地方大会のデータ分析の結果を記しておこうと思う。
地方大会は各都道府県で試合数も対戦相手のレベルも異なるため、データからそのままチームの優劣を判断するのは危険である。
しかしデータ分析によって、各校が甲子園を手繰り寄せる勝因となったポイントは理解することが出来る。
今回は投手編。
投手データを分析するには
データの少ない高校野球において投手力の分析は非常に難しい。
投手の総合指標として日本では防御率が使われるのが一般的であるが、試合数の少ない高校野球においてはあまり意味をなさない。
そのため筆者は基本的に、セイバーメトリクス分析で用いられるWHIPSという指標を中心に考えている。それにプラスして一試合平均奪三振数で投手のタイプと傾向を掴み、一試合平均四死球数で制球力を判断している。
また現代の高校野球においては、複数の投手を起用し勝ち上がるのが一般的になっている。
地方大会の試合数は各都道府県で4~8試合とバラつきがあり、データ数が少ない。その上、投手の個人データで見るとイニング数が少ないため、正確な情報が得にくいのが現状である。
個人的には30イニング以上投げた投手で考えると、ある程度の説得力を有すると考えるが今大会で30イニング以上投げた投手は15名しかいない。
よって個人ランキングは15イニング以上投げた投手という括りで紹介したい。
今回はまず比較的長いイニングを投げた投手個人別のランキングを紹介した後で、チームとしての投手力分析を中心に考えて行きたい。
①WHIPS(投手総合指標)
セイバーメトリクス分析で用いられるWHIPSと言う指標は、
「1イニングに背負う走者の数」
を数値化した指標である。
好投手の定義は難しい。
好投手の条件として「三振を多く奪う投手」と言う視点で語られるケースも多いが、筆者はこれには否定的である。
「三振」と言うのはあくまでアウトの種類であり、三振を多く奪ったからと言ってアウトが2つ取れるわけではない。
判断すべきは「いかに安定していたか」と言う点である。
それも踏まえると高校野球に関しては「相手にチャンスを作らせなかった投手」つまり「背負った走者が少ない投手」こそが好投手に近いのではないか、と筆者は考える。
WHIPSトップ10 個人(15イニング以上)
1 鈴木 (浦和学院)0.61
1 福田 (履正社)0.61
3 高尾 (広陵)0.67
3 東恩納 (沖縄尚学)0.67
5 岡田 (北海)0.70
6 日野 (立正大淞南)0.72
7 浅田 (宇部鴻城)0.73
8 中山 (明豊)0.74
9 森 煌誠(徳島商)0.76
9 田端(九州国際大付)0.76
WHIPSトップ10 チーム別
1 仙台育英(宮城)0.67
2 徳島商(徳島)0.76
2 広陵(広島)0.76
2 沖縄尚学(沖縄)0.76
5 履正社(大阪)0.77
6 土浦日大(茨城)0.81
7 九州国際大付(福岡)0.83
8 近江(滋賀)0.90
9 市和歌山(和歌山)0.91
10 宇部鴻城(山口)0.92
個人ランキングで名前が上がらない仙台育英がチーム別だと1位となる。これは仙台育英の投手陣のイニングが15イニング以下なのが理由である。
また個人ランキングのイニング数を30イニング以上に絞ると
広陵の高尾投手、沖縄尚学の東恩納投手、徳島商の森投手、九州国際大付の田端投手の4名が抜群の安定感を誇る大エースと言えるだろう。
②一試合平均奪三振
三振というのはアウトの種類であり、多くのアウトを取ったからと言って好投手とは言えない
と書いたが、選手個人の将来性であったり投球の傾向を掴むためには重要なデータでもある。
この項目は個人能力を図るためのものなので、チーム別にしてもあまり意味がない。よって今回は個人ランキングのトップ10人のみ掲載しようと思う。
1試合平均奪三振トップ10
個人(15イニング以上)
1 小松(花巻東)14.94
2 高尾(広陵)11.50
3 平野(専大松戸)11.17
4 黒木(神村学園)11.08
5 鈴木(浦和学院)11.00
6 岡本(八戸学院光星)10.92
7 増田(履正社)10.88
8 新岡(クラーク国際)10.53
9 梅沢(専大松戸)10.26
10 福田(履正社)9.50
1位の小松(花巻東)と2位の高尾(広陵)がともに2年生と言う興味深い結果になった。
また専大松戸と履正社には平野・梅沢(専大松戸)、増田・福田(履正社)という三振の取れる本格派が複数いるというのもチームの強みを示している。
③1試合平均与四死球
投手の能力で最も重要なのは当然ながらコントロールである。
いくら速いストレートを投げることが出来ても、ストライクが取れなければ打者を抑えることは出来ない。
今大会出場校で四死球が少ない投手陣は下記の通り。
1試合平均与四死球トップ10
個人(15イニング)
1 高尾(広陵)0.5
2 涌井(東京学館新潟)1.00
3 東恩納(沖縄尚学)1.15
4 水野(いなべ総合)1.27
5 栗谷(市和歌山)1.45
6 鈴木(浦和学院)1.50
6 日野(立正大淞南)1.50
8 服部(上田西)1.65
9 十川(立命館宇治)1.83
10 渋谷(文星芸大付)1.89
1試合平均与四死球トップ10 チーム別
1 いなべ総合(三重)1.07
2 仙台育英(宮城)1.15
3 広陵(広島)1.26
4 沖縄尚学(沖縄)1.50
5 九州国際大付(福岡)1.67
6 近江(滋賀)1.85
7 土浦日大(茨城)1.88
7 文星芸大付(栃木)1.88
9 宇部鴻城(山口)1.89
10 市和歌山(和歌山)1.91
上記のチームは、地方大会で「無駄な走者をあまり出さなかったチーム」と言えるだろう。
投手力に不安を抱えるチーム
このランキングはワーストを見ることで「投手力に不安を抱えるチーム」を洗い出すことも出来る。
こちらは個人ではなくチームのランキングのみの紹介とさせていただく。
WHIPS ワースト10
1 共栄学園(東東京)1.63
2 高知中央(高知)1.56
3 聖光学院(福島)1.52
4 東京学館新潟(新潟)1.43
5 東海大甲府(山梨)1.40
6 北陸(福井)1.38
7 富山商(富山)1.35
8 宮崎学園(宮崎)1.33
9 日大山形(山形)1.31
10 川之江(愛媛)1.30
1試合平均与四死球 ワースト10
1 高知中央(高知)9.00
2 共栄学園(東東京)6.88
3 富山商(富山)6.07
4 宮崎学園(宮崎)5.67
5 東海大甲府(山梨)4.93
6 星稜(石川)4.85
7 北海(南北海道)4.68
8 聖光学院(福島)4.64
9 川之江(愛媛)4.25
10 北陸(福井)4.24
これらのチームは地方大会を勝ち抜いたものの、データ上では投手力にやや不安が残る結果であったと言えるだろう。
ただ逆に言うとこれらのチームは
「投手が好成績を残さなかったものの、地方大会で優勝した」
と言う点を考える必要がある。
つまり投手陣の不調を補う要素があるチームである、と言う事はご理解いただきたい。
甲子園ラボ