「週1日、4〜5時間からOK」のデイサービスの求人を見つけて介護の仕事を始めたとき、最初に読んだ介護についての本が『ユマニチュード入門』だったから、今も介護の仕事ができていると思っている
その求人広告は、かなり慌てて作られたようだった。
2018年3月。
求人広告を見ながら電話連絡をして、面接に行ったときに「週に何日働けますか?」と、やりとりの合間合間に何度か質問された。
求人広告を持っていたので、「すみません、この広告を見て、週1日、4〜5時間なら働けると思って、面接にうかがったのですが…」と、正直に伝えたら、面接担当の2人の女性は、一瞬言葉を失っていた。
それはそれとして。
数週間後、1日勤務体験をさせてもらったあと、土曜日の午後だけ、パートタイムでの勤務が決まった。
午後だけなので入浴介助はしなかった。
トイレ介助、車椅子を使っている利用者さんの移乗、昼食時の配膳と見守り、口腔ケア、レクリエーション、帰りの送迎車への添乗などが仕事だった。
私の教育係の先輩は2人。そのうちの1人、Aさんから「介護は、食事、入浴、排泄のお世話をするもの」と教わった(のちに、それは少し前の考え方だということを知ることになる)。
Aさんは、利用者さんにも私にもなかなか厳しいところがあって、一緒に仕事をしながら「きついな〜」と思うことがたびたびあったが、根はとてもやさしい人だということが徐々にわかってきた。
土曜日に通うようになって1カ月ほど経ったころ、Aさんから1冊の本を渡された。
『ユマニチュード入門』
「いい本だから読んでみたらいいと思って。私のじゃなくて、ここの本だから、読み終わったら裏の本棚に戻しておいて」と、わりとそっけなく言われた。
「さまざまな機能が低下して他者に依存しなければならない状況になったとしても、最期の日まで尊厳をもって暮らし、その生涯を通じて〝人間らしい”存在であり続けることを支えるために、ケアを行う人々がケアの対象者に『あなたのことを、私は大切に思っています』というメッセージを常に発信するーーつまりその人の〝人間らしさ“を尊重し続ける状況こそがユマニチュードの状態であると、(著者の)イヴ・ジネストとロゼット・マレスコッティは1995年に定義づけました。これが哲学としてのユマニチュードの誕生です」(「はじめに」より引用)
実際には、本に書いてあることのごくわずかしか実践できなかったし、今でも実践できていない部分が大きいけれど、「ユマニチュードを知っているのと知らないのとでは全然違う」「最初に読んだ本がこれだったから、今も介護の仕事ができている」と思っていて、Aさんへの感謝の気持ちは尽きることがない。