人と比較し続けた人生から解放された今日までのこと【7】
33歳の今、人と比較することを辞める術を見つけて、人生で1番体が軽い。
今日までのことを、ここにつらつらと書いていこうと思う。
【1】はこちらから
3社目の会社
私は東京でPR業とコンサル業を主とする仕事に就いた。
小さい会社ではあったけれど、少数精鋭で頭のキレる人ばかりだった。
社内ではカタカナが飛び交っていた。
初めて先輩から依頼された仕事は「クライアントがローンチするプロダクトのプレスリリース作って」だった。
接客業しかしてこなかった私には、あまりにカタカナだった。
数学講師がドイツ語を話しているように感じたあの日を思い出した。
誰に何をしていいのか、一つもわからなかった。
全ての言葉を検索しながら、必死についていこうとした。
毎日夜中の2時まで働いた。
働いて、働いて、働いた。
それでも仕事量が少ないと怒られる日々だった。
前の席の男の子はいじめられていた。
私は東西線で通勤していた。
都内でも最も利用者の高い沿線と言われ、その乗車率は180%を超える。
肋骨が折れるか、窒息死するか、どちらかは必ずいつかするだろうと思いながら電車に乗り、死にかけながら通っていた。
その頃、大学生の頃から長年私に好意を持ってくれていた先輩と付き合うことになった。
「結婚を前提に」という話だった。
それまでも何人かと付き合ったけれど、これほど長い間(多分5年くらい)私を思ってくれている人はいなかった。
彼は付き合ってからも信じられないほど優しかった。
SNSの中の私は、キラキラと生活していた。
華やかな業界で働き、優しい彼がいる東京での暮らし。
私だって東京で活躍していると、誰かに思って欲しかった。
そんなことに注力すれば、当たり前に貯金はすぐ尽きた。誰にも言えなかった。
友人たちからは「いつもキラキラしてるね」というコメントがあった。
空虚な目でそのコメントを見ていた。
家族は一度も私には会いに来なかった。
東京にいる姉も、一度も私の家には来なかったが、たまに都内で会った。
姉は「私の上京の際には、母や叔母が荷解きをしにきてくれた」と話した。
もちろん、私は1人だった。
その頃の姉は、ビジネス誌でも取り上げられていた。
本当によく出来るキャリアウーマンであり、その美しさからモデルもこなしていた。
どこまでも眩しかった。
真っ青のケツ
私たちが抱えているクライアントは、大手企業が多かった。
ビジネス誌でよく見るような顔ぶれとのミーティングもよくあった。
そんな中、クライアントの社長である1人が私に電話をかけてきた。
何事をやらかしたのかと思ったが、食事の誘いだった。
そのクライアントは、私たちの売上の中でかなり大きな割合を占めていた。
社長は著名人だった。
本を出版し、新聞にコラムを載せ、ビジネスイベントを開けば多くのビジネスマンが話を聞きに来るような人だった。
そして、私は東京にいる全女性の中で最もケツが青い女だった。
なぜ私を誘ってくれるんだろうと不思議に思いつつ、嬉々として食事に行ったのだった。
もしかしたら良く思ってくれているのかなんて、一瞬考えたりした。
その夜、個室でめちゃくちゃ体を触られた。
私は社会というものを知らなすぎたのだ。
私はまだまだ仕事が出来なかった。
打ち合わせでも、私はほぼ議事録係だったので、私の内面なんて知るはずもなかった。
容姿についても、整形は何度もしていたが、それでも人並み以下だった。
原型の見えないギャルメイクはとっくに卒業していた。
つまり、彼が私を食事に誘う真っ当な理由があるはずなかったのだ。
それでも、「もしかしたら何かのプロジェクトで抜擢してくれるかもしれない」と下心がチラついた。だから、本気で嫌がる顔も出来なかった。
そんな自分が惨めで哀れで、滑稽だった。
彼氏には、もちろん言えなかった。
ものすごく大事にしてくれる彼だった。
だからこそ、言えなかった。
次の日も、その次の日も、夜中まで働いた。
毎晩、気絶するようにPCに顔を伏せて寝ていた。
オフィスでは、前の席の男の子がいじめられていた。
気が付けば、病院に行く時間も取りづらくなり躁鬱の治療は止まっていた。
忙殺される日々の中、彼は私にプロポーズをした。
もちろん、私の答えはOKだった。
OKのつもりだった。
「ひとつだけ、その前に伝えておかないといけないことがある」と彼に言われた。
彼は、私の母が熱心に信じていた宗教の3世だった。
全く知らなかった。
彼自身は信仰心が無さそうだった。
だが、ご両親は別だった。
本当に熱心な信者だった。
長男である彼に嫁ぐには、必ずそこに私も名を入れる必要があった。
「信仰の自由」そんなものはもちろん知っている。
差別すべきことでもない。
どうにかできないか、その宗教について勉強した。共感できるところがあるのではないか、関連文庫を読み漁った。
私は彼と一緒になりたかった。
しかし、いくら何を見ても、私にとっては全く共感できるようなものではなかった。
そして、やはり子供の頃からの嫌悪感がどうしても拭えなかった。
何度も何度も話し合った。
何度も何度もぶつかった。
何ヶ月も同じ話をした。
彼の親は私を敵対視した。
頭のおかしい女だと思われていた。
数えきれないほどの喧嘩をして、疲れ果てた。
そうして、私たちは離れることになった。
お互いが好きなままでは、簡単に離れられなかった。
ずるずると側にいて、これではダメだと思い、最終的には嫌われるために最低な対応をし続けた。
しっかり嫌われて、私たちは終わった。
彼も彼の家族も悪く無かった。
私はこの宗教に呪われているのだと思った。
それでも仕事はやってくる。
仕事に追われ、時間は過ぎる。
前とは別のおじさんが私に近づく。
今度は断る。
「女として価値がない」と言われる。
それでも仕事はやってくる。
仕事に追われ、時間は過ぎる。
逆にありがたかった。
月日は経ち、入社して半年が過ぎた頃、体に異変が起きた。