美大出身"言葉のプロ"が考える「描く」と「書く」の関係性|森田哲生さん コピーライター #アートをしゃべろう
コピーライターの森田哲生さんと「アート」についておしゃべり。森田さんは、数多くの広告やウェブサイト、看板などでコピーライティングを手がける“言葉のプロ”ですが、実は美大出身。在学中のエピソードから、アートの選び方まで。森田さんが考える「描く」と「書く」の関係性とは?
美大出身コピーライター?
━━コピーライターとして活躍する森田さんですが、経歴に「多摩美術大学卒」とあるのが意外でした。美大在学中は、どんなことを勉強をしていたのでしょうか?
森田哲生(以下、森田):美術館で開催している企画展示のキュレーションや、日本美術史~現代アートまで幅広く学んでいました。作品を観て感想を述べたり、美術館や画廊をひたすら回ったり。たとえば、既製品の便器を用いた作品《泉》で知られるマルセル・デュシャンの《停止原器》という作品の模倣作をみんなで作って追体験して、そこにある「意味」を考えながらレポートを書いたりするんです。そういうのをずっとやっていて、とにかく色々なことの「意味」を叩き込まれる毎日なので、いつの間にか、そこらへんに落ちているゴミにも意味を見出すようになっていましたね(笑)。
━━森田さんは、元々アート好きだったんですか?
森田:幼い頃から、なんとなく「クリエイティブなことがしたいな」とは思っていましたが、特別アート好きだったわけではないですね。元々は広告関係の勉強ができる大学に進もうと思っていたのですが、国語だけ異常にできて、ほかの教科が全くできなかったので試験に落ちてしまったんです(笑)。なので、(当時は)ほぼ作文だけで入れた多摩美術大学美術学部芸術学科に入学しました。入試のために美術史はある程度勉強したものの、アートの知識がほとんどなかったので、同級生からは「こいつ全然アートに興味ないじゃん」って思われていたと思いますよ。
━━お話を聞いていると、美大の中でも少し異質な存在っぽいですよね(笑)。
森田:そうだったと思います。そんな中で「僕は、どんな表現ができるんだろう」と考えたとき、やっぱりいちばんに思い浮かんだのは「文章」だったんですよね。周りの同級生は、描く才能はあるけれど、言語表現やコミュニケーションが苦手だったりする。なので、絵がうまい友人と企業の間に入ってディレクションを担当したり、他学科の企画展コンセプトを書いたり、広報誌や芸祭のパンフレットを作ったり、僕の得意分野を活かせる活動をしていました。中でも、パンフレットのインタビューで、CMディレクターの中島信也さんや、漫画家の古屋兎丸さん、しりあがり寿さん、美術評論家で当時の学長だった辻惟雄さんらとお話できたのは、すごく思い出深いですね。
「描く」と「書く」の関係性
━━卒業後は、どのような経緯でコピーライターになったのでしょうか?
森田:実は、卒業して4月までは地元のラーメン屋で働いていたんですよ。「4月になったから、そろそろ就職しようかな」って、もう遅いんですけど(笑)。
そこから、たまたま編集プロダクションに声をかけてもらって、雑誌の編集や、旅行パンフレットの制作、広告制作会社などの仕事を転々としたあと独立。15年前にコピーライター事務所「Rockaku(ロッカク)」を設立しました。
社名は、書く道具のひとつである「鉛筆」のかたちから。これまでたくさんの仕事を手がけてきましたが、その根底にあるのはいつも「書くこと」なんですよね。この先もきっとそれは変わらない。これからも“よき鉛筆”を目指して、身を削ったり、先端を尖らせたり、丸めたりしながら前進していけるようにと願いを込めてつけました。
━━コピーライターという仕事に馴染みがない人も多いと思うのですが、森田さんなりに定義するとしたらどんな仕事ですか?
森田:会社や人によって定義が違ったりもしますが、簡単に説明するならば「事業や広告の中で必要とされる言葉全般とコミュニケーションを設計・表現する人」だと思います。具体的な仕事内容としては、広告、ウェブサイト、プロダクト、セールスツールなどの企画制作や、企業やブランドの理念開発、コンセプトワークなどを手がけることが多いですね。また、編集者やライターとして仕事をすることもあります。
━━美大で学んでいたことと繋がる部分もありそうですね。
森田:そうですね。特に現代アートなんかは「コンセプト=概念」から作られるものだったりするので、僕の仕事とも繋がる部分は多いと思います。考えてみると「(絵を)描く」と「(言葉を)書く」は、どちらにも“表現する人”がいて、その延長線上には“どう置いて、どう観るのか”があるという点では同じですよね。
極端なたとえですが、同じ「とびこめ!」というメッセージであっても、それが遊園地やプールにあるのと、駅のホームにあるのとでは大きな違いがあるじゃないですか。
僕らコピーライターは、そういった意味を限定して正確に届けるのが仕事だけど、あえて色々な解釈をできるように、ひろげておいた方が面白い場合もあったり。これって、絵画を飾る上でも同じだと思うんです。飾ることって、ある意味「編集」だと思うので。
お洒落じゃなくてもいいから「洒落」があって欲しい
━━さいごに、森田さん自身のアートの楽しみ方を教えてください。ご自身が気に入って飾っているアート作品はありますか?
森田:美大の後輩でもあるおくさんが昔描いたキャンバス作品を2つ、事務所に飾っています。本人がふざけて描いたものを、僕が気に入ってしつこく飾っているだけなんですけど(笑)。なので、アート作品の購入・所有は未経験なんですよね……。だからこそ、Casieがやっていること、起こしている変化はすごいなと思っています。今まで「買う」か「観にいく」しかなかったところに「借りる」という新しい選択肢が生まれたことで、僕を含め、たくさんの人が入り口に立ちやすくなりましたよね。
━━森田さんが新しくアートを飾るなら、どんな基準で選びますか?
森田:自分の中でテーマを設けて物を選ぶのが好きなので、テーマに沿って選んでみたいと思います。これは絵画以外でもよくやっていて、たとえば事務所の家具を選ぶときも建物と同世代の家具を探したり、家具や腕時計などをオレンジ色で揃えたり。あえて絞り込むことで、今まで目が向いていなかったものに興味が湧いてきたり、新しく見えてくる世界があるんですよね。
━━確かに、あらかじめテーマを決めて、その中から選ぶのは楽しそう!
森田:絵画だったら、周りのインテリアや雑貨に合わせて「動物」「空」のような、自分キュレーションを楽しんでみたり、会社のテーマカラーやお店のコンセプトに沿った作品を飾るのもアリですね。僕は「なにこれ?」って言われて説明したら「へー!」ってなる面白さが大好きなんです。たとえば、僕が普段使っているバックパックは、チェコの建築家が趣味で作ったものなんですよ。もちろん最初は見た目に惹かれるんですけど、話をするのが面白いものって、さらに魅力的ですよね。絵画も同じで「実はこんな人が描いているんだ」とか「ここにこんなものが描いてあるよ」とか話せると、飾る側も観る側も、より楽しめると思います。もちろん描いた側の意図もあるけれど、飾る人がどう楽しむか、どう見せるかもアートの醍醐味だと思うので。
アートもアート以外も、お洒落じゃなくていいから「洒落」のある選び方をしていきたいですね。
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