36. 気をつけなはれや!
自由に放牧された牛たちにArkadiaの敷地内に食事に来られるのがちょっとあかんやろ、それ、ということで、そして「ここは私たちの土地です」という正式な意思表示のためにも、外回りに杭を打って有刺鉄線を貼ることに。
本来ならぐるりと石塀を作るのだが、私たちでこれはできるね、とか言いながら春先にやっていたのだが、とんでもない重労働。やってましたよね、確かに、ヘスス軍団が家を作ってる間、道路脇にテント張って、クマ夫とヒーヒー言いながらやってましたよね。あれでも結構コツを掴んで二週目にはなんやかんやとスピードアップしてたんですよ。ですがね、40代後半女性がどれぐらいできるかって話ですよ。数時間作業した後に積み上がった箇所を眺めて「ああ、これを1.5mの高さで総延長60mくらい作るのに何ヶ月かかるんだ」と途方もない迷子感に陥ったことか。
基本に忠実にやってはいるのだが、何せ進まないのよ!
ということで、私の「メキシコの母」の友人の知り合いのところであれこれ作業していた「とても真面目でいい人よ」というアルバニルを紹介してもらう。
エンリケはガタピシ言うピックアップトラックにスコップや猫車などを積んでやってきた。初日は一人で来た。で、現場の様子を見て帰っていった。クマ夫と同じぐらいの、アルバニルぽくない小綺麗な格好で。料金は作業1日$1000pesos(5200円くらい)。アルバニルとしてはこれはちょっと高いけれど、その中には家から30kmかけてくるガソリン代と、自分で持ってくる道具代も入ってる、と。で、明日からは自分ともう一人連れてくるからその料金だ、と。ならばいいでしょう。日当なら、まず数日見て、進度から全体の料金割り出せそうだし。
と言うことで翌日。朝9時にガタピシ言うトラックで彼らがやってきた。
朗らかな笑顔のエンリケと、黒T黒ジャージのダニエル。忙しかったので応対やらなんやらをクマ夫に任せてたのね。チラチラたまに視界に入るダニエルが、黒い洋服を着ているせいだけじゃなく、なんだが黒いモヤに包まれている感じがしてね。はっきり顔を見ることもないまま三日が過ぎた。あらやだわぁ、人見知りするメキシコ人もいるのね、なんて。
作業的には、男二人はボソボソと喋りながら、掘り出した石を積んでそれなりな感じの塀を作っていたけど、ちょっと進度が遅いな、なんて感じてた。午前中と午後の2回、二軒隣のエクトルさん家にコーラを買いに行く。お昼の時間は道の木陰で食事をして休憩している。
月曜日に下見に来て、火曜、水曜、木曜と仕事して、そして金曜日はいつまで経っても来ないと思ったら昼前に電話で「トラック故障してこれない」。まあ、いつものパターン。でもこの三日間で出来上がったのが長さ3m弱の高さ1m。この調子で何週間かかるんだろうか。
期待していたのよりちょっと。。。汚い。。。
翌週月曜日、二人でやってきていつものように作業を始めた。
私が室内で何かやっている時、私自身がちょうど物陰に隠れるような体勢だったときに、開け放たれたドアからダニエルが入ってきて、家の中で何かを探すようにキョロキョロしている。「何か必要なものでもあるの?」と声をかけると、少し驚いて、水が欲しい、という。
その翌日も、私が2階にいる時に同じように入ってきた。手にコップを持っているけれど、水とは関係のない場所に進んでいく。
おかしいだろ。
「水なら今持っていくから」と、上から声をかけると、名残惜しそうに?辺りをもう一度見渡してから出て行った。
おかしいだろ。
こんな時どうする?と頭の中で何パターンか考えてみる。
「必要なものがあるのなら言ってください。家の中に入ってこないでください」
「家の中に入ってきて、キョロキョロ見回してた。何か盗もうとしてるんでしょ。」
「明日からもう来なくていい。信用できない。」
いずれも言ってはいけない。なにしろ、相手は私たちがここに住むことを知っている。逆恨みされたらいけない。
まずはクマ夫に話すと、それはいかん、何かあってから取られてからではいけない、と言うことで、彼らには今日を最後にと言うことにしてもらう。家本体の作業がもう少しかかる、塀の作業スペースが危険なのでしばらく開けてからまた再開しよう。その時にはまた連絡するから、と。嘘も方便。クマ夫は実直すぎて嘘がつけない人なので、ここは私が出ていく。当然、ダニエルではなくてエンリケに。エンリケがこの作業の頭ですもの。単刀直入にスッキリ伝えると、エンリケも快諾。そりゃそうだよね、安全確保で作業したいもんね。
もちろん、彼らに再度連絡をして塀を作りに来てもらうことはなかった。
毎日彼らにコーラを売っていたエクトルさんにそれを話すと、彼も私の意見に同意。「面と向かって顔を見せないような奴は、後ろめたいことしているに違いない。全く信用ならない!最後の日の二人分のコーラ代、払っていかなかったし!」と。やっぱりそうか。
世界中どこでも、メキシコも御多分に洩れず土建業には流れ者が多くいる。特に専門職でもない限り、棟梁の手伝いで来ているチャラン(現場の下っ端)がどこの誰かなんて気にしないし、ましてダニエルなんて本名じゃなくたっていい。私が家の中で見た彼の「物色しているような態度」は、まさに物色していたんだ、と言うことだ。
自分たちの家の中にあるものを、極力人に見せてはいけない。どこでどう、誰と誰が繋がっているかわからないし、たった一日二日働いた人をどこまで信用できるのか、という話。残念ながらこの国では「基本、信じないこと」が、身の安全につながると言っても言い過ぎではない。
と言うわけで、石塀作りは二度目の中断。
仮の境界線を、木の杭と有刺鉄線で張る事にする。
幼い頃からお父さんの農場で働いてきたセサール兄を講師に迎え、木の杭を打つための穴の掘り方、有刺鉄線の張り方を教わる。クマ夫はその後セサール兄とテラス屋根の作業に入ったため、これは私一人で行った。有刺鉄線のロールは300mぐらいあって、一巻20kgほど。これを数メートル毎持って進むのが辛かった。でもやり切った。やり切った後の完成写真は撮ってない!!!
穴掘るのってしんどい