「美容師」兼「アーティスト」。ヘアスタイル作品をアート化する理由と切実な想いとは? | Ushiさん 美容師 アーティスト #アートをしゃべろう
東京で3店舗のサロンを経営する美容師・Ushiさんと「アート」についておしゃべり。ヘアスタイル作品を「アート化」する理由、そしてUshiさんの考える「アートの楽しみ方」とは?
━━まずは「美容師」としてのUshiさんについて聞かせてください。元々は原宿の某有名サロンで働いていたUshiさんが、自分のお店を持とうと思ったきっかけは何だったんですか?
Ushi:新卒で原宿のサロンに入って、しばらくは「このお店で頑張って、有名になろう!」と思っていました。ただ、組織が大きいのもあって、なかなか自分の思うようにはいかなくて……。これは自分でやるしかないなと思い、自分でお店を出すことにしました。
ただ、元々ひねくれた性格なのもあって、周りと同じようなことはしたくなかったんですよね(笑)。なので、同じキャリアの人なら青山や銀座のようなおしゃれなエリアに出店すると思うのですが、僕は共同経営者の地元だった世田谷の千歳烏山エリアを選びました。本人は最初嫌がっていましたけど(笑)。
━━Ushiさんの経営するサロン「MaNO」の店名には、アートにまつわる由来があるとか。
Ushi:はい、髪を切りながら世界一周していた時期があったのですが、その旅のスタートがニューヨークの「MoMA(ニューヨーク現代美術館)」だったんです。そこで見た光景は、日本の美術館とはまるで違っていて。みんな当たり前にロッカーへ荷物を預けて、リラックスした状態でアートを眺めたり、子供たちが床に座ってアートを観たりしていたんですよね。その自由なアートとの関わり方に感銘を受けて、お店の名前を「MoMA」に近いもので探したところ、スペイン語で「mano」という単語を見つけたんです。意味も「手」だったので、手で仕事をする美容室にちょうどいいなって。
ヘアスタイル作品を「アート」に
━━現在、美容師の仕事とは別に、ヘアスタイル写真を軸にしたアート作品を制作するUshiさんですが、ヘアスタイル作品を「アート化」しようと思った経緯は何だったのでしょうか?
Ushi:美容業界では、お客様向けのヘアカタログ撮影とは別に、もっと非日常的でクリエイティブなヘアスタイル作品を作って競うコンテストがあって。そこで賞を取ると、業界誌に掲載されたり、業界内ではかなり名誉あることなので、多くの美容師が入賞を目指して作品づくりに励むのですが、実は業界外ではほとんど知っている人がいないし、その作品を観てもらう機会もないんですよね。
━━たしかに、一般的には知られていないですよね。
Ushi:もちろん、数多くいる美容師の中でいちばんになることは、美容師として十分なやり甲斐を感じることができるのですが、1つの作品を命懸けで作る「クリエイター」としては、その現状が何だか悔しくて。もし、ヘアスタイル作品が「アート」して、業界を超えて評価されるようになれば、もっと世界が広がるし、楽しそうだなと思ったのがきっかけですね。
━━UshiさんがSNSなどで発表する作品は、いわゆるコンテスト作品と比べて、ポップでユーモアのある作品が多いように思います。それには、どんな意図があるのでしょうか?
Ushi:もちろん最終的な目標としては、ヘアスタイルの部分で評価をして欲しいと思っているのですが、僕らのコンテスト作品が一般の方から理解されにくい世界観であることは、僕としても十分理解しています。なので、まずはヘアスタイルという点にとらわれすぎず、アートとして面白いものを作ることから始めようかなと。本当の目的とは少し違う形ですが、色々な人に興味を持ってもらったり、購入していただけるのはすごく嬉しいですね。ホームレス小谷さんファンの方や、SNSで知っていただいた方、中には面識のない美容業界の方も購入してくださいました。
日本の「ヘアスタイル」は超ぶっ飛んでる!
━━この先「ヘアスタイル」を軸に、どのようなアートを作っていく予定ですか?
Ushi:アートとして残り続ける作品を作りたいと思っています。そのために「時代」を表すことは大切にしたいですね。
歴史を遡ってみると日本のヘアスタイル文化ってすごく面白いんです。分かりやすく言えば「ちょんまげ」。日本人って時代劇とかを観ているので、それを当たり前と思っているんですけど、世界的に見るとかなりおかしい髪型なんですよ(笑)。頭の真ん中を剃ったり抜いたりして、まわりをロン毛にして綺麗に束ねるヘアスタイルが、民衆の中で成り立っていたなんて、どう考えても変ですよね。ましてや、刀を腰に携えて、失敗したら切腹なんて……(笑)。
━━たしかに、だいぶぶっ飛んでますね(笑)。
Ushi:他にも、ギャル男の「筋盛り」なんかもなかなか奇抜な髪型ですよね(笑)。そういった歴史を持つ民族の血を引く自分は、世界で勝負するとき、めちゃくちゃ強いなって思ったんです。大きな話になっちゃうんですけど「現代の髪結師」というポジションで、このぶっ飛んだヘアスタイルを継承していきたいなって。過去~現在までのさまざまな要素を取り入れたぶっ飛んだ作品を、絶賛制作中です(近日中にSNSなどで発表予定)。
言葉にできない「直感」を大切に
━━Ushiさん自身は、普段どのようにアートを楽しんでいますか?
Ushi:東京に住んでいることもあり、美術展へ足を運ぶことは多いですね。最近は、自宅でもお気に入りのアートを飾って楽しんでいます。
━━自宅にアートを飾ることに対して、ハードルを感じたことはありますか?
Ushi:ありますね(笑)。元々アートは好きだったので、欲しいな、飾りたいなとは思うものの「自分の家には合わないかも……」と、なかなか勇気が出なくて。
でも実際に飾ってみると、考えはガラリと変わりました。家に合うかどうかよりも、好きなものを近くに置いておくことが大切なんだなって思うようになったんです。自分の好きなものが近くにある生活って、単純にすごく気持ちいいんですよね。
━━Ushiさんがアートを選ぶ「基準」は?
Ushi:「直感的なインパクト」ですかね。元々は「直感」という言葉に、あまりピンときていなかったのですが、色々な文献を読むうちに、直感ってものすごく価値のあるものだと思ったんです。この先、AIが発達していく中でも直感という感情って作れないらしくて。つまりは人間にしかないもので、ましてや人間の中でも「その人」にしかないものなんですよね。
投資目的のアートならまた別だと思うのですが、自分のために飾るアートであれば、「直感」で好きと思えるものを選んで、近くに置いておくのが、きっといちばん幸せだと思うんです。
特に、Casieの場合はそれを何度でも体験できるので、「言葉にはできないけど好き」という素直な感情に従って選んでみては?